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夜会の話・1




「フェリシア!!」


 王家主催の夜会の会場。その入り口で待ち望んでいた人影を見つけ、ミッシェル・ベリングは人目も憚らずに大きな声を上げて駆け寄った。






「ミッシェル!!」


 こちらも淑女らしからぬ声の大きさで、そして満面の笑みでフェリシアが駆け寄る。そうして二人両手を取っていっそ跳ねそうな勢いで再会を喜び合う。


「よかった! 本当によかったわフェリシア!!」

「心配かけてごめんね? あと、なかなか会いに行けなくてごめんなさい」

「ううん、それはこっちも同じだもの。お互いすれ違っちゃったわね」

「ようやく会えて嬉しい」

「それは私もよ」


 きゃあきゃあと二人がはしゃぐのも無理はない。ある日突然記憶を失ったフェリシアがようやく元に――本当の意味で、元の彼女に戻ったのだ。元気で明るく、笑顔の似合う彼女とこうして再会できたのがミッシェルはなによりも嬉しい。

 フェリシアを散々ひどいめに遭わせてきたあの叔父夫婦とやらにはいつか必ず天誅をくらわせてやるんだから、とミッシェルは固く心に誓っている。が、最近は自ら手を下すまでもないのだろうとも思う。だって彼女の隣には、自分よりももっと遙かに力を持った相手がいるのだから。

 と、なった所でミッシェルはふと視線を動かした。途端ぶわっと花が舞う、ような、そんな錯覚に襲われる。

 ええと、と思わずなんと声をかけたものかと悩むミッシェルに、今度はフェリシアが狼狽える。親友であるミッシェルが何に戸惑っているのかが分かったからだ。


 フェリシアの背後で、ひたすら蕩ける様な笑みを浮かべて立つ長身の美形――フェリシアの夫であり、ミッシェルがこの人がきっとあの悪逆非道な叔父夫婦を以下省略と思っているグレンが、二人のやり取りを本当に嬉しそうに見ているのだ。


「……お、お久しぶりです、伯爵様」

「こちらこそ。相変わらず元気そうでなによりだベリング嬢」


 うわ、と思わずミッシェルは瞳を閉じた。真正面から喰らう美形の笑顔は目に辛い。

 え、待って伯爵様ってこんなだったっけ? と己の記憶を探る。ミッシェルの知るグレンと言えば、氷の騎士との異名を持つ常に冷静沈着な騎士様であり、それでも妻であるフェリシアと、親友であるということでミッシェルには比較的穏やかな笑みを見せてくれてはいたけれども。


 正直こんな心底――幸せすぎて最高! という様な、はっきり言ってしまえば浮かれているのでは? と突っ込みたくなる様な態度を見せる人ではなかったはずだ。


「すまなかったね、もう少し早くあなたとフェリシアを会わせてあげられたらよかったんだが」

「いえ、フェリシアの記憶が戻った時にすぐ連絡くださってその時に会えましたから!」


 しかしその後長期に渡って会えなかったのも事実だ。記憶が戻ったばかりだからとしばらく安静にし、それが落ち着いたら二人でゆっくりお茶会でも、と話をしたはずが結局今日という日まで会う事はなかった。

 会いたいのは山々なれど、最優先すべきはフェリシアの容態である。あと、なにやらようやくお互いの間にあった遠慮が消えたらしい、そんな夫婦の邪魔をするのも悪かろうと自重していたのだが。


 これは思っていた以上に遠慮が消えたって言うか距離が……距離が近い、近すぎですけど伯爵様!? それとほんっっっっとうにあの、ダダ漏れですけど!?


 なにが、と言えばそれは勿論フェリシアに対する愛情である。妻が可愛くて、愛しくて、そんな彼女の傍にいられるのが幸せすぎる、と言ういっそ暴力的なまでの愛情が豪速球で飛んでくる、ような、気がする。なんなら頬にめりこんでさえくるようだ。

 うっわ、とその勢いにミッシェルは押される。そしてこれを一身に受けている親友を見やれば、首筋まで真っ赤にする勢いでプルプルと震えている。恥ずかしくて堪らないのだろう、無理もない。


「フェリシア、今日のドレス、とても素敵ね!!」


 露骨にも程があるが、ひとまずミッシェルは場の空気を変えようと話題を変えた。実際お世辞でもなんでもなく、今日のフェリシアのドレスはとても彼女に似合っているのだ。

 薄い緑を基調としたドレスは派手さこそないが、フェリシアの軽やかで明るい雰囲気によく合っている。


「そのネックレスも素敵だわ。青い色がとても綺麗」


 澄んだ青空の様な、そんな色の宝石が大きくフェリシアの胸元を飾っており、一際目を引く。


「まるで伯爵様の瞳の色みたい」


 少しばかりからかいを含んでみたその言葉は、しかしとんだやぶ蛇であった。ボフン、と顔から火が出るのではなかろうかと思うほどに真っ赤になるフェリシアと、より一層花が舞う、を通り越して暴風雨の様にミッシェルにぶち当たる。

 あ、これ本当にそういう意味で、っていうかなんていうか


「俺の嫁っていう主張が強すぎやしませんか?」


 なにかと迂闊な発言が多いフェリシア、の長年の親友であるからしてミッシェルも同類だ。つい、うっかり、勢いのままにそう突っ込んでしまえば、グレンもフェリシアと同じ様にサッと頬を朱色に染める。


「いや、そんなつもりは……なか、った、んだ、が……うん……ちょっと、だけはありは、した……」


 あったんかい、との突っ込みをミッシェルはなんとか飲み込む事に成功した。




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