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第73話 魔王城の賑やかな1日 漆


「そっち!! 君たちは庭の方!! あ、待ってそっちじゃない!!」

「空から探すのですよ! なにか小さなものが動いていたら、必ず確認するのですよ!」

「隅の隅まで、手を抜かないように! 見つけ次第、連絡する者と捕獲する者に別れなさい!」

「いいですか、皆さん。普段掃除をしている時に見逃しがちな部分を、特に重点的に探すのです」


 慌ただしく、当主達は走り回る。

 自分の配下に支持を出し、広大な魔王城を隈なく探していく。


「主、こちらにはいませんでした」

「そうか」

「地下行くかぁ?」

「地下なら、ルシファーとヨルムンガルドが担当しているはずだ」


 ハクは、レヴァナントとダユを連れ、廊下を回る。

 それぞれ、階に別れマンドラゴラを探した。


 地下階担当――ルシファー、ヨルムンガルド

 1階担当――フェンリル

 2階担当――ヒュドラ、桔梗

 3階担当――ハク、レヴァナント、(ムク)

 4階以上――ミカエル


 配下の数が多い当主は1人で1つの階を担当する。

 地下は2階まであるため、ルシファーとヨルムンガルドが2人で回る。

 レヴァナントの配下は、野菜の種集めも担っている為、1階と3階の二手に別れるため手薄になる。

 なのでムクも頭数に入れたチームとなっている。


「マンドラゴラの外見がわかれば、まだ捗るのですが……」

「今更だろ」


 頭を押さえるダユに、レヴァナントが舌を出す。

 ミカエルの言葉を思い出しながら、3人は揃って溜め息を吐いた。

 それは、ほんの数分前の事。


『わからないのですよ~。薬の調合に集中していたのもあるですが~、そもそも煙がすごくて、マンドラゴラの姿が良く見えなかったのですよ~。すぐに逃げたのもあるのですよ~』


