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第68話 魔王城の賑やかな1日 弐


「これと、これ、かな?」

「こっちの上質なのがいいのですよ~」

「……何につかうのさ」

「乙女の秘密、なのですよ~」


 魔王城裏にて、フェンリルとミカエルがマンドラゴラの収穫をする。

 叫び声をあげさせぬ様、慎重に。

 フェンリルは質の悪いマンドラゴラを渡そうとするが、ミカエルは質の良いものだけを選んでいく。

 しかし、ミカエルは質がどうであれマンドラゴラが手に入るという事実が嬉しそうだった。

 2人のやり取りをハクは廊下から一瞥する。


「ハク様、こちらです」

「あぁ」


 ヨルムンガルドの案内に従い、ハクは2人からすぐに眼を離した。

 大きく動かし過ぎたせいで抜け落ちた羽が数枚宙を舞う。

 ハクは、それに気づくことは無かった。

 ムクと手を繋ぎながら、ハクはヨルムンガルドの隣を歩く。


「ここが、武器庫になります」


 3人は、大きな扉の前で立ち止まった。

 山のように積まれた書類を、ヨルムンガルドの助けを借り粗方片づけたハク。

 次の仕事に移る前としたハクに、ヒュドラが勧めたことで魔法が使用可能になるまでの期間、体術を重点的に鍛えることとなった。

 ヨルムンガルドが扉を開けると、そこには目を見張る引きが壁一面に並んでいた。

 剣、槍、弓、杖、銃、竪琴。

 幅広いジャンルの武器は、どれも丁寧に手入れされており、曇りなく輝いていた。


「数が多いので、武器庫と武具庫に別れております。ここ武器庫には名の通り武器が収められております。どうぞ、お好きな物を」


 どこに何があるのか、広い武器庫の中を説明しながら歩くヨルムンガルドの後ろを、ハクは黙ってついて行く。

 ハクから少し離れた場所で、ムクは鎧の隣に飾られた短刀を吟味していた。


「いいのはあったか?」

「ううん」


 ムクに倣い、ハクもまた壁に飾られる武器を眺める。


(斧では大きすぎる。かといって、魔法の鍛錬も十分でない以上、杖も満足にはつかえぬだろう。桔梗のように大剣にするわけにもいかない。となれば)


 持ち上げてみたり、軽く振ったり。

 自分にあった武器を探すハクは、銃が飾られた一角に立ち寄る。

 小型拳銃からジョットガン、散弾銃となんでもあり。

 目の前に並ぶ銃の中で、ふと目に着いたものにハクは手を伸ばした。


「ガバメント……?」


 ポツリ、とうろ覚えの名を呼ぶ。

 白鼠色のボディーに黒のグリップ。

 重さはあって150gといったところ。


(元いた世界でやってたアニメに、2丁持つツインテールがいたな。サバゲーの真似して使ってみたこともあるが……)


 手にした銃を見下ろしながら、ハクは記憶を掘り起こす。

 徐に、ハクは引き金に指を駆け、銃を構えた。


「ふむ」


 手に馴染むそれに、ハクは満足そうに頷く。

 近くにあったホレスターに銃を入れ、腰につける。

 ずしり、とした重さに、ハクは安心感を覚えながらその場を離れた。


(あとは、)


