第79話 適材適所
一カ月半程、お待たせしてしまいました。
待っていてくださった読者の方には、本当に多大なる感謝を……。
ありがとうございます!!
もぞり、と体を動かす。
魔王城で明かす、三度目の朝。
己以外の体温を感じながら、重たくもない瞼を動かした。
ハクは、己の寝具の上に横たわる吸血鬼をただ眺める。
今日はムクの方からハクの部屋の扉を叩いた。
そのままハクの部屋で2人床に就いたが、ハクには妙に違和感があった。
この世界に来てから今の今まで、ムクの使っていたベッドでしか寝たことが無かったためだ。
ムクの匂いのしない布団に身を包んでも、ハクは思う存分に安堵できなかった。
「……ん」
もぞり、ともう1人の吸血鬼が体を動かす。
ムクは重たそうに瞼を動かし、ハクを見上げた。
「ハ、ク?」
「あぁ、おはよう」
「おは、よ」
吸血鬼らしく朝には強くないムクは、甘える様にハクの身体にすり寄った。
熱を求める様に肌を合わせてくるムクに、ハクは眼を細める。
「寒いか」
「ううん……」
寝言か否定か、よく分からない反応をするムク。
敢えて寝言と取ったハクは、毛布を引き寄せムクに被せ、彼女の背を摩った。
「我は起きるが」
「まだ、寝てる……」
「そうか」
時計は六時を指し示している。
ミカエルの薬を服用するムクには、まだ活動できない時間だった。
寝てる、と言いながら離れないムクを、ハクは一度自身から剥がした。
(この時間なら、皆起きているか)
服を着替え、外套を羽織り、ハクは身の回りの整理をする。
ハクが支度を終えるまで、ムクはもぞもぞとベッドの中で動いていた。
「ムク」
「……」
身体は動いても頭が働いていないムクを、ハクは掬い上げる。
ハクにはムクを着替えさせることができない為、彼女に毛布を巻きつける。
ムクを抱えたハクは、自室を後にした。
「おはよう」
「おはようございます、ハク様。やはりお早い起床ですね」
「たまたまだ」
大広間への廊下にて、ハクはヨルムンガルドを見つけた。
数回言葉を交わした2人は、共に大広間へ足を向ける。
「ムク様は……」
「寝ているのに離さないから、連れてきた」
「ウンディーネを呼びましょう」
「あぁ」
紅茶の香りと共に現れる精霊に、ハクは簡単に挨拶を済ませる。
「おはようございます、ハク様」
「おはよう」
「あら、可愛らしい」
「ムクの支度を頼む」
「承りました。こればかりは、ハク様も手におえないですものね」
ハクは抱えるムクを、起こさぬよう注意を払いながらウンディーネに託す。
途中、ミカエルも混ざろうと飛び出してきたが、偶然通りかかったルシファーが制止させた。
「ムク様はまだ就寝中なのです。お静かに」
「ミィもぉ、混ざりたかったのですぅ~」
「ハハハ」
「ウンディーネの方が安全だからな」
ミカエルの攻撃を躱しつつ、ルシファーも後をついてくる。
2人加わったことで少し騒がしくなったハクの周囲に、ヒュドラは眼を細めた。
「おはようございます、魔王様」
「おはよう」
「随分と賑やかですね。朝食の準備を急がせましょう。後程、大広間へ紅茶をお持ちいたします」
「頼む」
厨房の前でかち合ったヒュドラへの挨拶も済ませ、ハクは大広間へ足を踏み入れる。
酒壺を前にチェスを嗜む桔梗はハクへと笑いかけた。
「おはようございます、ハク様。なんだかお早いお目覚めですね」
「あぁ、おはよう」
「あ? あぁ邪魔すんなよ」
桔梗の対戦相手は、サラマンダー。
劣勢気味のようだが、なかなかに熱い展開を盤上に繰り広げていた。
「俺が負けたら、コイツ酒飲むって言うから食い止めてんだ」
「「「でかした」」」
その場にいた桔梗以外の全員の意見が一致した瞬間だった。
ミカエルさえも、頷いていた。
「でしたら、私がサラマンダー側につきましょう」
「あー! ズルはダメですよ!」
「朝から酒を飲まれるよりはマシだ。何とでも言え」
「あちきはずっと禁酒しているのですよ? 多少は……」
「「「ダメ」」」
桔梗から秘蔵の酒を没収し、ハクは玉座につく。
ダユに酒を厨房へ運ばせ、ムクの到着を待った。
「おっはよ~☆」
「おはよう」
「なになに!? なんだか楽しそうだね☆」
