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第37話 水中と闇


「さぁ、水よ。槍となり、彼のものへと粛清を!」

「波よ。我らの前に、防壁を」


 鋭く形作られた水の槍は、ルサールカを中心に、全方位へと飛びだした。

 ハクは魔法を展開し、自分達の前に波の防壁を作り上げる。

 一本も貫通させることなく防ぎ切ったハクは、魔法を解除させる。

 すかさず、ムクは拾った短刀をルサールカへ投げ、重ねてハクが魔法を発動させる。


「……包みて、燃えろ」

「!?」


 ハクの魔法により、投げられた短刀は炎を纏い、ルサールカへと直進する。

 水中でありながら燃える短刀に、ルサールカは眼を見張る。


「ッ、さぁ、鎮火を!」


 短刀に纏われた炎により、僅かに周囲が照らされる。

 ルサールカは、魔法を発動させながら、3人の位置を把握する。

 波で短刀を叩き落とし、ルサールカは迷わずダユの方へと跳びだした。


「は、ハハハ!! 目が慣れてきた、いつもの感覚が戻ってきた!! これなら、もう、貴方達に勝機なんてないの!!」


 嬉々とした声を発し、ルサールカは正確にダユへと襲い掛かる。

 暗殺要因であるダユであれば、ある程度の夜目はきく。

 だが、ダユは敢えて瞼を閉じた。


「槍よ、彼を、貫いて!!」


 ルサールカにより、数本の水性の槍が発生し、真っ直ぐにダユへと飛んでいく。

 槍は、水を裂き、僅かな音を立てる。

 その音を聞きわけ、ムクは手にした短刀を投げ、正確に槍を打ち砕く。

 自分へと手を伸ばし、飛び掛かってくるルサールカの気配を感じながら、ダユは、眼を開いた。


「我が声を聞け。我が憑代となるもの、我が血肉となるもの。我が名を聞き届け、その望みを叶えよ。我

は世界を総べるものなり。我は世界を滅ぼすものなり。その混沌に、永遠なる暗黒を!!」


 詠唱に合わせ、ダユは両の掌を合わせた。

 途端、世界が闇に染まる。

 今までも、十分暗闇ではあったが、魔法が発動され、世界は無になる。

 音も、光も、匂いも、声も、感触も。

 周辺に並んでいた壺も。

 肌に触れていた水も。

 自分の視界さえも。

 全てが消えた。

 自分は今、何処にいるのか。

 自分は今、何をしているのか。

 自分は今、何なのか。

 その全てが闇に包まれた。

 闇属性の使い手以外は(・・・・・・・・・・)

