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第49話 斬と千切


 轟音と共に、土埃が舞う。

 岩は砕け、溶岩は湧き出る。

 泉の水は、もはや形を保つことができず、蒸発、または地面に浸透していく。

 岩石の皮膚には刃が通らず。

 魔法を放とうにも、人質2人を盾にされ、ロクに当てることもできなかった。


「どうすんだよ……!!」


 焦りを隠しきれないサラマンダーの動きは鈍る。

 そのため、上から降った触手を、避けられなかった。


「……っ!」

「サラ、マンダー!!」


 消えた弟に、ウンディーネは悲鳴にも似た声を上げた。

 サラマンダーは、硬く眼を瞑る。

 だが、その触手が精霊に触れることは無かった。


「その程度、なのですか!!」


 サラマンダーと触手の間に、酒呑童子の大剣が割って入る。

 刃にかかる重さに、酒呑童子は歯を食いしばり、腕を震わせた。


(断ち切れないなら、弾き飛ばすことができる!!)


 揺れる切っ先に、力を伝える様に。

 酒呑童子は眼を見開き、大剣を力の限り振り回した。


「はああああ!!」


 鈍い音を立て、2つが弾け合う。

 岩石と刃が擦れ合い、電気を生じながら。

 先祖の骨から造られた(・・・・・・・・・・)その大剣は、絶対に折れることは無い。

 たとえ、リヴァイアサンの下敷きになったとしても。


「ぬぅう!!」


 弾かれた触手に、ムスペルは僅かにバランスを崩す。

 振った大剣を構え直し、酒呑童子は顔を上げる。

 その際、高く結ばれた長い髪が揺れる。

 それは、サラマンダーの眼に、強く焼きつくことになる。

 自然と口元が緩み、サラマンダーは槍を握り直す。


「っんなわけ、ねぇだろ!!」


 力強く投げられた槍は、酒呑童子の顔の横を突き切る。

 一本の槍は、酒呑童子へ向け伸ばされた触手に衝突し、座標をずらす。

 自分の横へ叩き付けられた触手により起こる砂埃の中、酒呑童子はサラマンダーを一瞥し、嗤う。


「そうですよねぇ、えぇ」

「やってやろうぜ。此方側が、やられるだけじゃないってことを見せてやらねぇとな!!」


 2人は背中を合わせる。

 妖しく光り出す4つの瞳は、動くたびに線を描く。

 得物を手に、鬼と蜥蜴は、嗤った。


「あぁ、あぁ!! 何故、何故、何故何故何故何故何故!! 何故、魔王は滅びぬのか! 何故、我々の上に、人間如きが君臨するのか!! 我らの魔王はただ1人、あの方だけでよかったのに!!!」


