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ドキドキ☆はじめてのおきがえ


『──あんた、さくら! 生きとったの!? ほんと……何してたの!? 何か月も連絡寄越さないで!』



 九六間から借りた携帯電話から懐かしい声が聞こえてくる。

 お母さんだ。生きててよかった。本当に。

 九六間さんからは『インベーダーは主に人の密集している場所に出現します。ですので、辺鄙な片田舎で細々と暮らしてらっしゃる、鈴木さんのご家族は無事だと思います』とは言われてたけど、内心心配で仕方がなかったから、こうして声を聞けて本当に良かった。


 ──私は今、衣料品店から出て、目的地である豊永南小学校へと向かいながら、実家に電話をかけていた。

 それにしても街に誰も居なくて本当によかった。

 町中で魔法少女のコスプレをしているだけでも恥ずかしいのに、猫の着ぐるみを着たヤツと一緒になって歩いてるのを見られたら、それだけで死んでしまう。



「ごめんお母さん、あの、ちょっと寝てた」


『数か月も!?』


「うん」


『は、はあ!? こんな時に何ふざけた事言って! あんたは昔っからいつも……』


「それで? 皆は? 大丈夫なの? お父さんとかおじいちゃんとか、ヒロミとか……あとはアントニオとか……」


『みんな大丈夫よ。お父さんは畑耕しるし……おとぉーさぁーん? さくら! さくら生きとったよー! こっち来てー電話代わってあげてー!』


「あ、ごめんお母さん、私ちょっと今忙しいから、すぐに切らないと」


『ああ、そうなの? ごめーんおとーさーん! さくらが話したくないってー!』


「その言い方は語弊があるな……」


『それでおじいちゃんだっけ? おじいちゃんは……ちょっと最近ボケ気味だけど、ごはんは二人分食べとるから元気よ』


「よ、よかった……ひろみは?」


『あんたん弟は……そのー……なんというか……』



 今まで饒舌だったお母さんが急に口ごもる。もしかして、何か良くない事が──



「ひ、ひろみに何かあったの!?」


『ううん、元気といえば元気なんだけど……今は一緒にいなくて……』


「……どういう事? ひろみ、どこにいるの?」


『どこって言われても……それがよくわからんのよ。ある日急に『ちょっと出かけてくる』って言って、何人かのスーツ着た男の人と一緒にどこか行って、それっきりなのよ』


「なにそれ!? 大丈夫なの!?」


『定期的に連絡はくれるから大丈夫だとは思うんだけど……』


「そ、そうなんだ。……うん。まあ、大丈夫ならそれでいい……のかな?」


『あ、そうそう! あんたが大事にしてたあの犬! アンソニー・ホプキンスだっけ?』


「アントニオだよ、お母さん」


『あの犬ね、いなくなった!』


「……はい?」


『リードは繋がってなかったんだけどね、色々とゴタゴタがあったでしょ? それが落ち着いて、家に帰ってきたらいなくなってたのよ』


「いやいや、リード繋げてなかったらそりゃどっか行くよ!? 犬だもん」


『野生に帰っちゃった』


「え、ちょ……マジでなにやってんの?」


『定期的に連絡はきてるから大丈夫だとは思うけど……』


「来るわけないじゃん! 逆に来たら来たで、それアントニオじゃないよ! なんで無駄にボケるの!?」


『お母さん、反省しています』


「そりゃしてほしいよ! 反省!」


『そうそう反省ついでに、あんたにもうひとつ言わなきゃならない事があったのよ』


「なんか軽くない? てかそれ、聞かないとダメ? 嫌な予感しかしないんだけど……」


『あんた今、戸籍上ではほとんど死んだ事になってるからね』


「……はい?」


『行方不明で連絡もつかないし、いまこんな状況になってるしで、そういう人がいっぱいおってね。さすがにもう逝っちゃったかなって』


さすがにもう(・・・・・・)逝っちゃったかな(・・・・・・・・)……て。なんか頭痛くなってきた……もう切るね。これから仕事あるし」


『あらま。世界がこんなんなってるのに未だ仕事あるの? 都会も大変ね~』


「……とりあえず、ひと段落着いたらそっち帰るから。あとアントニオも探さないとだし」


『そっか。元気ならお母さんもお父さんも嬉しいから、また連絡ちょうだいね』


「うん、またね」


『はいはーい、待ってるね』



 ──ピ。

 私は通話を終了すると、持っていた携帯を九六間に返した。



「どうだったきゃと?」


「元気みたいでした」


「それはよかったきゃと。これでより一層、魔法少女業に身が入るきゃとなぁ」



 プリン・ア・ラ・モードという名の九六間はそう言うと、〝きゃときゃと〟と楽し気に笑ってみせた。



「それより私、なんか死んでることになってたみたいなんですけど……」


「ああ、それは問題ないきゃと。こうして契約を締結させているという事は、キューティブロッサムの出自や家庭について、それなりに調べはついてるって事きゃと。死亡届も、そのときに取り下げておいたきゃとよ。キューティブロッサムは、生きてるきゃと」



 もはや何からツッコめばいいのやら。

 私は緊急措置として、とりあえず、考えるのをやめた。


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