第1章:鬼ヶ島からの脱出ⅩⅠ『情報収集』
忍法の中には〝相術〟という大変便利な代物がある。相手のしぐさや言動から、対象の性格、および心の表裏を読み解く人心把握術である。
しかしそんなものに頼るまでもなく、このネズミが稀に見るほど純朴な正直者だということは一目瞭然であった。同行者としてこれほど適している者もそうはおるまい。
あらゆる打算を舌の裏側に隠して、東雲は口を開いた。
「つかぬ事を聞くが、ネズ公」
「はい?」
「逃げろとは言うが、そもそもここはどこなんだ?」
「どこ、と申されましても……。自分もくわしいことは把握しておらんのです。ただ、オグルが占拠している孤島というくらいしか……」
「孤島だと?」
告げられた情報に内心で悪態をつく。
海が近いとは察していたが、まさか島とは……。これは一筋縄ではいかないかもしれない。
逃亡への手順を描き直しながら、もうひとつ引っかかる言葉があった。
「おぐる……、オグルとはなんだ?」
「オ、オグルをご存知ないので!?」
「皆目わからん。――……ついでに白状するとな、ここへ来るまでに随分と無体をされたらしく、ところどころ記憶が飛んでいやがる。すまないが、いろいろと教えちゃあくれねえか?」
「な、なんと!」
息をするように嘘を吐き、わざとらしく困った顔をつくってみせれば、ネズミはすんなりだまされた。
あざむいた本人が言うのもなんだが、この獣素直にもほどがある。
東雲はうっかりネズミの行く末が心配になったが、それはそれ、これはこれ。必要な情報を仕入れるため、背に腹はかえられないのだ。
これも人の善意につけこむ〝哀車の術〟という立派な忍法である。
ネズミはしばし悩ましげにうなっていたが、すぐさま端的に言葉を返した。
「あまり時間がありませんので、手短にお話しますと。オグルとは赤鬼の呼び名でございます。そして、この砦を根城にしている赤鬼どもは、ならず者の海賊なのです」




