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導入


「あーよく寝たさあ行こうぜ」

「兄貴! ……ていねえし」

兄貴のベッドはもぬけの殻だった。

ていうか寝たような形跡もなかった。

「おはようございますお連れの方は外でお待ちになっておりますよ」

「おはよう」

「目の前に武器屋があるじゃねーか」

「夜だったから分からなかったけど……」

「このモンスター討伐が終わった後何か買ってくれよな!」

「ていうか早く行こうぜ」

「……俺達目立ってるみたいだしな」

「そうだな」

「ヒューマンの首都カインツヘルムで楯突いた っていう噂」

「それがすごい尾ひれ歯切れついてるっぽいな」

「王女様を誘拐したとか団長一撃でぶっ○したとか」

「武勇伝ぽくなるのかもしんないけど……果たしていいのか悪いのか」


「なんだあの男」

「どうなさいました凛お嬢様」

「いや何なんだ……珍しいものをつけている人がいたから」

「我々ドワーフですら使わないんだが」

「我々の先代の時代だったら」

「当時としては画期的な発明ではあったんだけどな」

通路の反対側に立っていた男の装備。

それを見て私はしみじみと昔を思い出す。

「先代も嫌いではなかったかな」

「そうですな」


「皆平和でいいよな」

私はそう思うと、あの男が身につけていたものを時代遅れのものであると認識して処理を終了した。

「くんくん……」

相変わらず疲れるなあ……体は汗臭い。

「仕方がありますまい」

「え?……ああ」

「そういえば聞きましたか……例の」

「太古の昔に偉大なる賢者が魔神を討伐したとか」

「それ以来ヒューマンがこの国で繁栄を支えたということは言うまでもありますまいか」

「そうね」

「その後エルフたちを奴隷のように使ったり、ドワーフを使ったりするのは

嫌い」

「けどそういう気持ちもわからなくはないわね」


「今はこうやって人間たちの街にドワーフの最新技術を用いて」

「壁上固定装置をつけているんだからこれも画期的なことね」

「りんお嬢様! お弁当を買ってまいりました」

のり弁とおにぎり。

やっぱり人間の飯も悪くない。

私はおにぎりが好きだ。

こればっかりは素直に褒めてしまう。

「はーアイギスの調整も後でしないといけないし……」

私たちが行こうとしようとしたその時、

「何やら後ろの方が騒がしいようでありますが……」

「む!」

ちょうど宿屋から出てきた金髪の娘と……さっきの変な男。

「ちょっと行ってみますか?」

「いやいい」

「お前たちは先に行ってて」

「私だけで見に行ってみる……後ですぐ追いつくから」

「そうですか」

私は仕事仲間たちに道具を預かってもらって、先に行ってもらうことにした。

「タッタッタ……」

「……?」

その途中ですれ違った銀髪の女の子。

それを私は頭の片隅から忘れてしまっていた。


ざわざわ……。

近づいてよく見るとどうやら何者かが暴れまわった後らしい。

外側のモンスターがこの街の中まで入ってきたんだろうか……?

だとするとそのモンスターはどこへ……?

