13.親族と出会う
「急成長と言うので、芽が出た位かと思っていました。」
芽というか木だったけど。
一体何がどうしてこうなった。と頭を抱えるヨアヒムさんに一応雷の話と昨日の魔力の話をしてみる。
「雷鳴響けば緑豊かに育ちゆく、というのは有名だし分かるんだが、流石にこの様な事象は・・・
原因はアンリの魔力なのだろうか?
それとも魔素の少ない南方の植物にこの環境を与える事でこうなるのか?
いや、昔南方の花でそれは試したな・・・」
色々と可能性を考えたが、後は専門家を呼んで見てもらう方が良いという事になった。
「これ以上は魔力解析が出来る魔導師に依頼してからにしよう。
原理が分かればより早く色んな植物を育てることが出来る様になるだろうしね。
数十年に一度しか咲かない花も咲かせることが出来る様になるかも知れないだろう?」
ヨアヒムさんがとても良い笑顔で言った。その顔は降霊術の話をしている時のオトフリートさんにそっくりで、親子なんだなぁ、と思っていると話題が変わる。
「ここは楽しい事が多いけど、帝国貴族にもいろいろあってね。
もう直ぐお披露目だろう?夜会に来客する人間の中に気をつけた方がいい者が少しばかりいるから教えておくよ。」
一人目はお隣パストーリ伯爵家の次女。二人目は、帝都に近いハーゲンドルフ侯爵家の第287皇子。三人目は、ツィーゲ伯爵家の次男。
マウティングが大好きで話も長く、せっかくの楽しいレセプションを台無しにしてくれる人達だと言う。
「話が長いのは困りますね。」
「しかも自慢話がつまらなくてな、聞いているのが苦痛だ。絶対に挨拶以上は話してはいけないよ。
料理どころかワインも飲めなくなってしまう。」
楽しいか楽しく無いかで生きているヨアヒムさんらしい忠告だった。
だがしかし、新種の植物自慢ならきっと目を輝かせて聞くに違いない。
「おっと、忘れてはいけない大事な事を思い出した。
マジックストレージ用に上級の魔力回復ポーションを用意したから何時でもテオブロマを出してくれて構わないよ!」
ポンと手渡された上級ポーション。
なんでそんな高価なものを簡単に渡して来るのだろうか。
でも少し興味があるのでストレージ解放をその場でやってみる事にした。
解放すると護衛のレオンハルト君があわわわと変な声を出したが気にしない。コンテナサイズの箱から少し取り出し、ポーションを飲んで再び仕舞う。
「おお!魔力が足りた!」
「おお!これがテオブロマ!!」
二人でよく分からない歓声を上げつつ、テオブロマもといカカオの実を早速割ってみる。
「なんという芳香!まるで花の様でもあり果実の瑞々しさも感じられる!」
「あ、種は渋いので食べるなら白い果肉だけ食べてみてください。」
甘酸っぱくライチの様な風味。ヨアヒムさんはソムリエの様に香りも味もしっかり確認していた。
「種を発酵させて乾燥させて焙煎してその後何やかんやでお菓子ができます。」
取り敢えず覚えてないので雑に説明してみる。
「ははは、まだ構想が掴めていない様だな?
だが、そこが一番楽しい部分だからしっかり楽しんで行こう!」
ヨアヒムさんもカカオに興味を持ってくれた様で、栽培するなら手伝ってくれると楽しそうに言っていた。
***
その後、勉強や訓練をしながら過ごすと夜会の日がやって来た。
お披露目会が開かれるというその日の朝には、帝都からカルデア家の家族や、遠方から親戚の皆さんが集まって来た。
第一声は必ずテレシア母さんに似ているだった。
基本的にカルデア家系の人間は、自分が好きな分野などを突き詰める傾向にあるそうだ。
そして、個人的な権力には固執しないし権威も求めない。ただ結果だけを求めて日々邁進する。悪く言えば思うがままに生きている変人揃いだそうだ。
長男で、現在第3位の皇子アルブレヒトさんが、オレの話を既に耳にしていたらしく、“お前もやはり研究馬鹿なのか“と少し残念そうにしていた。
いえ、オレはどちらかと言うと脳筋です。
長女で第9位の皇女ヴィルヘルミナさんは“これは良いぞ!行けるぞ!“と漢らしく言うと、何故かうきうきしていた。
オトフリートさんの奥さんであるヒルデガルドさんも頷くと一緒にうきうきしていた。
何がどこに行けると言うのか。確かに大渓谷には行くけれど。
その後、遠方の親戚スカリエッティ侯爵家の従兄妹のシルヴィオさんとニナさんが来た。両親の代理だそうだ。
父親のジョルジオさんは大渓谷海側の討伐作戦艦隊の司令官だそうで、母親で現当主のイザベラさんは宮廷魔導師として活躍中らしい。
親戚も凄過ぎてびっくりした。要職だらけですね・・・。
二人は竜騎士だそうで、未取得の休暇が有り余っているので遊びに来たそうだ。
大渓谷の魔物討伐にも従軍しているので話を聞かせてもらいたいと頼むと、快く了承してくれた。
今日の衣装はもう仕上がっているが、ヒルデガルドさんとヴィルヘルミナさんが装飾品や髪型に細かい注文をつけ始めた。それでマネキン的な物にさせられていると、二人の魔の手はヨアヒムさんにも伸びていった。
久しぶりで逃げ遅れたと後程ぐったりしながら言っていた。
母と呼ぶ様に、姉と呼ぶ様にと言われ従軍前に帝都に遊びに行く約束をさせられた。
イグナーツ君は滝の汗をうまく誤魔化しながらスケジュール管理を頑張っていた。
家族親戚だけの時間は楽しくて、時間になればホールに向かわなければならないのが少し煩わしかった。
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