 ムスペルは、激怒する。

 目の前を、駆け抜ける1人の男に。

 自分の怒りを理解しようとしない魔王派の者に。

 己を助け出してくれる者がいると信じて疑わない2人に。

 ムスペルは、憤怒する。

 自身の触手を破壊しながら進む1人の元人間に。

 赤き双眸を携えた、新米魔王に。

 魔王の名に、己の主を重ねながら嚇怒する。


「ならぬ、ならぬならぬならぬ!! あの方以外の、たかが人間風情が、魔王として認められぬなど!! あってはならぬのだ!!!!」


 その大きな瞳から、涙を流して。

 ハクは、ただ走る。

 結界のせいで、触手の上を走ることすらままならない。

 自分の首を絞める結界に苛立ちを覚えながら、ムスペルの余力を削っていく。


「おい!! まだ2人を助けられないのか!!」


 壊しては再生し、また壊す。

 触手と遊び続けるハクに、サラマンダーは槍を投げながら叫んだ。

 その言葉に、ハクは一旦後衛に下がりながら返答した。


「お前が、許可を下ろせばすぐだろうな」


 4人は全員で背中を合わせ、円を描く。

 襲い来る触手を対処しながら、言葉を交わす。

 ハクの返答に、瞬時に言い返さず、サラマンダーは己の心へ忠実に答えた。


「……俺達の力を使わずに、2人を、助けて見せろ。そうすれば、俺はウンディーネと共に許可を下す。それ以外ではダメだ」


 一段声を低くし、サラマンダーは真剣さを表す。

 告げられたその言葉に、咄嗟にダユはサラマンダーを睨んだ。


「お前! 状況分かってんのか! ウンディーネが、」

「それでも!!」


 だが、サラマンダーは、ダユの言葉を遮り吠える。

 髪を振り乱し、肩に力を込め、全身を震わせながら。


「我等精霊、精神を共有する姉弟間の契りは絶対。何人たりとも、破ることは決して許されない。それをわかって、姉貴は、今も許可を下そうとしていない」


 唇を噛み、眉間に皺を寄せる。

 己を必死に抑え込むように、サラマンダーは言葉を振り絞る。

 その様子に、ダユはそれ以上の言及を止める。

 代わりに、触手に絡まれるウンディーネへ眼を向けた。

 肌を焼かれる痛みと熱さで頬を上気させ、息を乱す。

 それでも、主を気にかけ、夫と弟を信じ続けるウンディーネ。

 彼女の姿に、心打たれぬはずもなく。

 ダユは、強く柄を握りしめた。


「……主、お願いです。ウンディーネを、2人を、早急に救い出す命を。下してください」


 刃物で、触手は切断できない。

 策も無しに無闇に近づけば、逆に2人を苦しめる。


(自分だけじゃ、策を思いつきすらしないとは……)


 歯が削れるほど歯噛みし、顔を顰める。

 懇願以外の手段に踏み込む勇気も知能も持たぬ己を恥ず。

 力任せに触手を弾く部下を横目で見るハクは、ふと考える。


「ダユ、酒呑童子」

「「は」」


 腕に血管を浮き上がらせ、肩には疲労がたまる。

 体力勝負な戦い方をする2人に、ハクは軽く問うた。


「斬れないのか?」

「えぇ、皮膚が特殊な岩石で覆われているせいで、歯が立ちませぬ」

「なら、千切れないのか?」

「「!?」」


 分かり切っていることを聞くハクに、丁寧に酒呑童子が答える。

 それを聞いたうえで、簡単に言うハクの言葉に、2人は大きく動揺した。

 2人の剣は、骨から造られているもの。

 故に刃の色は白に近く、素人目にも鉄でないことが理解できた。

 そこから思考を発展させたハクは、『斬る』から『千切る』へと行動を変換する。


「それ、は……」

「はるか上空から飛び降り、その重力を全て刃に込めれば可能かもしれませんが、地上ではとても力が足りません」


 口籠るダユと、はっきりと首を振る酒呑童子。

 2人の違いを、しっかりと記憶しながら、ハクは目の前の触手に眼を戻した。


「地上は、我が引き受ける」

「は!?」

「主!」


 苦しむムクの小さな姿に眼を細めながら、ハクはそう3人へ言い放った。

 驚愕で振り向くダユとサラマンダーを受け流し、ハクは2本の触手を曲げる。


「貴様らは、ただあの2本を千切ればいい。時間くらい、我が稼ぐ」

「お前、」

「……それで、助け出せるのですね?」


 真っ直ぐ、言ってのけるハクに掴みかかろうとしたサラマンダーを止め、酒呑童子は確認を取る。

 それに対する返事はなく、ただマントが揺れるのみであった。

 ハクの反応を確認した酒呑童子は、静かに大剣を下ろす。

 全ての触手を破壊していくハクに、ダユもまた従った。


「合図は任せます」

「あぁ」


 ハクの言葉に従っていく2人を見て、サラマンダーは舌打ちをする。

 触手を弾き飛ばし、ハクを睨みながら、サラマンダーは2人と共に移動を開始する。


「しくんなよ」

「我を、……いや、当然だ」


 4人は、別々に駆け回りながらムスペルを見上げる。

 たどり着くための道のりを確認し、両足に力を込める。

 大きく深呼吸をし、ハクはムクを見つめる。

 圧迫感と痛みに喘ぎながら、ムクは虚ろな瞳にハクを移す。

 自分の状況に集中せず、周りを確認するウンディーネは瞼を閉じる。

 それぞれが実行するべき内容を把握し、4人は、行動を起こした。




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