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第2章:泳ぐ極楽島ⅩⅨ『青い違和感』


(お……?)


 しばらくして、食堂にレイラが戻ってきた。

 島の女衆にずいぶんと長い時間捕まっていたらしく、薄汚れたボロ雑巾のようだった姿が、頭のてっぺんからつま先まで見違えるように磨かれている。


 東雲は手帳を静かにめくりながら、横目で彼女の変貌ぶりを盗み見た。

 トトはすでにしゃべり疲れて一足先に夢の世界へと旅立っており、無防備に腹を仰むけにしていびきをかいている。


(……なんだ、また面倒事か?)


 東雲は怪訝な面持ちで酒をなめた。


 せっかく晴れやかな装いに彩られ、あかぬけたというのに、少女の表情はなぜだかひときわ暗く曇っている。

 原因は、隣りに立つ男のせいであるようだった。


「あれ、あの子は……」


 ふいに、背後の席でさめざめとむせび泣いていた若い青鬼の青年が声をあげた。砦に捕まっていた中のひとりである。


「よかった、知り合いと再会できたんだな」


 そう言って、ことさら感動したように鼻をすする。その口振りは、どこか他人事のようであった。


「知り合いって、アンタらはあいつと同じ船に乗っとったんだろう?」


「――ん? いいや、彼女は俺たちが海賊に捕まる前から、あの砦にひとりだけ囚われていたんだ」


「……なに?」


「君たちと逃げる少し前に、赤鬼(オグル)の頭目が彼女だけを牢から連れ出していってしまってね。心配してたんだよ。でも無事でよかったなぁ」


「…………」


 東雲は眉根をよせた。

 そういえば彼女はあの日、砦の二階の窓から飛びおりてきた。よく考えればおかしな話である。東雲が階段へ火を放ったのは、青鬼たちが牢から抜け出す前だったのだから……。


 レイラと話しこんでいる男は、東雲に水の杯をすすめてきた混じり者の青年であった。


 彼は人好きのする笑みを浮かべながら、少女の手をとり再び食堂を出ていった。


「ふーん……」


 彼女は始終、浮かない顔であった。


 東雲は数瞬だけあとを追いかけようか迷ったが、ガリガリと頭を掻いて、杯をあおった。

 それは護衛ではなく、忍の仕事だと思ったのだ。


 ただ、彼女は明日、西大陸行きの船に乗るのだろうかと、睡魔によってまんじりと鈍くなった頭で考えるのみであった。




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