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第1章:鬼ヶ島からの脱出ⅩⅦ『罠』


 同時刻。地下へとつながる隠し扉の前では、騒ぎを聞きつけた牢番と門兵が合流していた。


 ただでさえ幅のせまい通路に、泡を食った筋骨隆々の鬼どもが押しあい圧しあいひしめくさまは、筆舌につくしがたいむさくるしさである。

 だがしかし、この場の空気がまるで蒸し風呂を思わせる熱気で充満しているのは、盛りに盛られた赤黒い筋肉の押しくらまんじゅうが原因ではなかった。


 火事の第一発見者(・・・・・)がそのままにしておいたのか、半端に開かれた隠し扉のすき間から、白い煙がもうもうと立ち昇っている。


 赤鬼たちは目の色を変えて、例の仕掛けへと殺到した。


 鬼のひとりが鍵となる壁の石材を殴りつけ、四本の支柱に支えられた石床が降下する。

 下層へ着くやいなや、彼らは我先に隠し部屋の扉へとなだれ込んだ。


 深い地の底であるにもかかわらず、部屋の内部は真昼のように明るい。

 床を濡らす油が、独特な臭気をあげて燃え盛っているからだ。


 引火の原因は、壁掛けから落ちた照明用の油皿であった。

 それを管理するはずの不寝番は、喉から血を流し死んでいる。


 赤鬼たちは震撼した。


 こぼれた油を追いかけて蛇のように床をなめる炎が、白い植物へ食らいつき、根本からちぢれた灰塵(かいじん)へと変えていた。

 事は一刻を争う事態である。


「な、なんだってんだ!? どこのどいつがこんな――!!」


「侵入者か!?」


「んなことより草だッ! 草が燃えちまうぞッ!!」


「水持って来い!!」


 場は騒然とし、嵐のような怒鳴り声が支離滅裂に飛びかった。


 数人がまろぶように通路を引き返し、上階へ戻るために壁の石材を再度押しこむ。

 しかしどうしたことか、仕掛けはうんともすんとも動かない。


「おい、どうした!?」


「故障か?」


「冗談だろ!? こんな時に!!」


 赤鬼たちは色めきたった。そうこうしているうちにも炎はどんどん勢いを増し、にごった煙が天井を白く覆いはじめている。



 ――……余談であるが。


 混乱というものは、ひとつならば大概のことはすぐに収束をはかることができる。


 しかしそれがふたつ同時に発生すると、思考は少なからず混迷し、三つ以上となればもはや何から手をつければ良いのかわからなくなるものだ。



 ――このような恐慌状態を意図的に演出することこそ、忍者の十八番(おはこ)なのである。




 浮き足だった鬼の喚き声が地下の空洞に反響するのを、東雲は昇降機の裏側でにんまりと聞いていた。


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