8.6話 シリルが味わったこと(☆2000)
〜〜お屋敷〜〜
〜父の部屋〜
父「シリル」
シリル「はい」
父「風呂から上がったのなら早く大きな声で呼びなさい」
シリル「はいすみません父様」
父「お前はこの家族にとってただ」
父「生まれてきただけで迷惑なんだから」
父「そんなこともできないとは」
父「つくづく哀れな女」
シリル「申し訳ありません」
父「早くそのみすぼらしい体を見せるでない」
シリル「はい」
裸の女。
体を拭くためのタオルを取った。
シリル「……フェメール.アーム」
見えない位置で床に術式を書く。
彼女が呪文を唱える。
魔法を唱えてみたけどやっぱりダメね。
私なんかの魔法じゃ何も助けられない。
私はこの家で一生懸命勉強してきたのに。
やっぱり急にこんなことになったら。
役にも立たないものね。
より一層音が大きくなり 地響きも激しくなっていく。
ゴゴゴ。
みんなごめんなさい。
私の力が足りないせいで。
私の守護魔法の結界の力がまだまだ弱いせいで。
魔神まで近づけてしまって。
メイド「お嬢様のせいですよ」
メイド「あんたみたいな出来損ないのやつがお嬢様だったなんて」
母「あなたの存在は世間には公表しません」
母「家の名に恥じるから」
魔物「グルルルハアハアグルルル………」
魔神が私の屋敷に乗っかっている。
シリル「ひひひひひひ」
そう私のせい私のせいでみんな死ぬの。
逃げおおせたメイドもいるかもしれないけど、
きっとこう言うわ。
あいつのせいでみんな死んだって
頭の中でいくつものそんな幻たちが浮かんでは消え、
私の頭の中を覆い尽くしていく。
大きな音。
メイド「急いでください」
メイド長の声。
と、共に一斉に屋敷が崩れ出す。
何人くらいが助かったのだろうか。
私がそれを数えても意味がない。
だがせめてそれくらいしなければと。
イルナ「もう誰もいないって」
カルラ「この家にいるのはこれだけですか」
メイド「ええ……」
イルナ「何か気のせいかもしんないんだけど」
イルナ「さっきから誰かの声が聞こえる」
イルナとカルラは燃えている屋敷に気づいて近くまで来ていた。
メイド「?!」
メイド「気のせいですよ」
メイド「何をおっしゃるんですか……」
メイド「もうあの家には誰もいません」
執事「さあ行きましょう」
メイドと執事たちがいそいそと俺らを退かそうとする。
グイグイ。
イルナ「何かがおかしい」
イルナ「やっぱ行こうぜ兄貴」
メイド「ごめんなさいまだ中に人がいるの」
メイドの一人が話しかけてくる。
イルナ「な!」
メイド「規則で話しかけちゃいけなかったから」
メイド「お嬢様シリルって言うんだけど」
イルナ「シリル!?」
イルナ「あいつここのお嬢様だったのか...」
メイド「きゃー!」
部屋の向こうからメイドたちの悲鳴が聞こえる
執事「お嬢様ご無事ですか」
執事「さ、こちらへ……勝手口があります」
執事「ぎゃああ」
魔物の鉄の爪に引き裂かれて執事がころされた。
魔物「ハアハアグルルルハアハア………………」
魔物の低い唸り声が響き渡る。
シリル「ここは……?」
崩れ落ちる炎にはばまれ逃げ場を失う。
外から魔物の呻き声が聞こえる。
屋敷が魔物の炎によって包まれていく。
シリル「終わりね」
彼女はそう呟き、持っている物を投げ捨てた。
魔物がそちらを向けば逃げられるかもしれない。
しかしそんなことは浅はかな考えに過ぎなかった。
全く反応しない。
ただ一目散にこっち近づいてきたんだった。
ここは家から叫んでも誰も気がしない。
私はお嬢様のはずなのに、
誰からも世間からも疎まれ、
みんな私の存在なんて知らない。
ここで終わり。
魔物「ハアハアグルルル………………」
取り掛かろうとして私はグっと目をつむった。
しかしいつまでたっても私の体は二つに分かれたりしない。
見れた魔物は一目散に外に向かって走り出していた。
シリル「!」
窓から外を見る。
シリル「あれは……」
一人の青年がまだ屋敷の中に誰かいないかを探しているようだった。
いけないこのままじゃ。
私が大きな声で叫ぼうとした時、
魔物がその青年飛びかかった。
青年は大きな蹄で思いっきり掴まれている。
食べられようとしていた。
魔物「グハハアハアグルルル………」
シリル「やめてーー!」
ただただ私は叫ぶことしかできない。
力いっぱいの声で魔物がこっちに気づくかと思い叫んだ。
その声に魔物と青年が気づく。
カルラ「東北の廊下の端だ」
イルナ「了解兄貴」
シリル「え……」
シリル「何が起こったの」
イルナ「助けに来やしたぜお嬢様」
シリル「あなたは」
シリル「イルナちゃん」
シリル「なんで」
イルナ「そんなことはいいから早くここから」
シリル「何なのよ……」
抜け出せそうになっていたはずのイルナとお嬢様だったが、
魔物「グオオオー」
魔物の大きな地鳴りと共にまた建物が崩れ始めた。
イルナ「やばい伏せろ!!」
イルナが思いきり叫ぶ。
ごめんなさい。
ガバッ。
イルナ「なんだ?!」
せめて最後くらい。
そう思ってイルナちゃんをかばって思いっきりしゃがんだ。
シリル「…………?」
シリル「何が起こったの」
しかしいつまでたっても私達のいる部屋だけは崩れなかった。
そのまま静かに地面に着いた。
カルラ「大丈夫?」
そこにはたくましい……
じゃなくて安物のアイアンヘルムをかぶった一人の男。
私たちに結界魔法を使っていた。
シリル「あれ……あなた、あの時の」