 それのせいだろ、とその場にいた全員がツッコんだのは言うまでもない。

 ヨルムンガルドに叱られるミカエルの姿を頭の隅へ追いやったハクは、マンドラゴラ捜索に集中する。

 マンドラゴラの姿を思い浮かべようとしたハクは、ふと、ダユを見た。


「マンドラゴラは、どんな姿だ」

「あぁ、主は見たことないですね」

「「こんな感じですよ」」


 ハクの質問に呼応し、ポン、という音と共に発生した煙の中から、2体のマンドラゴラが現れた。

 そっくりの、だが片方のマンドラゴラの方が一回り大きかった。

 緑の葉っぱに丸いフォルム。

 申し訳程度に生えた手足は、可愛さを引き立てる。

 現れたマンドラゴラと消えたダユに、ハクは予想を付けた。


「……レヴァナント」

「ん?」

「お前ぇ……!!」


 ケタケタと笑うレヴァンナントに、ハクは眼を細める。

 怒ったように手を振り回す小さなマンドラゴラは、大きなマンドラゴラに襲い掛かる。

 わざと敬語を使ったところまでが、皮肉だ。


「ダユ」

「はい」


 大きなマンドラゴラを殴る手を止めた小さなマンドラゴラに、ハクは息を吐く。

 幻獣であるダユにとって、見知った物体に変化するのは簡単なこと。

 説明するよりも速いだろう、と姿を変えたダユにレヴァナントが対抗した結果が、大きなマンドラゴラだった。


「ほどほどにしておけ」

「あいよ」


 呆れたように言葉を投げるハクに、レヴァナントは大きなマンドラゴラを引き寄せる。

 そして、マンドラゴラに息を吹きかけ、姿を戻した。


「いいだろ」

「「別に」」


 1枚の紙を自慢気に見せるレヴァナントに、ハクとダユは首を横に振る。

 2人の反応に肩を落としたレヴァナントは、静かに紙を仕舞い込んだ。


「ダユ」

「はい、主」

「お前、そのままでいろ」


 ダユを拾い上げながら、ハクは彼に命じた。

 ハクは、手に持ったダユを、そっとレヴァナントの肩に置いた。


「うわっ!?」

「うわ?!」


 肩に置かれたマンドラゴラ(ダユ)に、レヴァナントは肩を震わす。

 悲鳴を上げ、レヴァナントは迷わずダユを掴み壁へ投げつけた。

 突然の扱いにダユは困惑しつつ、壁を跳ねレヴァナントの顔へ見事な蹴りを入れた。


「なにすんだ!」

「グハッ!?」


 跳ね返ったダユを、レヴァナントは顔面で受け止める。

 叩き付けては跳ね返るを繰り返す2人を、ハクは静かに見つめる。


「仲が悪いのはいいが、程々にな」

「「あんたが引き起こしたんですよねぇ!?」」


 相手に襲い掛かりつつ、2人はハクへ叫んだ。

 聞き流すように視線を外すハクに、2人は体を大きく動かし訴える。

 どこかつまらなそうに窓を眺めるハクに、2人は顔を合わせた。


「魔王様よぉ、いたっ」

「なんだ」

「やはり仲直り、ぐはっ」

「ムク様と、あっ」

「動きを止めろ」


 攻撃の手を止めずに語る2人に、ハクは顔を顰める。

 互いを殴りながら、2人は動きを止め、ハクを見た。


「痴話喧嘩は見てる分には面白れぇが、不貞腐れられるのは面倒だ」

「……喧嘩などしていない」

「嘘つけ」


 顔を背けるハクに、レヴァナントは眼を細める。

 ゆっくりとハクに近づき、レヴァナントは真っ直ぐにハクの瞳を覗く。


「シャルルムックは、魔王様と離れただけで泣きじゃくったんだろ。今は、どうなんだよ」

「……我の知るところでは」

「知ってんだろうが!!」


 ムスペルヘイムでの出来事を指しているレヴァナントに、ハクは眉間に皺を寄せる。

 ハクに掴みかかる勢いで声を荒げるレヴァナント。


「テメェの女すら守ろうと思わねぇ奴が上に立つんじゃねぇよ」

「ムクだけを護る為に我はいるんだ。上に興味はない。なんならお前に譲ってやろうか」

「あぁもらうぞ。俺だって王子やってたんだ余裕だよ」


 睨み合う2人は火花を散らす。

 姿を戻したダユは、だが止めようとせず静かにハクを見つめていた。


「その立場すら、シャルルムックがテメェの為に作ったもんだ。それすらわからずに、簡単に譲るのかテメェ」

「我は、」

「そんな腰抜け、シャルルムックがすぐに手放すかもな」


 止まらないレヴァナントは、1人でムクの心情を語る。

 彼から出た言葉に、ハクはハッキリと言い放つ。


「ムクが我以外を見るなど、ありえないだろう」


 声色を変え、断言したハクに、2人は顔を歪める。

 ハクの顔へ手を伸ばすレヴァナントを止め、ダユは2人の間に割って入った。


「主」


 レヴァナントは、舌打ちをしつつ身を引く。

 革ジャンのポケットに手を入れ、レヴァナントは2人を眺める。

 ダユは真っ直ぐに、ハクを見つめた。


(ハク様)にとって(ムク様)がそうだとしても、(ムク様)にとっての(ハク様)がそうとは限らないのですよ」


 まるで誰かの気持ちを代弁する様に、ダユは告げる。

 誰かを思いながら、ダユは胸に手を当てた。


「主はムク様と離れても心配いらないと言い切れたのだとしても、ムク様は真逆。離れた分だけ、不安だけが募っていく、それが、ムク様です。離れたことの無い存在を失う恐怖を、貴方は彼女に教えたのですから」


 言葉を重ねるごとに、ダユは顔を歪めていく。

 少しずつ、少しずつ。

 苦しむように、傷つく様に。


「主にとってのムク様は、ムク様だ。今も前も、全て。だが、ムク様にとっての主は、前の、2人で暮らしていた、あの時の主なんだよ。あの時の主だけが、ムク様にとっての『ハク』なんだよ。ムクにとっての『ハク』は、今の、『吸血鬼のハク』じゃない。『人間のハク』だ。笑顔で頭を撫でてくれたあのハクだけが、自分に愛を向けていたと、愛していたと、不安になっているんだよ。だから、主」


