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第78話 魔王城の賑やかな1日 拾弐


 勇者の姿を見、ハクはすぐにフェンリルへ命じる。

 走り出すと共に、フェンリルを戦場へ送り出した。


「……あっちから、聞こえる」

「ムク?」

「多分、いる」


 ハクの腕の中で、ムクが1つの道を指した。

 それは、地下へと続く階段とは真逆の道だった。


「おい、こっち、」

「行くぞ」

「……ったく」


 レヴァナントは階段を指すが、ハクはムクに従って足を動かした。

 その行動に、レヴァナントは溜め息を吐きながら後を追った。

 中庭を抜けながら、ハクは朝通った道をなぞる。


「こっちに行くとどうなる?」

「地下に行けるが、……いや、行かないのか」

「何?」

「ここ」


 ハクの問いに、1人で納得するレヴァナントにハクは首を捻る。

 ハクが重ねて問おうとした時、ムクが再度声を上げた。


「ハッ、ビンゴ」


 目の前の扉に、レヴァナントは口角を上げる。

 ハクは、朝通った道をなぞった。

 たどり着いたのは、武器庫だった。


「ここか?」

「ここ」

「そうか」


 ムクを降ろし、ハクは問う。

 頷くムクに、ハクは武器庫の扉を開けた。

 3人は、武器庫の中に足を踏み入れ、中を見渡した。


「何か変か?」


 武器庫の中を歩き、レヴァナントが2人に問いかける。

 ムクはハクのそばを離れ、部屋の隅を真っ直ぐに見つめた。


「……いる」


 ゆっくりと、ムクは自分の感じ取った何かに従って動く。

 ハクとレヴァナントもまた、ムクの後を追った。


「……! ……!!」


 角に近づくにつれ、3人の耳に何かの音が届き始めた。

 ハクは静かに身構え、ムクの背後を離れない。

 3人は、声のする場所を覗き込んだ。


「キェエ! キェエエ!!」

「……マンドラゴラ?」


 そこには、武器に埋もれたマンドラゴラがいた。

 ムクが優しい手つきでマンドラゴラを救出する。

 そのマンドラゴラは、純白の羽を大事そうに抱えていた。


「これ、ミカエルのか?」

「だろうな。落ちていた羽を追いかけてここまで来たのだろう」


 ハクは扉へ視線を投げ、納得したように1つ頷いた。

 レヴァナントもまた、腑に落ちた様に溜め息を吐いた。


「やっぱマンドラゴラのせいじゃねぇか」


 頭をかくレヴァナントに、ハクは首を傾げる。

 勇者を見た際に感じた何かを探る様に、ハクはレヴァナントへ尋ねた。


「ここに勇者がいたのか?」

「あ?」


 ハクの言葉に、レヴァナントは驚いたように顔を上げた。

 真っ直ぐに見つめてくるハクに、レヴァナントはマンドラゴラの居た場所を指す。


「そこにあったろ、鎧」

「鎧、」


 ムクがしゃがんでいる場所を眺め、ハクは記憶を探る。

 帯刀している打刀が、チャリ、と静かに鳴った。


「Graaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!」


 その時、扉の向こうから勇者の咆哮が轟いた。

 ギィイ、と音を立てて開いた扉に、3人の目は釘付けになる。

 向こうからやってきた答えに、ハクはようやく理解した。


「なるほどな」


 それは、確かに今朝、この場所にあった鎧だった。

 ハクはムクの前に立ち、勇者を睨む。

 レヴァナントも札を取り出し構える。


「Gruuuuuu」


 勇者の鎧の傷は増えており、フェンリル達の頑張りが目視できた。

 勇者と睨み合うハクは、静かに左足を下げた。

 その際、太ももに当たった鞘に、ハクは刀の存在を思い出す。


「……あの方への謀反を企てた愚か者の亡骸の傍に転がる呪われた刀、だったか」

「ハク?」

「あ?」


 打刀の柄に手をかけ、ハクはポツリ、と呟く。

 チャリ、と返事をするように鳴る打刀に、ハクは口角を上げた。


「皆がお前を呪われた刀と例えるのなら、我はお前をこう呼ぼう」

「Gruuuuaaaaaaaaa!!!!」


 迫りくる勇者から、視線を外さず。

 ハクは、柄を強く握りしめ、刀を呼んだ。


「神刀・村正!!」


 抜刀と共に、刃から鞘と同じ紫紺の光が放たれる。

 妖艶に輝く刃を持つ打刀は、ハクの手に随分と馴染んだ。

 握った刀の加減に、ハクの身体は自然と軽くなる。


「足止め、出来るな?」

「効くか分からねぇが、しょうがねぇ」

「いくぞ!」


 言葉と同時、ハクは刀を手に飛び出した。

 レヴァナントは勇者へ札を投げつけ、指を鳴らした。


「Graaaaaaaaaaaaaa!!!!!」


 鎧に流れる電流に、勇者は声を上げる。

 だが、先程の様に強い効果は無く、ただ動きが鈍るだけだった。

 勇者がハクへ斬りかかろうとした時、その体に、植物が絡みついた。


「Gruuuuaaaaaaaaaaaa!!!!!」

「ハク」


 勇者へと手を伸ばし、ムクは無詠唱で魔法を発動させた。

 石畳の隙間から発生した無数の植物は、完全に勇者の動きを封じる。

 勇者は、斬られるのを待つしかなかった。


「Gruuuuuuuuuuuuuuuuuuuu」


