11.エビアボカド
「共に旅をしていかがでしたかな?」
カルデア大公は魔女に問う。
「とても楽しい子だったよ。凄く美形なのに鼻にかけるどころか全く気付いていないのも面白いし。
見たこともない筈の南方の果物にも詳しかった。
今まで出さなかっただけで異界の知識はちゃんとありそうかな。
あとは、珍しすぎて教本も無い雷属性の魔術。
ちょっと教えただけでバリッバリ出しちゃうし、かと思えば繊細に魔力を操って不思議な魔力力場を展開して砂鉄を手にくっつけて遊んだりする様な子かな。」
魔女の評価が思った以上に高く、少々驚いていた。
大賢者と名高いサトゥー殿と同郷の魂。恐らくはアンリ自身の知識も有用だろう。
何故それをレムリアの為に使わなかったのだろうか。騎士など目指さなくともその知識で国を取ることも出来たろうに。
「ご評価頂き光栄です。」
「あ、でも腹芸が苦手そうだったよ。」
今日一日接して、カルデア大公自身もそれは痛感していた。
「いや、むしろ茶や菓子を素直に美味しそうに食べる姿は好感が持てたな。
元王子だけあって仕草が洗練されているのにあの表情だ。
食事をするだけでも継承権が繰り上がりそうだな。」
カルデアの名とあの顔だ。これから男女問わず沢山の人間が群がる事だろう。
別に帝位について欲しいわけでは無い。
正直に言ってしまえば、テレシアが亡くなりレムリアで不遇な扱いを受けていた血縁のある甥をただ手元に置いておきたかっただけだ。
自身の妻や上二人の子供たちは政争が性に合っている様で帝都で日々力を伸ばしている。
そんな中で農作物の研究に没頭するヨアヒムを見て思ったのだ。
魔女の血が色濃く出る者は、個の魔力値も高いが何かしらの研究欲が強く出る傾向にあると。
だからこそ、そういった者がカルデアを継ぐべきだと私は考える。
もしもアンリにもその素養があれば、カルデアをヨアヒムと共に任せてみるのも良いのかも知れぬ。
我が父、先帝ヴィルヘルムはカルデア公爵家に婿養子として入る事で後ろ盾を得た。
帝位継承権は先々代の血筋まで遡って与えられ、常に二百から三百人の皇子の称号を持つ者達がいる。そして競い合い、最も優秀な者が帝位に着く。
ヨアヒムの様に帝位に興味の無いものは直ぐに追い落とされる。まぁ、余りにそれが露骨だったため、自身の兄に糾弾され称号も剥奪されたわけだが。
長男のアルブレヒトが良かれと思って、ヨアヒムを皇子の称号から解放してやったと言う見方が出来るのは私が父親だからだろう。
そして、皇子の称号を持つ者の絶対的な義務もある。
「さて、アンリが大渓谷討伐戦役に従軍するならば、魔術師としてだろうか、騎士としてだろうか。
色々と見極めなければならんな。」
「アンリくんはきっと魔導騎士を目指すと思うよ?
だってサーシャおじさんに憧れているもの。」
その現実を知らぬ子供の様な憧れに、つい笑いが出てしまうが、希少属性を持っているのだ。有り得なくもないだろう。
良き指導者を付けてやろうと決めた。
その後、どんな旅をしたのかを聞くと、短いながらも実に楽しそうな話が聞けた。
話し手がリューシャ様なので食事がメインの話しだったが、アンリは何らかの果実を大量購入していたようだ。
研究の為だろうか?
そして新天地を目指す天馬の群れが旅立つ吉日は、我が代でやってきた様だ。
カルデアにとって良き時代となるだろう。
ーー雷は農地に恵みを齎す。
帝国の食糧庫を担うカルデアに相応しい新たな息子だ。
盛大に祝うとしよう。
***
到着したその日からアンリには従者と護衛騎士が付けられた。
従者にミュラー伯爵家の三男イグナーツ。
護衛騎士に騎士爵を持つレオンハルト・ベルガー。
何方も若く、アンリと同じ年頃だった。
彼らは、新たな主人を見て驚く。銀髪に宝石の様な碧の瞳。テレシアの肖像によく似た美しい顔。
そして、それらを全てぶち壊す子供っぽい性格。
「折角従者と護衛騎士になってもらったので、
お礼に取って置きのお宝を見せよう!」
そう言って、騎士剣士のイラストカードを見せてきた。
それは彼らが子供の頃に、とっくに卒業した代物であった。
小国の元王子と聞いていたが、帝国貴族としても皇子としても立居振る舞いだけは充分様になっていた。
ただ、一度茶器を音を立てて置いてみたが何の反応も示さず、寛容な様にも見えたが、本来そこは主人として注意するべき所だったので、逆にそれを従者の側から指摘した。
彼は少々、周囲に無頓着な様だった。
ある時、アンリのもとに星降の魔女がやってきて、何やら頼まれている様だった。
緑の果物を早く食べたいと魔女は言うが、材料が揃ってないと言う。
そして、材料の手配を依頼してきた。
イグナーツは厨房に確認するとどれも揃っている様だったのでそう伝えると、自ら作ると言い出した。
流石にそれはダメだろう。
そう思い侍従長に相談すると、大公からは何でも自由にさせる様にと言われていたようで、結局はアンリの望み通り厨房にて料理を作る事になった。
元王子だと言うのに料理の手際はかなり良かった。
それを見て思ってしまう。やはり不遇の王子だったのだろう、と。
そして彼は緑の果物の皮を剥き、種を取ると何故か種を再びアイテムバックに仕舞っていた。
玉葱を薄切りにし、茹でたエビを手際よく剥き、きれいに身を切り開く。ソースにはマヨネーズに山葵を少量混ぜたもの、そしてユヴァーリ産のショーユ。
何とも色鮮やかで、盛付けも美しい料理が完成した。
料理を提供された魔女は”思ってたのと違う“、と言っていたが、食べ始めると直ぐに満面の笑みでお代わりとパンを要求していた。
魔女の笑顔に含まれる強烈なチャームに、一瞬足元がふらつきそうになるがイグナーツもレオンハルトも何とか耐えた。
二人はアンリを心配して視線をやるが、全く影響を受けていない様だった。
むしろその視線を勘違いして、二人の分もあるから食べていいよと言ってきた。
主と、ましてや魔女と同じ席で食事をするなど恐れ多いと辞退し、後ほど料理を頂くと伝えた。
魔女と対等な友人の様に振る舞う主人に二人は驚愕した。
その後、アンリの作った料理に興味を持った料理長と彼らとで試食会をする。
食材を乗せるだけ、というシンプルな料理だったが、南方の果物の柔らかでコクのある味わいに加え、水にさらしてシャキシャキとした玉葱、そして海老の旨味にマヨネーズソースとショーユが混ざり合い、ほんのり感じる山葵の風味も良かった。
料理長は直ぐさまアボカドという南方の果物の入手手配をすると、アンリにレシピの提供を願う。
無礼な、とイグナーツは言うが、アンリは急に厨房を使わせてもらったお礼だと言い、更には海老をスモークサーモンに代えても美味しいと材料などを書いて渡していた。
嬉しそうな料理長は非礼をしっかり詫びていたが、アンリ自身は全く気にしていない様だった。
むしろ、また料理を作りに行くかもしれないのでよろしく頼むとお願いしていた。
「なんだか凄い人の従者になってしまったな。」
イグナーツはボソリと呟く。
レオンハルトが彼の肩をポンポン叩くと、共に頑張ろうと声をかけた。
こちらはpixivにも投稿しております




