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ゆれるゆれる☆心臓破坂


 こんにちは。

 私、魔法少女の鈴木桜。

 いまはここ、魔法少女派遣会社にやってきていて、その組織の外から、内から、ぶっ潰してやろうと画策していたんだけど──



「──ねえ、どうする? これ(・・)

「どうするもこうするも……」

ジャンニィ秋山(・・・・・・・)さんに報告したほうがいいんじゃない?」

「どうやって?」

「そりゃ……」

「むこうの……〝さむと〟だっけ? そこの魔法少女が雑な変装をして、うちに潜入してましたって……」



 あのレンジの会見で見た、女の子三人に手足を荒縄で拘束され、口をガムテープで塞がれて、地下の暗い倉庫に安置されています。助けてください。



「──でも、この人ってたしか、あれでしょ? 昨日、テレビで見た……」

「キューティソクラテス!」

「そうそう、そんな感じの名前の人!」


んんぐう(いやいや)、|ぬううんうううん《昔の有名な人じゃないんだから》」


「でも、なんかニュースで見た時よりも、老けてない?」

「あー……たしかに」


んぅん(JKと)! うんんうううううん(比較すんな)ー!」


「な、なんか唸ってるよ?」

「ほっとこほっとこ」

「ちょっと怖いし、なんか不良やってそう」


んぬぅふぅ(間違ってはないけど)……」


「……あれ? でもたしかこの人、シィムレスさんと素手で掴み合ってた人だよね? なんで大人しく捕まってるの?」

「あれくらいの力持ちさんなら、縄もふつうに切れちゃうよね」

「あれじゃない? 縛られるのが趣味とか?」

「ああ、いるいる! いるねー! そういうヒトー!」

「ファンの人たちにも、そーゆー人いたし、それだよたぶん」

「なるほどねー! あったまいい!」


んぅぬ(アホか)ー! にぬんん、(見張られてるのに)うんぬううう(逃げられるか)!」


「まだ唸ってる……」

「喜んでるんだよ、たぶん」


うん、うんうんん(もういいや言わせとこ)……」


「〝うん〟だって」

「やっぱりね」

「変態さんだ」


んんんぬう(ことごとく噛み合わん)……」


「……でも、ひとり(・・・)で何しに来たんだろうね?」



 ……ん? ひとり?

 そうだ。

 なんか見当たらないな、と思ってたけど、霧須手さんここにはいないのか。

 もしかして、まだ変な光を出し続けてるとか?

 でも、それだと私だけ見つかって捕まってるのもおかしいし……ま、霧須手さんなら、私が居なくても上手くやってくれる……よね?



「──たぶん正面からだと私たちに勝てないと思ったから、こういう感じで来たんじゃない?」

「じゃあこれでバレないと思ったんだ?」

「サイアクぅ。舐められてんじゃん、私たち」

「こりゃあ、もっとキツク縛ってあげないとだね」

「でもそうすると喜んじゃうんじゃない?」

「言えてる」

「……でも、シィムレスさんは騙されてたよね……いま、その件で呼び出されてるし……」

「まあ、あの人はインベーダーだから……」



 こうやって捕まってるのも楽だけど、私も、そろそろ動いたほうがいいよね。

 ……でも、ここで私が無理やり縄を引きちぎったとして、絶対にあの三人は私の前に立ち塞がってくると思う。


 私が捕まった時に分かった事だけど、あの三人は間違いなく〝魔法少女〟だった。

 アイドル担当とか広告塔だとか、そんなのじゃない。私たちと同じように戦える、魔法少女。

 現に私は抵抗する間もなく、こうして拘束され、ペいっと放られている。


 でも、どういう事だろう。なんでこの子たちが、能力を使えているんだろう。

 霧須手さんが嘘をついていた?

 ……それは──ないかな。考えにくい。嘘をつくようなメリットがないし、その場合、霧須手さんが私たちを裏切った事になる。霧須手さんの、あの引っ込み思案な性格上、それは考えられない。……まあ、今日会ったばっかだから、強くは断言できないけど。

 だったら、この子たちはどうやって、能力を──



「あ、そうだ。ひろみちゃん呼んでくる?」



 ──ん?



「そうだね。私たちまだ〝力〟を貰ったばっかだけど、ひろみちゃんは純粋な魔法少女(・・・・・・・)なんでしょ?」

「うん、だから、上手い感じにキューティブロッサムさんも処理してくれるんじゃないかな」



 いやいや。

 情報量が多すぎる。

 頭が混乱する。

 ひろみの件は……今は置いといて、この子たちは誰かから、力を貰った(・・・・・)

 どういう事だ? そんな事が出来るの──


 ──ゴ……ゴゴゴゴゴ……!


 地震……?

 うん、たぶんそうだ。アル中で体が震えてるわけでもないから、建物全体が揺れているんだと思う。でもこれ、地震……なのだろうか。どちらかと言うと、地面が揺れているというよりも、建物が自体が揺れているような──



「な、なに!?」

「なになに!?」

「なになになに!?」

「──地震!?」



 仲良いな。

 示し合わせたように三人の声が重なる。

 ゴゴゴゴゴ……!

