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第64話 魔王城の医者


「だ・か・らぁ! ちゃんと見張っとけって言ったでしょぉ!」

「……すみま」

「ヨルムンガルドにはぁ、今夜の相手してもらうからね!」

「離してくださいすみませんハク様たすけて」


 サキューの尻尾に振り回され、抜け殻寸前のヨルムンガルドは体をビクリと跳ねさせ、ハクへと助けを求める。

 サキューに命じ、ヨルムンガルドを解放させたハクは、目の前の医者に尋ねた。


「何もそんなに慌てる必要はないだろう」

「あるっつーの☆」


 ハクの問いに、サキューはその可愛らしい眉を曲げた。

 人型に姿を変えたヨルムンガルドは、咳払いを1つしてからハクへと説明を述べた。


「無詠唱魔法とは、本来、鍛錬を重ねた魔導師にのみ許されるカードです。それを魔法を習得して間もないハク様が使うと、魔力神経が暴走し、接続が切れて魔力を供給できなくなるのです」

「よーするにぃ、童貞が『本番ができる!』って状況に興奮してぇ、本番する前に出しちゃって萎えて使い物にならなくなる感じ☆」


 教科書に載っているような説明をするヨルムンガルド。

 独自の解釈を、自分なりに噛み砕いて説明するサキュー。


「下品な上に私より分かりづらい」

「えー? 絶対サキューちゃんの方がわかりやすかったよぉ☆」


 ヨルムンガルドはサキューを眼を細め見下す。

 サキューはヨルムンガルドを挑発する様に上目遣いで見上げる。


 魔力神経。

 魔術及び魔法を扱う者に必ず存在する神経。

 裏を返せば、この神経が無ければ魔術及び魔法を扱うことができない。

 魔力神経は名前の通り、魔力を運ぶ神経である。

 この神経の中だけを伝い、魔力は体中を駆け巡る。

 魔力神経の伝達速度及び強靭さは個人による。

 鍛錬を重ねることで魔力神経は太く強く、速くなっていく。

 ただし、魔力神経も才能であり、生まれた時から無詠唱魔法を使えるほど強靭な物を持つ者もいる。


 楽しそうにヨルムンガルドをいじるサキューは、ふいに表情を無くした。


「魔王様の魔力神経は暴走した上に接続不可能なまでに千切れているの。このままにすればずっと魔法が使えない上に、もう2度とムク様を護ることはできないよ」


 触診を再開したサキューは、声のトーンを落とし、ふざけを一切消す。

 突然様子を変えたサキューに、ハクは眼を大きく開いた。

 ハクの魔力神経に触れながら、サキューは眉を顰め唇を噛んだ。


「ミカエルの薬と加護をもらえれば、なんとか……」

「ミカエルには事前通達してありますが」


 不穏な空気の中、サキューは腕を組み唸り始める。

 医者はヨルムンガルドへと視線を送るが、彼もまた難しい顔で首を振った。


「全治1週間かな。ミカエルに協力があればね。……ミカエルの手綱、ちゃんと握ってる?」

「まともに話したことないな。第一、ミカエルは胡散臭い筆頭だろう」


 サキューは窺うようにハクの顔を覗き込む。

 しかし、ハクもまた首を横に振るだけであった。


「……ムク様に関することなら、盲目ですが。ハク様に対しては、どうでるか予測できません」

「そうなんだよねー☆ ムク様を護った実績もあれば、危険に晒したっていう見方もできるよね☆ どっちだろー?」


 肩を竦めるヨルムンガルドは、後に控える面倒事に大きく息を吐きだす。

 調子を戻し、星を振りまき始めたサキューは、ハクへウィンクして見せる。

 飛んできた星を弾きながら、ハクはサキューを見下ろした。


「なぁ」

「んー?」


 あざとく、アピールを忘れないサキューは再度ハクへとポーズを決めて見せた。