ハクは、近づいてきたサキューに挨拶をしつつ、チェスを取り巻く当主達の状況説明をする。
するとサキューは、桔梗の後ろへ走り寄った。
「じゃあ、サキューちゃんはこっちにつくね☆」
「何言ってるんですか貴女!!??」
「こっちのほうがぁ、楽しそうだもん☆」
一気に騒がしくなった大広間に、1つの音が響く。
手を叩いたヒュドラの隣で、フェンリルが宣言する。
「ごっはんだよ!!」
ドローに終わったチェスもそのままに、当主達は食堂へ移動する。
ハクもまた重い腰を上げた。
「よぉ、ハク様」
「……おはよう」
影の中から這い出る様に、悪趣味な登場の仕方をしたレヴァナントに、ハクは溜め息を吐く。
つまみ食いをしているようで、レヴァナントは忙しなく口を動かしていた。
「また朝食抜きになるぞ」
「そしたらまた自分で調達するまでだ。そら、姫様の御登場だぞ」
ヒュドラの指した方向、大広間の入り口に、ムクが立っていた。
ハクの後ろを、レヴァナントは勝手についてくる。
ハクはムクの手を引き、食堂へと向かった。
***
「食料問題の解決策について、まずシルフを引き入れるとのことだが」
朝食後、ハクと当主陣は再度大広間に集合していた。
ハクの視線を合図に、ウンディーネが一歩前へ進み出る。
「ノーム兄様を引き入れる際に、スムーズに事を進める為にシルフの勧誘は重要事項となります。更に、ノーム兄様の後にシルフを勧誘する場合、良い返事はまず帰っては来ません。ですので、シルフを引き入れてから、ノーム兄様に協力を仰ぐのが、一番の解決策かと」
異論は無い、と言うように当主陣は各々に頷く。
それを見て、ハクは決断を下す。
「では、第一目標をシルフに定める。シルフの居住地は?」
「アルフヘイム」
今度はサラマンダーが口を開く。
ハクの前に広げられた世界地図の一角にヴィショップを置き、サラマンダーは続けた。
「妖精の国だ。ムスペルヘイムとは真逆の場所にある。アイツが好きそうな国だよ」
「他に特徴は?」
「もしかしたら、かち合うかもしんねぇ」
「何と?」
妹を思い、舌を出して言うサラマンダー。
濁した言い方をするサラマンダーに、ハクは先を促した。
「なんでもねぇ。で、誰が行くんだ」
ハクの問いには答えず、先を促そうとするサラマンダー。
その態度に引っかかりを感じつつ、ハクは話を進めた。
「俺とムク。それから、姉弟。あと当主を1人と言ったところか」
「じゃあウンディーネが、」
「いいえ、貴方が行くのですよ」
ハクの解を受け、サラマンダーが姉を指名する。
だが、その言葉を言い終わらぬうちに、逆にウンディーネが弟を指名した。
「は?」
「貴方が行くのですよ、サラマンダー」
「俺よりウンディーネの方が適任だろう」
「知っているんですよ。シルフと定期連絡を取っていること」
ニコリ、とウンディーネが笑う。
気圧されたサラマンダーは、ウンディーネから一歩後ずさった。
「シルフの今の状態を一番知っているのはサラマンダー。貴方が適任じゃない」
「なら、一緒に」
「それに」
言い返そうとサラマンダーが口を開くが、ウンディーネが遮る。
表情を引き締めるウンディーネに、サラマンダーは言葉を切った。
「そろそろ、私たちは距離を置かなくてはなりません。そういう意味でも、一緒には行けません。国を跨ぐのであれば、距離としては丁度良いでしょう」
「……そうだな」
真剣に言葉を紡ぐウンディーネに、サラマンダーは肯定する。
一転して穏やかな表情になったウンディーネは、弟へと歩み寄った。
「貴方なら、シルフの話を引き出せるでしょう? 貴方以上にあの子を分かってあげられる精霊はいないもの」
優しく笑う姉に、サラマンダーは照れたように視線を逸らした。
その反応を見、ウンディーネは嬉しそうに笑った。
「顔の忙しい姉弟だな」
「あら、ハク様。表情が豊かなのは良いことですよ」
「うっせぇ」
まったく逆の反応をする姉弟に、ハクは息を吐く。
ハクへと向き直ったサラマンダーは、改めて名乗り出た。
「俺が行く」
「決まりだな。では、当主の方は、」
サラマンダーに対し、1つ頷いて見せたハクは、今度は当主へと視線を投げる。
その時。
「ミィがぁ、一緒に行くのですよ~」




