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第65話 魔王城の朝


 馴れないベッドにさえ、疲れ切った身体は簡単にその身を預ける。

 魔王城で明かす二度目の朝。

 必要以上に大きい窓から差し込む朝日に、ハクは目を覚ました。


「ん……」


 一応、ハクとムクには別々の部屋が用意されている。

 だが2人は、当然というように片方の部屋のみを使用していた。


「朝、か」


 眼を擦りながら、ハクは窓を見やる。

 まだ夜が明けてそれほど時間が経っていないようで、空は暗さを残していた。


「……」


 自分の腕の中で丸くなるムクに、ハクはそっと手を添えた。

 柔らかい頬に触れ、起こさぬ様静かに撫でる。

 時計を探しながら、ハクはムクの下から腕を抜いた。


「まだ、5時だな。もう一眠りしてもいいが」


 畳まれた外套の上に置かれた懐中時計から、現在の時刻を把握する。

 欠伸をし、身体を伸ばしながら、ハクはベッドから這い出た。


「アイツなら起きてるだろ」


 眠る少女に注意を払いながら、ハクは身支度を済ませる。

 用意されていた洗いたてのシャツに身を包み、外套を羽織る。

 ずしりとした重みに、どこか安心感を覚えながら、ハクは鏡を見て衣服の乱れを整えた。


「すぐ戻る」


 聞こえていないことを分かっていながら、ハクはムクへ言葉を投げかけた。

 動かぬ妻を一瞥し、ハクは寝室を後にした。


「おはようございます、ハク様」


 迷わずハクが向かったのは、大広間。

 ただ広いだけの空間に、目的の魔物と、その他がポツンと立っていた。


「おっはよぉ☆」

「おはようございます、魔王様。お加減はいかがでございますか」

「あぁ」


 何かの書類を手にするヨルムンガルドは、ハクの姿をみるや深く一礼する。

 何故いるのか分からないが、サキューもまたハクへ手を振った。

 素知らぬ顔をするヨルムンガルドの隣で、サキューは昨日よりも幼く見える。

 執事らしく、早朝から仕事をしているヒュドラも仕事の手を止めた。


「随分、早起きなのですね」

「たまたま目が覚めただけだ」


 大広間の扉をくぐり、ハクは中へ足を踏み入れる。

 3人で会議でもしていたようで、円陣を組むように立つ彼らに、ハクは眼を細めた。


「貴様らこそ、朝から何を?」

「昨日の件を纏めていたのですよ。ウンディーネ、ダユ、ムスペル、酒呑童子、フェンリル、レヴァナント。それから、ミカエルについて」

「ミカエル?」


 ハクの問いに、ヒュドラが答える。

 並べられる言葉の中から、ハクは1つの単語を拾い上げ首を傾げた。

 それには、ヨルムンガルドが答えた。


「私の兄、フェンリルがしでかしたマンドラゴラ事件にて、ミカエルが暴走しましたので、そちらの対策と」

「それと?」

「ハク様の件についての協力要請を」


 真剣な眼差しでハクを見つめるヨルムンガルド。

 事態を重く見ているのはヨルムンガルドとサキューだけの様で、ヒュドラは涼しい顔をしていた。


「何のことはありません。ムク様に、ミカエルに手伝うよう言ってもらえばいいのですから」


 淡々と、ヒュドラはハクへ言い放った。

 真っ直ぐにハクを見るヒュドラの眼は、何かを見定めるように冷たかった。


「ですからそれは!」

「だめだ」


 反論するヨルムンガルドの言葉を遮って、ハクは言い切った。

 驚いてハクへ視線を向ける2人をよそに、ハクとヒュドラは眼を見合う。


「これは、我の問題だ。この程度、自分で解決できなくて何故アイツを救えると思うのか」

「ほう、ご自身で解決なさるとおっしゃるのですね」


 火花が散る程に睨み合う2人。

 元々冷たい気温は更に下がる。

 2人の間で動くのは、ヒュドラから漏れる煙草の煙のみ。

 慌てるサキューは2人を止めようと動くが、ヨルムンガルドがそれを阻止した。

