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第6話 魔法と魔術


「ここか?」

「うん。小さな魔物が通るから……」


 2人は、周辺に生えた樹木のなかで一際大きな大木の陰に潜み、獲物を待つ。

 簡易な罠を張り、ただ、2人は待っていた。

 葉が擦れ合う静かな音以外響くことの無い森を見つめ、ハクは問う。


「すぐに獲れるもんなの?」

「1時間以上は待つ」


 長期戦に慣れているムクは、その場に座り込み、落ち葉を見つめた。

 落ちていた枝を拾い上げ、地面に落書きを始めたムクに、ハクは声をかける。


「なぁ」

「なに?」

「魔術とか魔法って、どんなの?」


 ハクは、立ったままムクを見下ろす。

 ムクは、座ったままハクを見上げる。

 何気なく放たれた質問に、ムクは考え込み、自分の右手を前に伸ばした。


「これが、魔法」


 ムクがそう言った時、突如として風が舞い起こり、落ち葉を軽く弄んだ。


「これが、魔術」


 続けてムクが言い放つと、同じように風が起こり、落ち葉と舞い遊ぶ。

 目の前の光景を見て、ハクは顔を引き攣らせた。


「ごめん、わかんねぇわ」

「え……」


 正直に告げるハクの言葉に、ムクは眼を細める。

 まだ空中で踊る葉を眺め、ムクは数拍置いて口を開く。


「……魔法は、自分の体内にある魔力を使って発動させる奇跡。魔術は、自分の体外、つまり空気中に含まれる魔力を使って発動させる奇跡。見た目は両方とも同じ。だけど、その威力は魔法の方が強力」


 ムクは、地面に落ちた葉を2枚拾い上げる。

 2枚の葉を見比べ、くるくる、と回し遊ぶ。

 その2枚の葉は、右手の葉は細い切込みが入っており、左手の葉は無傷であった。


「魔法は自分の身体と魔力があれば発動できる。魔術は、自分の身体と空気中の魔力、それと触媒が必要。何でもいい」


 ムクは先程まで筆代わりとして使っていた枝を拾い上げ、ハクに見せつける。

 まだ色が鮮やかであったその枝は、今ではムクが触っただけで崩れてしまうほど廃れていた。


「……」

「魔法も魔術も、種類があって、人も魔物もそれぞれ適性によって使える奇跡が違う」


 崩れた枝を捨て、ムクは更に深い分野へ話を進めていく。

 ハクは、木に寄り掛かりながら静かに耳を傾ける。

 偶に罠へ眼をやりながら、ムクは言葉を紡ぐ。


「炎、水、土、風、光、闇。この6つに分かれた属性で、1人当たりだいたい……1つ?」

「お前は風なのか?」

「私は、全部」


 ふと、思いついた質問を口にしたハクに、ムクはさらりと事実を告げた。

 ムクの解にハクは動きを止め、冗談かとムクを見返す。

 だが、ムクは嘘を言っている素振りは無く、落ち葉を舞わせて遊んでいた。

 その様子に、ハクは素直にムクの言葉を飲み込んだ。


「全属性使えるのって、どれくらいいんの?」

「魔物の中なら、私だけ」

「吸血鬼の中で、最強なのは?」

「私?」


 予想しながら、ハクは重ねて問う。

 連鎖的に問うハクに、ムクは首を捻りながら答える。

 躊躇なく放たれた解に、ハクは再び顔を引き攣らせた。


「……多分、心臓の数も私が一番多い」

「なんか言ったか?」

「何も言ってない」


 ポツリ、と呟かれたムクの言葉を聞き損ねたハクは聞き返すが、適当にあしらわれる。

 納得がいかなそうに、ハクはムクから視線を逸らした。


「そういえば、俺の属性わかるか?」

「え?」


 話を戻し、再度尋ねるハクに、ムクは顔を上げ、その姿を眺める。

 赤い瞳に映るハクの姿は、小さく、揺れていた。


「……ハクは、」

「うん?」


 ムクは、その小さな口をゆっくりと開き、言葉を詰まらせる。

 その様子を見て、ハクは首を捻る。

 腕を組み、大木に寄り掛かるハクに、ムクは躊躇いながら属性を告げた。


「……炎?」

「炎?」


 復唱された言葉に、ムクは1つ頷いて見せる。

 ハクは自分の掌へ眼を落とし、両手を握ったり開いたりと動かしてみる。


「多分、次に相性がいい」

「次? じゃあ1番は?」

「1番、は……」


 しまった、と瞳を揺らすムクは、ハクから視線を逸らし、俯いた。

 深追いする様に言葉を求めるハクは、ムクの肩に手を置こうとした時、背後から聞こえた物音に動きを止めた。


「!」

「来た」


 ガタリ、と木材と地面がぶつかり合う音がする。

 ムクはすかさず体を起こし、罠へと走り出た。

 遅れて、ハクもまたムクを追い罠へと向かうと、そこには1匹の子兎がいた。


「ぴきゅぅ!」


 細い枝でできた籠の中に閉じ込められ、兎は切ない泣き声を上げる。

 白い身体に赤い瞳。

 ムクと共通点を持つ子兎は、不幸にも罠に嵌ってしまった。

 近づいてくる2人に怯える様に、子兎は檻の端に移動し、小刻みに震える。

 籠の中を覗きこみ、ムクはその瞳で震える子兎を捉え、溜め息を吐いた。


「子兎……」

「なんだ?獲らないのか?」

「うん。子兎は、獲らない」

「ぴきゅぅ! ぴきゅぅ!!」

「大丈夫だから」


 籠の扉だ開くと、子兎は抵抗する様に激しく鳴きだした。

 ムクは、籠の中から暴れる子兎を取り出し、優しく地面へ下ろす。


「ぴきゅぅ?」

「お行き」


 ムクは、自分を見上げる子兎に、優しく声をかける。

 命拾いをしたことを悟った子兎は、何度も振り返りながら森の中へ消えていった。


「なんで逃がすんだ?」

「子兎は、……『可愛い』、から?」


 ハクは、ムクの口から出た言葉に眼を見開き、ムクの家で彼女が兎のぬいぐるみを抱いていたことを思い出す。

 首を捻りながら、真っ直ぐに見返してくるムクに、ハクは自然と笑みが零れた。


「そうかよ」

「わっ」


 吹き出すように笑い、ハクはムクの頭を撫でる。

 フードの上から撫でられたムクは、片目を瞑り、迷惑そうな顔をした後、抵抗することなくハクの手を受け入れた。


「で、俺達の夕飯は?」

「……川に行く」

「釣りか」


 誤魔化すように、ムクは振り返ることなく歩き出す。

 呆れたように笑った後、罠として使っていた籠を回収し、ハクはムクの跡を追う。

 フードを深く被り直したムクは、何も語らず。

 釣り道具、罠、その他全てを抱えるハクもまた、何も聞かず。

 2人は、静かに川を目指して歩き出した。




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