 ムクのいる刀を収めた一角で、ハクは足を止めた。

 短刀、脇差、打刀や大太刀。

 刀身を形作る素材も様々で、スタンダードな鉄や鋼から、骨や牙とハクのいた世界ではあり得ない技術の結晶がそこにあった。

 だが、ハクは迷うことなく、1つの打刀へと手を伸ばす。


「これだ」

「そ、れ?」


 ハクの手に取った刀に、ムクは大きく眼を開く。

 離れた場所にいたヨルムンガルドも、ハクのそばへ戻ってきた。


「その刀に、するのですか?」

「あぁ」


 それは、紫紺の竜の骨をくり抜いた鞘に納められた一振りの打刀。

 青白く光る刀身は、一点の曇りなくハクを映し出す。


「この城で、呪われた刀」

「呪われた?」


 ハクの持つ刀を見て、ムクがポツリ、と呟いた。

 その言葉に、ハクは眉を顰め首を捻った。


「あの方への謀反を企てた愚かな魔物の死骸のそばに、いつもその打刀があった。それだけでございます」


 ハクの疑問に、ヨルムンガルドが答える。

 静かに、刀を見下ろしながら。


「名前もわかってない、不思議な刀」


 補足する様に、ムクも口を開いた。

 不吉な話を聞いても尚打ち刀をしっかりと握って離さないハクをみて、ヨルムンガルドは武器庫を出る。


「では、鍛錬場へ移動しましょう」

「あぁ」


 扉を開けたヨルムンガルドに、ハクは後を追った。

 ムクの手を引くことを忘れずに。

 3人は来た道を戻る様に廊下を歩く。

 すると、フェンリルが手を振りながら走り寄ってきた。


「あ、おーい! ヨルー!!」

「何やってんですか」

「今から街に食材の種を買いに行くんだけど、何がいい?」


 数人の傭兵を引き連れ、フェンリルは鞄を見せつける。

 兄からの質問に、ヨルムンガルドは数秒考えてから答えを出した。


「そうですねぇ……。とりあえず、数種類の野菜をお願いします。何がいいかはヒュドラに効いて来てください」

「わかった。魔王様も、じゃねー」


 弟の解答に大きく頷き、フェンリルは3人を見送る。

 廊下を曲がる3人は、ミカエルたちがいた場所とは真逆の場所にある鍛錬場へとたどり着く。

 石畳でできた鍛錬場は、所々ひび割れ年季が入っていた。


「ダユ」

「ここに」


 鍛錬場に足を踏み入れたハクは、護衛の名を呼ぶ。

 すると、ハクの影から1人の男が現れた。

 跪いたまま、ダユはハクに自身の居場所を知らせる。

 要件を理解しているダユはすでに刀を帯刀していた。


「相手を頼む」

「御意に」


 ムクは鍛錬場には踏み入らず、傍にあるベンチに座る。

 ヨルムンガルドは手合わせの審判を引き受け、2人を監視する。


「いつでもどうぞ」

「……」


 抜刀したハクは、刀を構えながら静かにダユを睨む。

 鞘を掴む手に力を込め、強く、地面を蹴った。


「ハァ!!」


 剣道というものがある。

 それはハクにとって中学時代の必修科目であり、それなりにこなせたはずの課題。


「もっと踏み込んで! 腰を入れないと、刀に力が乗らない!!」

「ッ、ハァアア!!」


 だが、自分の腕が生死を分かつこの世界で、授業程度の技術では子どもにも劣る。

 剣道とは、戦場に置いては役に立たず、むしろ逆効果な代物であった。


「そんな方ばかりを気にする戦い方では、すぐに懐に入られます、よ!!!」

「なっ!?」


 ハクの刀を弾いたダユは、大きく一歩踏み出し、ハクの懐へと入る。

 風を切って進むダユに、ハクは体のバランスを崩しかけた。

 吸血鬼になったことで向上した動体視力により、振り上げられるダユの太刀をなんとか捉えることができた。

 己の首を狙い空を切る太刀に、ハクはすかさず、銃を抜いた。


「!?」


 マントによって隠されていた銃の存在に、ダユは刀を止める。

 ハクはダユの腹に銃を突き付け。

 ダユはハクの首に刀を突き付け。

 2人は、止まった。


「……見事」

「反則だとは思うがな」