 その時。


「呼びましたのです~?」


 間延びした声が、大広間に響いた。

 4人が声のした方へ振り向くと、そこには眠そうに眼を擦るミカエルの姿があった。


「あらぁ? 魔王様は随分早起きなのですね~?」

「……貴様は随分と、なんだ。口調が違うが」

「フフフ。魔王様と会議以外で対面するのは初めてでしたね」


 どこからともなく現れたミカエルは、驚いたように眼を開く。

 自分の口調に戸惑うハクに笑いかけながら、ミカエルは4人に歩み寄った。


「会議以外では~、この口調なのですよ~」

「サキューちゃんとキャラが被りそうで心配よね☆」

「あらぁ? サキューちゃんもいるじゃないですか~」


 ハクに説明しながら、ミカエルはサキューの姿に再び眼を開く。

 手を取り合う2人は、女の子らしく飛び跳ねる。

 雑談を始める2人に、男性陣が溜め息を漏らしそうになった時、もう1つの声が大広間に覗く。


「ヨルー、呼んだー?」


 ひょこっ、と首を出したのは、フェンリル。

 扉の影から姿を現したフェンリルは、見た目に反して朝には強いようで身なりが整っている。


「遅いですよ、フェン」

「お兄ちゃん、って呼んでってばー」

「うるさいです」


 冷めた口調で兄をあしらうヨルムンガルドに、フェンリルは頬を膨らませた。

 視線を外す弟に、フェンリルは悪戯をし始める。

 兄妹のやり取りに興味を示すことなく、ヒュドラは全員に提案する。


「人数も多くなってまいりましたので、食堂にて朝食をとりながら話を進めるのはどうでしょう」

「我はすぐに寝室に戻るつもりでいたから、すぐに朝食をとるわけにはいかない」

「そうでしたか、では」


 ヒュドラの言葉に首を振るハク。

 その様子を見て、ヒュドラはその場で指を1つ鳴らした。


「立食、という形ではどうでしょう。誠に恐縮ですが、飲み物と軽食だけになります」


 すると、6人の前に数個のテーブルと食器が現れた。

 純白のシートがかけられたテーブルの上には、焼き立てのパンと淹れ立ての紅茶、コーヒーが並ぶ。

 食欲を引き出す様な香りに、ミカエルは頬に手を添え、眼を輝かせた。


「紅茶のいい香りがするのですよ~」


 ミカエル、ヨルムンガルド、ヒュドラの前には紅茶が。

 ハク、フェンリル、サキューの前にはコーヒーが。

 数個の籠の中に、3種類のパンが2個ずつ入れられている。


「どうぞ、ハク様。腕には少々覚えがあります」

「……いただこう」


 ヒュドラに進められるがまま、ハクはコーヒーカップを手に取った。

 華やかな香りがハクを出迎え、薄めの色のコーヒーは、すべらかにハクの口に流れ込む。


「! 美味い」

「恐縮です」


 中煎りであるのか、酸味も苦味も強すぎず、起きたばかりの身体にも優しい味が口の中に広がる。

 思わず、ハクは籠の中にあるパンへ手を伸ばした。

 ふわふわのパンはまだ温かく、簡単にちぎれてしまう。

 甘い香りのパンを口に頬り込むと、ハクは眼を丸めた。


「美味い」

「恐縮です」


 同じ言葉を繰り返すハクに、当主陣は微笑む。

 ハクがパンに手を付けたのを皮切りに、他の5人も軽食を取り始めた。


「やはり貴方の紅茶が一番美味しい」

「伊達に、何百年も仕えていませんから」

「本当これだけは~、貴方に代わる人はいないのですよ~」

「まだその格好してるの?」

「現役だぞ☆ まだって何?」

「そろそろ、ね?」


 当主とサキューは、仲が良さそうに言葉を交わしていく。

 5人の様子を、ハクは静かに眺めていた。

 時折、話す相手を変えながら話題を盛り上げる当主達。

 ふと、ハクは懐中時計に眼を落した。

 時刻は、5時40分。

 ハクは頭を悩ませ、寝室のある方へ視線を向けた。


「いつ起き出すか」

「ムク様なら~、6時を越えなければ起きないのですよ~」