 真っ直ぐに、ハクは勇者へと向かう。

 まるで自分の一部のように感じられる刀に、ハクは、迷うことなく勇者へと刃を滑らせた。


「Graaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa」


 村正は、勇者の鎧の内側のみ(・・・・)を斬った。

 最後の叫びと共に、勇者の亡霊は、徐々に形を失っていく。


「次に勇者をやるならば、最初から此方に居ろ」

「Gruu、a、a」

「大義であった」


 ガタリ、と大きな音を立て、鎧が崩れ落ちる。

 中身が空になった鎧が、そこに転がっていた。


「俺が、当主だってのにな……」


 レヴァナントは、静かに亡骸に近づき、鎧を撫でる。

 ハクは、紫紺に光らなくなった刃を見つめ、鞘に納めた。

 刀の重さを実感しているハクに、ムクが歩み寄る。


「無事?」

「問題ない」

「そう」

「あぁ」


 マンドラゴラを抱くムクの頭を、ハクは優しく撫でる。

 立ち上がったレヴァナントは、2人を眺め、口角を上げた。


「感謝申し上げます。長年、苦しんでいるのを知りながら、魂を解放してやることのできなかった彼を、救っていただいたこと。な、ハク様(・・・)


 舌を出して見せるレヴァナントに、ハクは眼を細める。

 マントを翻し、ハクはムクを連れ歩き出す。

 レヴァナントは、鎧を一瞥し、魔王の後を追った。


    ***


「ミカエル」

「ミィはいないのですよぉ~」


 夕食が用意された食堂にて。

 ハクが静かにミカエルの名を呼ぶ。

 他の当主もまた、冷たい瞳をしていた。


「明日のディナーに鳥の丸焼きを頼みたい」

「かしこまりました」

「ミィは鳥じゃないのですよ!?」


 ハクの注文を、ヒュドラが快く了承する。

 自分を鳥扱いされたことに、ミカエルがすかさず食いついた。


「マンドラゴラだって、ムク様とハク様が全て見つけてくださいました。その上、勇者の魂を解放したのもハク様です。ミカエル、貴女何もしてませんよね?」


 状況を整理し、ヨルムンガルドがミカエルを睨む。

 勇者の足止めに加勢した当主、非常事態の通達をした当主。

 ミカエル以外の当主陣は、彼女を静かに眺める。


「マンドラゴラの件についてはぁ、申し訳ないと思っているのですよ~? でもぉ、非常用装置の件についてはぁ、責任を取り切れないのですよぉ」

「サキューを呼べ」

「かしこまりました」

「何するつもりなのですかぁ!?」


 再度ヒュドラと言葉を交わすハクに、ミカエルは羽をバタつかせる。

 その羽から、純白が1枚ふわりと落ちた。


「今朝から、ロクなことしてないな」

「な!? 今朝魔王様に飲ませたのはぁ、魔力神経の治療薬なのですよぉ!? それにぃ、ちゃんと注意したのですよぉ!?」

「注意?」


 頬杖を突きながら、ハクは溜め息を吐く。

 ハクの言い分に、ミカエルは頬を膨らませて抗議した。


「ミィはぁ、城の中に居る全員が不運になるって言ったのですよ!?」

「……?」


 聞いた覚えのないミカエルの言葉に、ハクは首を捻る。

 今朝の出来事を思い起こしながら、ハクはパズルを完成させた。


『大丈夫なのですよ~。死なせたりはしませんから、安心してほしいのですよ~。ただちょっとだけ、今城の中にいる全員が不運になるだけなのですよ~』


 ミカエルからのヒントを元に、聞き取れなかった穴を埋める。

 やっと飲み込めた言葉に、ハクは1つ頷いた。


「やっぱお前が元凶じゃねぇか」

「な!?」


 レヴァナントが、横から口を挟む。

 すかさずミカエルが振り向きレヴァナントへ噛み付こうとした。

 止まらないミカエルに、ハクは多数決を取る。


「ミカエルに責任があると考える当主は挙手」


 ハクの声に、当主陣が一斉に手を挙げる。

 酔っていた桔梗や、ウンディーネ、ムクまでもが手を挙げた。


「満場一致だな」

「何故です!? 公平な判断を所望するのですよぉ!」

「十分、公平です」

「公平なのに私が悪いのですかぁ!?」

「「「自覚しろ!!!」」」

「ミカエル、反省、して」

「ムク様までぇ!?」


 当主陣に囲まれ説教されるミカエルは、ムクに助けを求めようとし、先手を打たれる。

 ムクは勇者から逃れる際に汚れてしまったスカートを見下ろす。


「可愛いし、見惚れるくらいに似合ってるから安心しろ。少し汚れたくらいなら、ウンディーネがどうにかする。また着るだろ?」


 袋叩きにされるミカエルを眺めながら、ハクはムクの頭を撫でる。

 優しさが感じ取れる手つきに、ムクは眼を伏せ、コクリ、と頷いた。


「あんまりなのですよぉ~!!」

「「「全然足りない!!!」」」

「我も加勢するか」

「ハク、」

「何だ?」

「かっこ、よかった」

「……あぁ」


 長い間、静寂に包まれていた冷たい魔王城。

 そんな魔王城に訪れた、何でもない、他愛のないただの日常。

 魔王城の、賑やかな1日。

 明日もまた、幕は上がる。




魔王城、終劇。

朝が来るたび、幕は上がる。

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