第71話 魔王城の賑やかな1日 伍
「御馳走様」
「お粗末さまでございます」
昼食を終えたハクは、静かに食堂を後にする。
役割のある当主たちは、それぞれ適当に食事をする為食堂に集まらない者もいた。
「魔王様」
廊下を歩くハクに、1つの声がかかった。
振り返ったその先には、追い掛ける様に食堂を出る桔梗の姿があった。
「なんだ」
「この後お暇がありましたら、ぜひ手合わせしたいと思いまして」
桔梗は、ハクの帯刀する刀に眼を落とす。
彼女の視線に気づいたハクは、眼を細め首を振った。
「暇がないわけではないが、今日はやめていおいた方がいい」
「何か、訳でもあるのですか?」
渋い顔で断るハクに、桔梗は不思議そうに首を傾ける。
間を置き、桔梗を納得させる答えを探すハクは、顔を引き締め、彼女の眼を真っ直ぐ見、告げた。
「ヨルムンガルドが、死んだ」
「ヨルムンガルドが……!?」
悔しそうに告げられたハクの言葉に、桔梗は眼を見開き、全身でリアクションを取る。
どこから湧いたのか、笑いを堪え震えるレヴァナントを、ハクは睨みつけた。
「では、今日はやめておきましょう」
「あぁ」
どこか残念そうに大剣を下ろす桔梗。
彼女が酒瓶を隠したのを、ハクは見逃さなかった。
「明日以降なら引き受けてもいいが、酒は禁止だぞ」
「あら? なんのことですか?」
魔法で亜空間に酒を仕舞う桔梗に、ハクは釘を刺す。
微笑み、ハクの視線を交わす桔梗は、ふと気づいたように辺りを見回した。
「シャルルムック様は、どちらに?」
不思議そうに尋ねる桔梗に、ハクは眉間に皺を寄せる。
頭を押さえ、ハクは眼を逸らしながら答えた。
「探しているが、見つからない」
「……侵入者ですか?」
「そう急くな」
大剣を握る桔梗を、ハクは宥める。
握る手は緩めぬまま、桔梗はミカエルの研究室へ視線を投げた。
「ミカエルが知ったら、それはもう大騒ぎですよ」
「過激派だしな」
憂う桔梗と、ケタケタと笑うレヴァナント。
ミカエルに深く関わっていないハクでも予測できる結末に、3人は眼を合わせる。
「城を全て探すのは、少々骨が折れますからね」
「死霊共に探させたが、魔王様がたの部屋以外は、いなかったとさ」
死霊は、壁という物理が通用しない。
広大な魔王城の中で、探しものをするにはうってつけの種族だった。
「でしたら、どちらかの部屋に?」
「ムクの部屋にはいなかった」
「なら魔王様の」
「……そこまで、自惚れてはいない」
可能性を否定しながら、ハクは爪を噛む。
傍から眺める2人にも、ハクの焦燥は見て取れた。
自分の苛立ちに気付いていないハクに、2人は顔を見合わせた。
(……この御2人、もしかしなくとも)
(相当拗らせてやがるな)
視線で語る2人は、ハクに気付かれぬ様小さく肩を竦めた。
呆れる2人は、近づいてくる白い袋に眼を留めた。
「なんだアレ」
「あれは……」
2人の声に、ハクも振り返り袋の存在を捉える。
跳ねる様に廊下を移動するそれに、3人は次第に存在を把握する。
「おーい!」
「フェンリル」
「ちいせぇなぁ」
サンタの様に大きな袋を担ぎ、フェンリルが手を振りながら3人に走り寄る。
息1つ切らさず、フェンリルは3人を見上げて笑う。
「今小さいって言わなかった?」
「言ってねぇ」
「返事するってことは言ったってことだな!!」
(流石は獣……)
耳を動かすフェンリルは、レヴァナントに噛み付く。
離れた場所から聞き取った獣の聴覚に、ハクは静かに感心する。
「それか」
「あ、うん! 取り敢えず色々な野菜の種を……」
ハクは、フェンリルの持っていた袋を指さす。
ドサリ、と鈍い音共に置かれた袋から、ハクは小さな体の強靭な力に獣性を感じる。
レヴァナントから離れたフェンリルは、袋の中に手を入れ、種を取り出して見せた。
「これがジャガイモ、サツマイモ、トウモロコシ。あとミョウガ」
「ミョウガ……?」
「栄養バランスが偏りますね」
謎のチョイスに、ハクは顔を顰める。
ハクの様子に気づかないフェンリルは、腕を組み唸る様に考え始めた。
「やっぱりこの国だけだと野菜の種が手に入りずらいんだよねぇ。トマトとか」