「あれ……」

私の頭の上に大きな影ができる。

それは一瞬の出来事だった。


そして私は気を失った。

巨大な鉄の刃。

片思い取られた角。

青黒い体。

近くにいるモンスターとは何か様子が違っている。


「おー……さっきのはすごい音だったなぁ」

「街の中にモンスターが現れたらしいな」

「とっさに宿屋に戻ってきたのはいいけど」

「て……あれ……兄貴またいねー」

「またどっか行っちまったのかよ」

「くそー置いてくなっつの」


「あれ……」

気がつくと私は倒れていた。

気が付くとさっきの古いオーパーツを装備した男が立っている。

「大丈夫か」

「ちょっと気を失っていたみたいなんですけど……」

「そうか」

「そのモンスターは今騎士団の奴らが戦っているらしい」

「騎士団っていうのはこの町の自治組織だろう」

「で…でも、あなたどうやってあの場所から」

「ん?」

目を向けるとさっきと同じように古いオーパーツに目がいく。

「あなたその装備は……」

「これは俺の好きな装備だな」

「さいですか」

「昔からずっと使ってる」

「昔からってそれ……」

「多分100年くらい前の装備なんですけど」

「そうだな」

「ここから少し離れた場所に、騎士団が普段怪我の手当てをする場所があるから」

「さいですか…ありがとうございます」

「で……」

「あなたはどうするんですか」

「俺は何もしない」

「疲れたからここで休んで行く」

「さいですか」

「〜〜〜団長がやったぞ〜〜♪〜」

結果は氣志團の勝利だったらしい。

喜び勇んだ町民が騒ぎ立てていた。

「もう終わったみたいですね」


「おい」

「じゃなくてちょっと待ってよそこの男」

睨みつけてくる女の子の姿があった。

イルナだった。

「で、その隣にいる女の子は誰なんですか?」

「初めましてドワーフの凛です」

「俺はイルナです」

「どうもご丁寧に……ってそうじゃなくて」

「どうしたんだ早く行こうぜ」

「話そらすなよなー……まあいいけどさ」

しぶしぶイルナが納得する。

「それにしても不思議なものね」

「この街は最新鋭の技術でも守られているはずなのに……」

「どうしてこんな街の中まで……」

「騎士団が休みだったんだよ」

「そういうことか!……ってそれでいいんですか」

「騎士団も大変だろうしな」

「普段は嫌いだけど、休みの日なあいつらは嫌いじゃない」

「たまに飲みいくぞ?」

「嫌いな相手とも酒を飲みに行けるイルナちゃん……」

「あなたって人は……」

「まあとにかく、今日1日を頑張れば正解ってことさ」

「お!」

「魔物討伐した騎士団様のお通りだ!」


「エルウェン団長!今回もやりましたね」

「うん!……って」

「違うだろ……こんな街中まで魔物を入り込ませてしまったことが失敗だ」

「気を引き締めてくれ」

「これからは私も休日に出るようにするから」


「聞いたか兄貴」

「なんだか一撃で仕留めたらしいぜ」

「あのモンスターを一撃……」

「騎士団てそんなに強かったっけな」

「果たして騎士団が強いのかモンスターが弱いのか……」

「それは分からないけどなケラケラケラ」

イルナは腹を抱えて笑っている。

「そういえばさー」

「あんたは何の仕事してるんだ?」

「私はこの町の城壁を作る工事の現場監督やってるんだよ」

「私がリーダー」

「へーすげーじゃん!」

「でしょ?」

「じゃあさーその一撃で倒したっていう団長さんは見に行こうぜ?」

「まだこの近くにいるんだろう?」

「じゃあちょっと見に行ってみようかしら」

そう言うとその無口な男に手を掴まれた。

「な、何……急に手を掴まれたんだけど」

「まだモンスターが残っている」

「え…でもさっき倒したって言ってたけど」

「それに……倒したモンスターはちゃんと檻の中に入っているんじゃ……」

「そうだ」

「この場合は捕まえずに討伐するか、城の中で地下牢に閉じ込めるかのどっちかなんだろうけど……」


「バタバタ!」

「大変だ! 団長が捕まった!」

団員の一人がゼハゼハ息をしながら駆け込んできた。

仮面を取るのも忘れて息をしている。

「お、おい……大丈夫か?」

「俺はこのことを伝えに来たんだ……少しでも力のあるやつは」

「わかった」

「そうだなー……って行くのかよ!?」

「クエストはどうすんだよ?」

「知らない」

「知らないって……いや待てよ」

「よし行こう行こう! これは金になる」

あんなちっぽけな雑魚狩りのクエストよりも騎士団に恩を売っておく方がうまい。

〜場所はどの辺なんだ?」

「城の地下牢に行く直前……お城の裏口の近くだ」

「今は団員の何人かと団長が戦ってるけど……」

「先に行く」

「おい! 置い詳しい場所とか聞かなくていいのかよ?」

「探せばいい……というかなんとなくわかる」

「なんだよそれ」

「でも入っちゃったし……」


あれ……。私は今…。

いったいなんでこんなことに……。

最高レベルの魔法呪術を施していたのに。

ま……まさか。

「警備をサボったせいで……」

モンスターを閉じ込める鉄格子の中の一本に呪術のかかっていないものが混じっていた。

「そういうことか……」

「そこからモンスターは……」

「そこから破られてしまったのか……」

モンスターはその隙にその鉄格子を刃で壊した。

「!?」

私はその時の衝撃で近くの建物に吹き飛ばされた。

今はかろうじて上半身だけを動き上がらせる。

全て私の責任……。

モンスターは手に持っていた刃でその檻を叩ききると檻の中から這い出てきた。

「くそ……とりあえず本部に連絡を」

「落ち着いて下さい団長」

「ここは私たちで何とかしますので……使いの者もすでに出ていますので」

「そうか……よかった」

少し安心してしまう。

私の騎士団はみんな頼りになるばかりだ……優秀である。

……ちょっとさぼっちゃうとこ以外は。


「団長!! 魔法が全然効きません!」

「くそ…こうなったら」

団員たちの悲痛な叫び。

剣が折れる音。

モンスターが刃を地面に叩きつける音。

衝撃。

そして私は意識を、


「グハ」

戻した。

モンスターの強力な腕の中で。

痛い。

掴まれた衝撃というよりかは、さっき吹き飛ばされた時の痛みがまだ響いている。

視界が霞む。

あいつらはどうなったんだろうか。

ちゃんと逃げられただろうか……死んじゃったりしてないかな。

だったら悲しいな……。

ギョロ。

魔物は私をじっくりと見定めている。

片方の角が折れている。

折れていない方の角が大きい。

私の体くらいある。


「さよなら」

誰かの声がした。

「えっと……」

私を握っていた腕から力が抜けていく。

「ファイアウォール!!」

速攻で唱えることのできる魔法。

魔物の腕や顔にあたる。

魔法学校で学んだことは無駄ではなかった。

その隙に魔人の腕から抜け出すとすぐに臨戦態勢を整える。

数歩下がり息を整える。


「さっきの声は……」

見知らぬ男が立っていた。

どうやらモンスターはそっちの方に興味を示しているらしい。

「誰なんだあいつ」

……ていうかあの姿もしかして。

「大丈夫ですか団長?」

団員が駆け寄ってくる。

「ああ、心配ない…それより」

「失せろ」

男は小声でぶつくさと何かを唱えている。

呪文を唱えているようである。


あーやっぱりだって思った。

あの人の正体を私は知っている

魔物の最後の声が響く。

青天の霹靂。

曇ってもいない空から降り注ぐ大量の雷。

その全ては魔物のもとへ落ち、魔物は一瞬で消し炭となった。

「あれは古代の魔法!?」

「威力が……」

「威力を間違えているんじゃないかしら……」

そう思わせるほどの破壊力である。

やっぱりである。


それは私のかつての先輩だった……その人は。

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