 サキューによる一級ものの魅了(チャーム)を簡単に一蹴してみせるハクは、淡々と問いを投げかけた。


「なんで医者なんかやってんだ?」

「だってぇ、健康な男の精じゃないと美味しくないでしょぉ☆ だからぁ、サキューちゃん自ら男共の健康管理してあげてるの☆」

「チェンジ」

「チェンジで」


 ハクが医務室に通されてから誰も投げかけなかった問い。

 髪を揺らし、尻尾をくねらせ、最大限に魅力を振りまくサキューに、男性2人は咄嗟に言葉を重ねた。


「もぉー、照れなくていいんだよぉ☆」

「「生命の危機を感じる」」


 2人の反応を照れ隠しと受け取ったサキューは、嬉しそうに微笑む。

 青ざめる2人は、綺麗なハーモニーを奏で続けた。


「なんでこんなの野放しにしてるんだ」

「……腕だけ見れば、サキューに代わる者はいません。こう見えて、かなり頭が冴えていますし」


 後ろを振り返りヨルムンガルドに尋ねるハク。

 眼鏡の位置を直しながら、ヨルムンガルドは悔しそうに答えた。

 目の前のサキュバスをどうにかしようとする男性陣をよそに、サキューは別のカルテを取り出した。


「さて、ヨルムンガルドの番だよ☆ 座って☆」

「え、いえ別に、どこも悪くなんて」


 新たにイスを引っ張り出したサキューは、ヨルムンガルドに座る様促す。

 だが、ヨルムンガルドはサキューの誘いをきっぱりと断って見せた。

 その言葉に、頬を膨らませたサキューは、思いついたように椅子を回して男性陣に背を向けた。


「あ、そう? じゃあ健康体リストに載せとくねぇ☆」

「すみません診てもらえますか」


 デスクの奥からリストを引っ張り出したサキュー。

 彼女の行動に、ヨルムンガルドは光速以上の速さで椅子に座った。

 嵐のような風が巻き起こる医務室で、サキューは楽しそうに口角を上げる。


「最初からそう言えばいいのにね☆」


 ニマニマと笑うサキューは、リストをデスクの奥へと仕舞う。

 その様子に、胸を撫で下ろしたヨルムンガルドを見て、サキューは更に口角を上げた。


「我は行くぞ」

「あ、うん! 明日も診察するからね☆ 気を付けて戻るんだよ」

「おやすみなさいませ」


 立ち上がったハクに、サキューはあざとく手を振った。

 最後、弟を見守るように優しく微笑みながら。

 ヨルムンガルドもまた立ち上がり、深く一礼する。

 2人に見送られ、ハクは医務室を後にした。


「……さて、やるよ」

「はい」


 ハクの足音が遠のいた後。

 サキューは息を吐きだし、真剣な眼差しをヨルムンガルドへ向ける。

 ヨルムンガルドもまた頷き、徐に服を脱ぎ始める。

 上半身だけ服を脱いだヨルムンガルドは、医務室に設置されたベッドにうつ伏せになった。


「……酷いもんだよね」


 馴れた手つきで準備するヨルムンガルドに、サキューはポツリと呟く。

 眼鏡を外し、サキューは静かにヨルムンガルドに跨った。


「痛いけど、我慢してね」

「これくらい、なんてことありませんよ」

「いくよ」


 全身の魔力を両手に集中させたサキューは、ヨルムンガルドに対して魔法を発動させる。

 優しい桜色の光は、サキューの動きに従って表情を変え、空中を舞う。

 淫魔でありながら光属性の魔法を使うサキューは、悪魔でありながら他者を癒すことができた。

 ヨルムンガルドの背中を撫で、治療を施していく彼女は、1つ間違えれば天使にも見えた。


「ッ、……ハッァ」

「もう少しだから」

「ハッ、い……」


 喘ぐように、ヨルムンガルドは息を吐きだす。

 苦しそうに唇を噛み、握る両手に力を込める。

 施術するサキューもまた汗を流し、眉間に皺を寄せた。

 両手を伝う魔力を、強く鋭く練り上げる。

 サキューは、小さく息を吸った。


「いくよ」