そもそも、農耕をしない国で、野菜の種を集めるということ自体に無理があった。
考え込むフェンリルに、ハクは少し頭を捻り提案をする。
「ヒュドラから譲り受けたらどうだ。料理の最中に捨てるだろ」
「あぁ、その手があったか。お昼食べながら聞こうかな」
提示されたそれに、フェンリルは納得がいったように手を打つ。
早速行動に移るフェンリルは、種を仕舞い、袋を担ぎ直す。
「またね!」
「あぁ」
もう一度手を振り、フェンリルは3人に背を向ける。
1匹の狼がその場を走り去ろうとした時、城中に爆音が轟いた。
「「「!?」」」
4人は驚愕で動きを止める。
3階より上から轟いたそれは爆発音のようで、城が揺れる。
先程の、厨房からした音とは比べものにならない程の大きさの音。
柱にヒビが走り、砂埃が僅かに舞う。
4人の中で一番耳がいいフェンリルは、驚いたと同時、袋を離してしまった。
「あ!!」
「今度はなんだ!」
「種が!!」
開いた袋の口から、容赦なく種が飛び散る。
ジャガイモやサツマイモは目につきやすいが、他の種は遠慮なく転がり、見失う。
絶望で、フェンリルの顔は青白く染まっていく。
種が階段を落ちる高い音が響く中、4人はただ見つめることしかできなかった。
「……レヴァナント」
「……あいよ」
ハクは、そっとレヴァナントの名を呼んだ。
魔王の声に応えるレヴァナントは、1つ、指を鳴らす。
と同時、配下である数多の死霊が現れた。
「フェンリルの指示に従え! 小さな種も、1つ残らず回収しろ!!」
腹から出す芯の通った大声で、レヴァナントは死霊たちに指示する。
声を出す代わりに頷く死霊は、種を回収すべく散らばった。
「フェンリル」
「まっかせて!」
続けて、ハクはフェンリルの名を呼ぶ。
立ち直ったフェンリルは、身軽さを発揮し階段を飛び降りる。
フェンリルを見送った後、ハクはレヴァナントを見つめる。
「あ?」
「死霊って、案外(雑用に)役立つんだな」
「今失礼なこと言わなかったか?」
頷き、感心を露わにするハクに、レヴァナントは血管を浮き出させた。
オラつくレヴァナントをよそに、ハクは3階を見つめる。
「まぁ、犯人は」
「大っ変!! なのですよぉ~~~!!!!!!」
「……ミカエル、ですよね」
3階へ続く階段から、緑の煙が下りてくるのを眺め、桔梗は犯人を指名した。
ミカエルの悲鳴に、3人は大きく溜め息を吐く。
「ヘルプミィなのですよぉ~~~!!!! いっそ悪魔でもいいのですよぉ!! ミィを、助けてほしいのですよぉ~~~!!!!」
「そのポリシー曲げちゃダメだろ」
続いて響いたミカエルの言葉に、レヴァナントは冷静にツッコミを入れる。
濃くなる煙に、ハクは顔を顰め、世話役を呼び寄せる。
「ウンディーネ」
「ここに、おります」
ハクの呼び声に、ウンディーネが飛び出す。
ウンディーネは、フェンリルの持っていた袋の中にあった水筒から、姿を現した。
水の精霊であるウンディーネは本来、水さえあればどこへでも行ける存在。
主人が呼べば、すぐに飛びだすことのできる身であった。
「ムクの安全確保を」
「かしこまりました」
ハクは手早く命じ、ウンディーネはすぐに姿を消す。
咄嗟に、ウンディーネを呼んだハクに、桔梗は関心を向ける。
「気が無いふりをしていても、しっかりとシャルルムック様を気にかけているのですね」
「気が無いふりなど、したことが無いが」
「そういう年頃なんだろ」
「フフフ」
首を傾げるハクに、桔梗は温かい微笑みを向ける。
茶化すレヴァナントに銃口を向け脅しながら、ハクは上階へ繋がる階段へ視線を向ける。
「行くぞ」
「はい」
「行くから銃口退かしてくれませんかね」
2人のやり取りを眺め、クツクツ、と桔梗は笑う。
悪態をつきながら歩くハクとレヴァナントに、桔梗は眼を細めた。
「仲がよろしいようで」
「「良くない!!!」」
時間別閲覧、フルコンボしました!!
もしや、読者様の中にDIO様いたりしますか……?
本当に、ありがとうございます!!
これからも精進してまいりますので、よろしくお願いいたします!