 突然、ハクの呟きにミカエルが割り込んだ。

 天使の微笑みを向けるミカエルを、ハクは胡散臭そうに眺める。


「昨日の夜、ウンディーネに頼まれて~、ムク様に薬を処方したのですよ~。丁度、魔王様がサキューの診察を受けている時なのですよ~」


 微笑み続けるミカエルは、昨夜の行動について説明するついでに起床時間の予測をする。

 副作用として6時間目覚めることはない、と付け加えたミカエルは、当主達の会話に戻る。

 片手に持ったパンを口に放り込み、ハクは隣にいるフェンリルへ視線を投げた。


「フェンリル」

「んー?」


 名前を呼ばれたことで、フェンリルはハクへと振り返る。

 コーヒーカップを片手に、フェンリルは首を傾げた。


「どうしたの?」

「昨日のマンドラゴラ、結局どうなったんだ」

「あー、あれね? 全力必死で埋め直した」


 てへ、と舌を出して、フェンリルは笑う。

 不十分な報告に、ヨルムンガルドが横から補足する。


「サラマンダーの協力でマンドラゴラの口を焼き塞いだ後、動ける者を総動員して埋め直したのです。主に、レヴァナントの部下が奮闘しました」

「因みにレヴァナントには、朝食抜きの罰を与えています」

「ゆっる」


 大変だった、と思い出すように当主達はヨルムンガルドの言葉に頷く。

 さらに横から、ヒュドラがレヴァナントについて補足した。

 その言葉に、ハクは思わず声を漏らした。


「死霊種にとって、食事は生命線です。常に魔力を蓄え続けなければ、その身を留めきれず消滅します。一食抜くだけでも、彼にとっては死活問題でしょう」

「まぁ、消滅しても、いくらでも代わりがいるからね」


 後悔しかけたハクに、ヨルムンガルドが説明をする。

 ヨルムンガルドの話を聞いても、誰もレヴァナントの心配はしておらず、無関心を貫いた。

 当主達の反応にハクは眼を細め、すぐに無表情へ戻る。

 必要な情報がそろったハクは、紅茶を楽しむミカエルに話しかけた。


「ミカエル」

「はい?」

「マンドラゴラを数本持って行っていいぞ」


 素直に振り向くミカエルに、ハクは迷わず言葉を放つ。

 その内容に、ミカエルは眼を見開き、兄弟は跳び上がった。

 わかっているな、と視線で語るハクに、ミカエルは真剣な顔つきへと変わる。


「100本」

「2本」

「待って!!!!」


 指を立て交渉する2人に、フェンリルは叫ぶ。

 取れそうな程速く首を振るフェンリルは、慌てて2人を止める。


「マンドラゴラが市場に出回ったらとんでもないから! ミカエルなにするかわからないから!!!!!!」

「研究に使うのみ。私用に使うの禁止の条件付きだ」

「むー……。まぁ、良いのですよ~」

「そういう問題じゃないの!!!!!!」


 進み続ける交渉に、フェンリルは悲鳴を上げた。

 ハクにしがみつくフェンリルは、必死に訴える。


「マンドラゴラは、ミカエルが根絶やしにしたせいでこの世界に存在しないことになってる幻の植物!! 使っちゃダメ!!!」

「しょうがないので~、5本で手を打ってあげるのですよ~」

「話! 聞いて!!」


 目の前で固い握手を交わす2人に、フェンリルは頭を抱える。

 マンドラゴラを巡り騒ぐ3人に、ヨルムンガルド達3人は眼を見合わせて笑いあう。

 魔王城の賑やかな1日は、こうして幕を開けた。




兄弟揃って苦労性。

この作品では、ハクの周りの魔者関係はほぼ完成している状態です。

1から作り上げるのではなく、譲り受けたものを引き継いでいく形なので。


twitterに数人分のキャラデザ案上げました!

ウンディーネ、ダユ、桔梗、ヨルムンガルド、サキュー、+α

見ない派の人はそのままで、興味ある方は是非アクセスを!


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