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第3章:烏合の戦場Ⅷ『天地人』


   ― Ⅳ ―


「百かぞえる内に作戦を考えろ」


 天の時、地の利、人の和――。

 (いくさ)という盤上において、これら三利を得ることが勝利への秘訣といわれている。


 しかしながら現時点において、以上すべてが赤鬼勢力に掌握されてしまっていた。

 東雲たちが生き残るためには、まずこれらを奪い取らなければならないのである。


 天の時――戦の火蓋が切られるタイミングは、すでに秒読みの段階である。

 艦隊がこちらの船と接舷(せつげん)した時点で、赤鬼の大軍が甲板へとなだれこむのだ。


 一方こちらの戦力は、武器を持ったこともないような者が大半の青っちろいもやし鬼、数十名と、ネズミが一匹、そして伊賀では下の下である捨て石がひとり……。

 まともに応戦してもまず勝ち目はない。


 すなわち、いかに素早く行動できるかが運命の鍵を握っていた。


 だがしかし、地の利もまた、この小さな部屋をのぞいた盤上のすべてが赤一色で埋め尽くされている状況である。

 逆転の策を練らなければ、勝ち筋など生まれようもない……。


 最後の頼みの綱は、人の和だが――。これは人徳ある者がなせる(わざ)であり、残念ながら東雲にはないものだ。


 しかし幸いにして、この場にはふたりの優秀な人材がいた。


 トトと、初老の船長である。


 船の内部構造を誰よりも知り尽くしている老人は、即座に陥とすべき場所と的確な行動経路を設定し、トトは弱者が赤鬼相手にとるべき戦法を短時間で指南した。


 戦闘に不慣れな青鬼たちの多くは、トトが牢から解放した者たちである。ゆえに彼らは疑念を抱くことなく、真剣に小さな戦士の教鞭へ耳を傾けた。

 海賊の砦から逃げおおせたという真新しい成功体験が、彼らの間に確かな信頼と勇気と団結力を生み出していたのだ。


 東雲はほくそ笑んだ。


 むろん、勇気と武芸は同等にならぶものではないが、いつだって絶望をひっくり返す嵐の目は、むこう見ずな蛮勇から生まれる。


 かの孟子をして、「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」と()うように、人の絆は強靭な一本鎗となりて、時に凝りかたまった運命の岩盤へ風穴を穿つ。


 そこから一陣の風が吹き込めば、戦況の流れは変わりゆくだろう。

 

 ――人の和は得た。

 ゆえに東雲のするべき仕事は、地の利をこちら側へ引き込むことであった。


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