「グッ、アッ!? ハッ、アァ……、ハァ」


 サキューの声と共に、ヨルムンガルドの背を尖った痛みが駆け巡る。

 堪らず顔を歪めるヨルムンガルドは声を上げ、枕にしがみ付く。

 収まっていく光と共に、ヨルムンガルドは呼吸を整える。

 サキューもまた息を吐きだし、汗を拭った。


「はい、終わり」


 桜色の光は姿を消し、医務室は元の明るさに戻った。

 終了したことを告げられたヨルムンガルドは体を起こそうとする。

 だが、サキューはヨルムンガルドの上から退かない。

 サキューは、ヨルムンガルドの背中に手を這わせ、呟いた。


「……なんで無理するのさ」


 暗く、重い声。

 サキューはヨルムンガルドに重なる様に倒れ込む。

 汗ばんだ体が重なり、温度が伝わる。

 ヨルムンガルドは眼を細め、自分の上で横たわる少女の問いに答える。


「他に、私の職務を代われるものがいませんからね」

「まだ、全然、治ってないのに」

「これは、一生背負うべきものです。治って欲しいなんて、そんな贅沢望みません」

「でも! これは、ヨルムンガルドのせいじゃないのに……」

「いいえ、これは私が背負うべき業です」


 顔を歪めるサキューに、ヨルムンガルドは静かに答える。

 身体を起こし、サキューは、ヨルムンガルドの背を眺めた。

 ヨルムンガルドの背に残る、火傷の跡を。

 這うように背中全体を覆うその傷は、見た者に恐怖を与える。

 痛ましく、恐ろしいその傷に、サキューは手を添えた。


「あの子を1人にした、私の業です」


 なんとか体を動かし、仰向けになるヨルムンガルドは、サキューの顔を見る。

 自分に変わって辛さを表現するサキューに、ヨルムンガルドはそっと頬に触れた。


「貴女がそんな顔をする必要はありませんよ」

「うるさい」

「馬鹿ですね」

「うるさい!」


 ヨルムンガルドが口を開くたびに、サキューの顔は歪んでいく。

 涙を堪える様に、眉を曲げるサキューに、ヨルムンガルドは優しく微笑んだ。


「貴女とミカエルのおかげで、なんともないんですから」

「でも、こんなに毎日、ちゃんとやってるのに……」

「いったでしょう? 一生背負うべきものだと」


 眼を擦るサキューの頭を、ヨルムンガルドは優しく撫でる。


(確かに、普段痛むことはありますが、私はそれと向き合わねばならない。それが、私の罪なのですから)


 自分の代わりに泣くサキューを、ヨルムンガルドはあやし続ける。

 毎夜繰り広げられるやり取りに、ヨルムンガルドは安心感を覚え始める。


「では、そろそろ着替えていいですか?」


 1つ、息を吐いたヨルムンガルドは、サキューへ尋ねた。

 すると、サキューはピクリ、と肩を動かし、顔を覆っていた両手を、ヨルムンガルドの肩に乗せた。


「逃げないでね☆ 今夜はたっぷりサキューちゃんの相手、してもらうからね☆」


 ニコリ、と笑って見せるサキューの眼はまだ赤く。

 普段の調子で言葉を紡ぐサキューに、ヨルムンガルドは苦笑する。


「健康体じゃないので、」

「だぁめ☆」


 己の上からサキューを退かそうとすると、サキューはヨルムンガルドの上に横たわる。

 顔を近づけ、意地悪そうに笑うサキューに、ヨルムンガルドは溜め息を吐いた。

 観念したように首を振るヨルムンガルドを見てサキューは満足そうに頷く。

 ニヴルヘイムを照らす月は、まだ天高く輝いていた。




サキューちゃんの髪型はちょっと工夫してあります。

ツインテール部分は長いですが、他はショートカットです。

ボブカットにツインテールがついてるような。

とにかく可愛い女の子です。

年齢?秘密だぞ☆

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