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第1章:鬼ヶ島からの脱出Ⅷ『窮鼠、鬼を噛む』


(やりやがった……!)


 なんという番狂わせ。たかがネズミが――自身の何倍も大きな鬼を、ものの見事に倒してしまった。


 窮鼠(きゅうそ)が猫ならぬ鬼を噛もうとは、(いにしえ)の賢人ですら想像だにすまい。


 知らずしらずのうちに、東雲は一連の攻防にくぎづけになっていた。

 背筋が震え、肌があわだつ。――恐怖からではない。武者震いである。いつの間にか握りしめていた拳が、東雲の湧きたつような興奮を物語っていた。


「て、てめェッ!」


 めまぐるしい展開にただぽかんと立ち尽くしていたもうひとりの鬼も、ようやっと現状に頭が追いついたのか、赤ら顔をさらに赤く(いきどお)らせ、わなわなと吠えた。

 しかしその金の瞳には、わずかな怯えの色がにじんでいた。

 ――無理もない。一体誰が、このような逆転劇を予想できただろう。


 しかし勇気ある者の叛乱(はんらん)は、遊びの時間の幕引きでもあった。


 憤激した赤鬼は、床に転がっていた金棒を拾いあげると、容赦なく鎖を踏みつけた。

 いまだ鬼の首に巻きついたままのそれが、ネズミの体の自由を奪う。


 ――すでに勝負は決していた。


 事実として、圧倒的な体格差を前に、小さい者が大きな者に勝つすべは虚を()くほかなく、枷を押さえられてしまえば、後はただ無情に叩き潰されるのを待つのみである。


 しかしそれでも、ネズミは真正面から毅然(きぜん)と鬼をにらみあげた。


 その胡桃(くるみ)(いろ)の瞳には、一片の後悔も恐れもなく――この絶望的な状況においてなお、闘志の炎すら宿っていた。


 鬼が金棒を高々と振りあげ、小さな躰に叩きつけるその直前まで――意志ある瞳の輝きが消えることはなかった。






 ――人生は選択の連続である。


 ひとたび道をあやまれば、人の命などというものは、さながら海原にもまれた木の葉のごとく、たちどころに泡沫(うたかた)の狭間へと失われゆく。


 ――東雲の骨身に刻まれた教訓である。




 そうであるにも関わらず、気がついた時には飛び出していた。


 この突然の乱入にもっとも驚いたのは、他でもない――東雲自身であった。




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