「戦場に反則なんて綺麗事存在しませんよ」


 数秒、2人はそのままで睨み合う。

 鋭い緊張感が走る中、2人は、大きく後ろへ跳んだ。


「ならこちらも!!」

「!」


 飛び上がったダユは、取り出した短刀をハクへ投げつける。

 自分へ向かう短刀を、ハクは打刀と銃身を重ねることで弾く。

 唇を噛むダユに、ハクは口角を上げる。

 しかし、すぐに異変に気付いた。


「「!?」」


 弾かれた短刀は、だが地面へは向かわなかった。

 勢いを失わぬままに短刀の飛ぶ方向に、ハクは眼を開く。


「……え?」

「ムク!!」


 あり得ない方向にまがった短刀は、真っ直ぐムクへ飛ぶ。

 ムクの名を叫びながら、ハクは銃を構えた。


「主!」

「ッ、!」


 魔王城に、1つの銃声が鳴り響く。

 放たれた銃弾は、偶然にも短刀に命中し、進路を変えさせる。

 またもやあり得ない方向に飛び出した短刀は、ヨルムンガルドの頬を掠り柱に突き刺さった。


「「「……」」」


 暴風と共に静まった短刀に、3人の視線が集まる。

 ハクは短刀に眼もくれず、ムクの元へ走り寄った。


「ムク」

「大、丈夫」

「そうか」


 傷一つない身体と服を見せつけるように手を広げるムクに、ハクは落ち着きを取り戻していく。

 手に持つ刀と銃を仕舞い、ハクはムクを抱き寄せた。

 その小さな体からは、確かな心臓の音が伝わってくる。

 それを聞いてようやく安堵するハクは、大きく息を吐いた。


「無事だな」

「うん」


 確かめる様に、言い聞かせる様に呟くハクに、ムクは静かに背中に手を回した。

 離さぬようしっかりと抱きしめるハクに、ムクは満足そうに抱きしめ返す。

 抱き合ったまま動かぬ2人とは別に、ダユとヨルムンガルドは、互いに眼を見つめ合っていた。


「たまたま、な」

「えぇ、たまたま……」

「サキューのとこ」

「嫌です」


 頬を伝う血を感じながら、ヨルムンガルドは首を横に振る。

 言葉を遮られたダユは、短刀を回収しつつ、ヨルムンガルドの顔を覗き込む。


「サキュー」

「嫌です」


 同じ言葉を返すヨルムンガルドに、ダユは面白そうに口角を上げる。

 何度も繰り返す2人のやり取りを歩み寄りながら眺めるハクは、ムクを見下ろす。

 ムクもまた1つ頷き、指を鳴らした。

 すると、ムクの傍に魔法陣が浮かび上がり、中心からサキューが顔を出した。


「サキューちゃんにぃ、何か用かな☆」


 魔法陣から飛び出したサキューは、当然の様にポーズを決める。

 背後での異変に気付いたヨルムンガルドは、振り返った先にいたサキューに青ざめる。


「急患だ。好きにしていいぞ」

「やったー☆ じゃあ、ヨル、覚悟してね☆」

「ちょ、え、ハク様!?」


 GOサインを出されたサキューは、素早くヨルムンガルドを捕獲する。

 診察室に連行されるヨルムンガルドを眺めながら、ムクはぽつりとつぶやいた。


「……サキューが1回で召喚できる、なんて、珍しい」


 その呟きは、まだ遠く離れていない2人にも届く。

 蛇の姿で運ばれるヨルムンガルドは、上機嫌に鼻歌を歌うサキューに問うた。


「……なんで1回目で簡単に呼び出されたのですか」

「んー? たまたま、かな☆」

「偶々、ね……」


 重なる偶然に、サキュー以外の4人は背筋を走る予感を払おうとする。

 だが、それは叶わぬ願いだった。


「こういう日もある、よな」


 何故なら、魔王城の1日は、まだ始まったばかりなのだから。




銃に関しては初心者知識、刀に関してはとうらぶ知識です。

間違っている個所がありましたら、ご指摘いただけると幸いです。

よろしくお願いします。

剣道についての記述がありますが、剣道について悪く言いたいわけでも貶したいわけでもありません。

気を悪くした方、大変申し訳ありません。

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