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 グレンはゆくっりと身を起こすと、フェリシアと同じ様に座ったまま彼女の正面に向き、そっと両手を取る。どんな話でもいいから聞かせて欲しい、怯えなくても君に引く様な事はないよ、という意思表示。そして、なにがあっても逃がす気はないからなという、とてもじゃないが表に素直に出せる様な物では無い感情を隠す為でもある。

 そんな夫からのぐつぐつに煮詰まった感情を向けられているとは露ほども思っていないフェリシアは、ひたすら己の所業がバレた事に対して羞恥に半泣きだ。


「別にグレン様のシャツでヘンなこととかしてないですから!!」

「ヘンなことって?」

「だから……っ、その、私が、最近あんまりにも元気がないから、そういう時は好きな香りに包まれたら元気になれますよって!」

「それで、俺のシャツを?」

「ポリーが! ポリーが小さい時によくそんな風にしてたって持ってきてくれて!」


 確かに今よりももっと幼い時にポリーがそんな事をしていたなとグレンの記憶も薄らと蘇る。夜一人で眠るのが寂しいと、何故かグレンの着ていた服やシーツに包まっては眠っていた。なにしろ幼い子どものやる事だし、それで安眠できるのならとグレンも屋敷の者も皆好きな様にさせていた。


「わたしだってりっぱなメイドなんです! ひとりでだってねむれます!!」


 小さな身体で、けれど一生懸命にそう言い切られては手出しができなかったわけだが、その甲斐あってと言うか、その内ポリーも一人で眠る事ができるようになったのだが。

 それがまさか、今になって、さらには最愛の相手がそんな事をしていると知った今の己の心境など答えられようはずも無く。グレンはただひたすら襲い来る「可愛い」の威力にひれ伏した。


「あ、でもぎゅってして寝てたのは最初の方だけで、最近はあれってそもそもポリーが着てみたらものっすごく可愛かったものだから」

「……ポリーが?」


 着てみた? とグレンはにやけそうになる口元を片手で隠したまま小首を傾げる。するとそこには元気にフェリシアが食いついた。


「そうなんです! ちょっと軽い気持ちでポリーにグレン様のシャツを着てみてもらったんですけど、そうしたらかなり可愛かったんですよ!!」


 この瞬間だけは羞恥心も飛んでいるのか、フェリシアはずい、と膝を前に進めてグレンに近付く。


「当然ダボダボなんですけど、裾からちょっとだけ見える膝とか、袖の半分くらいで手が納まってるから折れちゃってるのとか、でもそんな格好でポリーがグレン様のモノマネとかするものだからほんとうにもうーっ! 可愛すぎてー!!」

「待った」


 うんうん、と話に聞くだけでも微笑ましくて可愛らしい小メイドの姿であったが、最後の部分が聞き流してしまうには恐ろしいというか、それは羞恥の極みのなのではとグレンは話を止める。


「ちょっと待ってくれフェリシア」

「なんですかグレン様?」

「……物真似?」

「はい!」

「俺の……?」

「すごく可愛いんです!」

「……どんな?」

「どんなって、そりゃあいつもの」


 朝の、と口を開き掛けた所でフェリシア自ら止まった。自制せざるをえなかった。

 だって、これは確実に、ものすごく、恥ずかしい話を暴露してしまうわけであるから――


「――ナンデモアリマセン」

「それは無理な話だろう」

「いいえ! 言えません! っていうか特になんでもないです! ないですよ!?」

「だから無理だと」


 好んで聞きたいわけでは無いが、聞かずにいるのも恥ずかしい。一体自分が不在の間、愛しい妻と可愛いメイドはどんな真似をしているというのか。この二人の目に、自分はどう映っているというのか、とても知りたいし、知りたくない。


「けれど知ってしまったからには聞き流せないだろうこんなこと!」

「そこはさらっと聞き流してくださって結構ですってば!」


 ひゃーっ! と叫びながらフェリシアは後退する。させるものか、とグレンはその手を掴んで我が身に引き寄せた。



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