 しかしこれ、結構長い間揺れてるな……と、思っていると──



「──く、くずれるー!」


 

 女の子たちはまた声を重ねて喚き散らすと、そのままどこかへ行ってしまった。

 過程はどうあれ、これは解放された……という事なのだろう。

 私は三人が完全にどこか行ったことを確認すると、すこし腕に力を込めて、荒縄を強引に引きちぎった。

 クロマさんが言った通り、たしかにこの能力、便利ではあるけれど、やっぱりというか、なんというか……魔法少女ぽくないよなぁ。

 私は縄が食い込んで変色した手首をさすりながら、これからの事を思案する。


 目隠しはされなかったお陰で、ここが地下だというのはわかってるけど、この倉庫に入る時に何か手順を踏んでた気がする。このまま出たら、また他の魔法少女に捕まってしまいそうな気がするけど……今、一番の悪手はたぶん、ここにこのまま居る事だと思う。



「まあ、とりあえず出るか……」



 我ながら緊張感のない言葉を吐いてるな、と思ったけど私自身、結構キテ(・・)いるのだろう。昨日の今日で、慣れない環境で働きづめだったから、私の精神がおかしくなっていても仕方がない。私は軽くため息をつくと、そのまま倉庫から出て行った。



 ◇



 私は特に何事もなく倉庫を出ると、再び一階のホールと戻って来ていた。なぜかエレベーターが使えなくなっており、仕方なく階段でここまで戻ってきたんだけど──誰もいない。

 さっきの揺れで、すでに全員ビル外へと避難したのだろうか。でも……なんだろう。胸騒ぎがする。



「──キューブロ殿ぉ!」



 不意に後ろから声をかけられる。

 見ると、作業着を着た霧須手さんが、大きく手を振りながら私に駆け寄って来ていた。



「おおー! 霧須手さん!」


「探してたでござるよ。どこへ行っていたでござる?」


「えっと、地下の……倉庫ぽい所?」


「……なぜ?」


「いや、ちょっと捕まってて……」


「ふむ。なら、上手く抜け出せたようでござるな、さすがはキューブロ殿。ちなみに、〝捕まってて〟とは、ミス・ストレンジ・シィムレスに捕まっていたのでござる?」


「いや、レンジじゃなくて……あ、そうだ。あの子たちに会ったよ。たしか、心臓破坂の……」


「誰でござる?」


「あの、あの子だよ。えーっと、ほら……名前、はわかんないけど……あれ? 顔もよく思い出せない……」



 そもそも、心臓破坂もクリスティである霧須手さん以外の顔思い出せない。結構な頻度でテレビに出てたと思うんだけど……まあ、それくらい霧須手さんの印象が強いって事なのかな。



「あ、あはは……まだまだ拙者たちの努力が足らなかった、という事でござるな……」


「いやいや! そんな事はないよ! えーっと、そ、そうだ! 女の子だったよ、うん!」


「……キューブロ殿は何を言ってるでござるか」


「なんかごめん。ちなみに、霧須手さんは今まで何してたの?」


「デュフフ、それは……色々やってたでござる」


「色々? ……あ、もしかして、さっきの揺れも霧須手さんが?」


「然り」


「……それって、出発前にクロマさんに言われてたやつ?」


「そうでござる。……もう種明かしをしても大丈夫でござろうな。とりあえず、今は最上階にへ向かうでござるよ、キューブロ殿」


「う、うん……て、最上階? 結構階数あるよね」


「33階まであるでござる」


「高っ!? ……無駄に高いね」


「左様。魔遣社ではなく、もはや摩天楼ですな」


「……疲れるしエレベーター使わない?」


「デュフフ、スルーあざす。しかし、もうビル内の電力施設は作動していないでござるよ」


「あー……やっぱり? 地下からここまでエレベーターを使おうって思ったんだけど、なんか使えなくて……やっぱりさっきの揺れが原因なのかな?」


「いや、揺れというよりも、電力そのものの供給をストップさせているので、エレベーターも、正面玄関横の監視カメラも、さっきの受付嬢が使ってた出退勤管理システムも、今は全部使えなくなってるでござる」


「ホントに色々やってたんだ……でも、電力の供給をストップって、今普通にこのホールの照明はついてるよね?」


「夜なので、照明はそのままにござる。暗いと色々と不便でござるしな」


「なんて器用な停電なんだ……」


「ま、これに関しては、そういう能力(・・・・・・)が使える魔法少女の力を借りているだけでござる」


「へえ、そう言う事も出来るんだ! ……あ、てことは、いまここに、その魔法少女が来てるの?」


「ノンノン。たしかに江礫(エレキ)殿の能力を使ってはいるのでござるが、これはその能力を、一時的に封じ込めたも(・・・・・・・・・・)()を使っているにすぎないのでござる。江礫殿も、芝桑殿と同様に現在は療養中でござる」


「江礫さん、かぁ……あれ? 〝療養中〟ってことは……もしかして、それもひろみが関係してる感じなの?」


「いやいや、江礫殿は散歩中に足を挫いただけにござる」


「おっちょこちょいだなぁ……」


「だから、こういう時に備えて──」



 霧須手さんはガサゴソと自分のポケットをまさぐると、卵くらいの大きさの黒い塊を取り出した。



「この、特別製の爆弾を預かってるのでござる」


「うーん、抜けてるのか用意が良いのか……。でも爆弾って、なんか物騒じゃない?」


「まあ、爆弾といっても、火薬が入っていて、それを爆発させて破片を飛ばすような、普通の爆弾ではござらん。江礫殿謹製特殊電磁パルスが狙った電子機器類の回路をショートさせ──」


「そ、そうなんだ……うん、まあ、私にはよくわかんないけど、とにかくその爆弾が、このビルの施設を使えなくしたって事なんだね」


「左様」


「……でも、何のために?」


「それは……そのことについては、道すがら話すでござる。とにかく、今はこれ以上ここで駄弁っている時間はないので、最上階を目指すでござるよ」


「あ、うん。了解」

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