 自然と、言葉から敬語が外れていく。

 自然と、声に力が籠る。

 ダユは、真っ直ぐに、ハクを、見た。


「自分の、愛する者に、伝えることを恐れるな」


 真っ直ぐに。

 ダユは、訴える。

 助言の様に、叱責の様に。


「あんたはまだ、遅くないだろ。後悔する必要はないだろ。純粋でなくとも、なんだよ、なんで、お前の『愛してる』には、あの頃のような純粋さが微塵もないんだよ!!」


 苦しみながら、ダユは紡ぎ続ける。

 拳を強く握り、声を震わせながら。


「わかんないんだよ、愛していても、相手には、俺には、わかんないんだよ。どうしたって、伝わんねぇよ。離れることに躊躇いの無い相手に、どうして自分への好意があるなんて信じられる!?」


 もはや主に対する話し方ではなくて。

 ただ、感情だけをぶつけるだけのそれに。


「俺だってわかんねぇよ。離れるのも、全然寂しくなさそうに笑ってる相手に、どうして自分へ好意があると信じきれる? 突然手を離した相手に、どうしてまだ好意があるなんて信じきれる? 突然、突然中身が変わった相手が、どうしてまだ、自分への好意だけが残っているなんて、思い上がれるんだ?」


 ダユの瞳に、ハクは強く揺さぶられる。

 ハクは、大きく眼を見開いた。


「お前のムクは、いまどうしてる?」


 ハクの心臓が跳ね上がった。

 ムクの姿が、ハクの頭を駆け巡る。


 ――ハク


 小さくて、細くて、か弱くて。

 赤い瞳で己を見つめるムクを。

 思い出す。


「……ムク」


 顔を覆うように、ハクは目元に手を当てる。

 ただ、ハクはポツリと、ムクの名を呼んだ。

 2人の様子を眺めていたレヴァナントに、1つの着信が入った。


「レヴァナント」

「あん?」


 ポケットから自分のテルアイテムを取り出す。

 レヴァナントは、わざと2人に内容が聞こえる様に話し始めた。


「ヨルムンガルドだ。緊急事態だ」

「今以上の緊急事態ってなんだよ」


 電話の相手はヨルムンガルド。

 地下からレヴァナントへ連絡を飛ばしたヨルムンガルドは、声を低くし、深刻そうに告げた。


「非常用装置が作動した」

「……は?」


 その言葉に、レヴァナントは固まった。

 不穏な空気が、3人の間に流れ込む。

 ハクは聞きなれない言葉に首を傾げ、ダユは青ざめた。


「奴は魔力の高いものを狙う。今、この城で一番魔力が高いのは、間違いなくムク様(・・・)だ。今、ムク様は合流しているのか?」


 続いたヨルムンガルドの言葉に、ハクは顔を上げた。

 ヨルムンガルドとの通信を切ったレヴァナントはハクへと振り返る。


「だってよ」

「……」

「行けよ」

「だが、」

「こんだけ魔物が徘徊してりゃ、そのうち見つかんだろ。行け」


 淀むハクに、レヴァナントは眼を開く。

 ダユもまたハクを見つめ、期待する。

 2人の視線を浴び、ハクは、拳を握った。


「……ッ」


 大きく、マントを翻す。

 大きく、一歩踏み出し、ハクは走り出した。

 小さくなるハクの姿に、ダユは安堵したように胸を撫で下ろした。


「ったく、こんだけお膳立てしなきゃうごかねぇとか、ただのアホだろ」

「そう言うな」

「……お前は、ウンディーネんとこ行かなくていいのか」

「今は、ムク様と居るのなら、俺は邪魔になるだけだ」

「そうか」


 未だつながったまま(・・・・・・・・・)のテルアイテムを握りながら、レヴァナントはダユの隣に並ぶ。

 2人は、互いに一瞥し僅かに微笑み。

 拳を繰り出した。




ダユの口調は、公式で『定まっていない』設定です。

定まらないのが正しいんです。

言い訳じゃないです。

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