 ハク、ムクは全属性の使い手であり、ダユもまた闇属性の使い手であった。

 3人も闇に包まれたことに代わりはないが、闇属性を持つ者は、それによってもたらされた闇の中でも活動できるスキルを持つ。

 つまり3人は、音が聞こえず、何も見えず、何も感じず、何も発せない状況でも、普段と変わらず行動することができた。

 自分が何をしているのか、頭では理解できても体には何も感じない状況は、常人では気が狂う程強大な恐怖との隣り合わせ。

 しかも、ハクはこれが初体験であり、耐久度は未知数。

 一歩間違えれば命を落とす程の危険を冒してでも、3人はウンディーネを取り返そうとする。

 ルサールカは、豹変した世界に驚愕し、動揺し、辺りを見回し、手さぐりで歩き回る。

 闇に包まれたとはいえ、世界そのものが書き換わったわけではなく、術の外は普段と同じ世界が広がっている。

 無闇に歩き回るルサールカは、壁にぶつかり、壺を落とし、破片が肌に突き刺さる。

 痛みすら感じず、ただ歩き回るルサールカへ、ハクは魔法を発動した。

 発生した大波は、ルサールカの体を押し流し、洞窟の外へと追いやる。

 自分の体が押されていることすら、ルサールカは気付かず。

 抵抗されることもなく、大波は洞窟の入り口までルサールカの体を運んだ。

 後一歩というところまで流した、その時。

 ルサールカの体が弾かれた。

 入り口から出ようとしたルサールカの体は、ウンディーネの壺が置かれた位置まで戻され、洞窟から出ることができなかった。

 それと同時に、魔法の効果が切れた。

 4人は光を、音を、声を、感覚を取り戻し、大きく息を吸った。


「「「ッハァ!!!」」」


 ダユの発動した魔法は、術者の精神力により持続時間が変わる。

 約5分。

 ダユによって持続させられた時間は、精々5分。

 だが、それで十分だった。

 入り口から押し出そうとしたルサールカが、ウンディーネの壺に寄り掛かっている。

 それを見て、3人は直感する。


「お前、洞窟から出られないのか」

「……ッ」


 ダユの発言に、ルサールカは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 図星を吐かれたルサールカは、ダユへと魔法を繰り出そうと、一歩前へ踏み出そうする。

 だが、ルサールカの足に伝わった感触は、壺の破片を踏む激痛であった。


「!!!!?」


 思いもよらなかった激痛に、ルサールカは必死に悲鳴を堪え、唇を噛む。

 足以外にも、腕や肩を壺の破片にやられており、綺麗な白は、所々赤く染まっていた。

 息を荒げ、ルサールカは体に刺さった破片を抜いていく。

 破片を抜くたび、彼女の体からは血が飛び散り、徐々に体力が失われていく。

 血を流したルサールカの視界は霞み始め、足元は覚束なくなる。


「あ、あぁ……」


 精霊だが、ルサールカは魂を持っていた。

 そのため、血液を持ち、水中の酸素によって体を動かしていた。

 水中であれば、傷があるだけで止めどなく血が流れ続ける。

 血液がなくなれば、人間と同じように、ルサールカは体の活動を停止せざるを得なくなる。

 ルサールカは、体内にのこる魔力を使い、全身の傷を癒す。

 その間、攻撃を繰り出せなくなるルサールカに、3人は追い打ちをかけた。


「槍よ。彼のものを、貫き貼り付けよ」

「あ、波、よ!! 私の前に、防壁を!!」

「……燃え尽きろ」

「なっ!?」


 ハクは、彼女の詠唱を真似、槍を発現させ、ルサールカを貫く。

 すかさず、治癒の手を止めたルサールカは防壁を張った。

 だが、ルサールカの抵抗を無に帰すように、ダユは炎属性の魔法(・・・・・・)を使い、波の防壁を蒸発させた。

 目の前の出来事に、ルサールカは眼を見張り、呆然とダユを見つめた。


「なんで!? っ、アァ!!」


 ダユに気を取られたルサールカは、ハクの攻撃を避けきれず、水性の槍によって壁に貼り付けられる。

 悔しそうに歯噛みし、ルサールカは、3人を睨みつけた。


「最後に、もう一度聞こう。ウンディーネの『魂』を返す気はないか?」

「答えは、同じよ!」

「今なら、ウンディーネが助かるとしても?」

「……え?」


 ハクは、ルサールカに最後の問いを投げかける。

 噛み付く様に答えるルサールカは、ハクの2つ目の言葉に、緊張を僅かに緩めた。


「今なら、この場にある『魂』を、彼女に返せば、助かるとしても?」

「ウンディーネ様が、また、あの笑顔に戻る……?」


 ハクの口から紡がれる誘惑に、ルサールカは、憎悪の炎を揺らす。

 眼を細め、ハクはルサールカを見つめる。


「お前は、ウンディーネを、どうしたい?」

「私、は」


 囁かれる言葉の数々に、ルサールカの瞳が揺れる。

 ウンディーネの壺へ視線を送り、顔を歪める。


「そんな、の……。助けたいに決まっているじゃない……」


 ポツリ、とルサールカが呟いた。

 壁に貼り付けられたまま、拳を強く握り、俯く。

 ルサールカの手は震え、瞳は潤む。

 しかし、ルサールカの決意までは、揺るがなかった。


「……でも、そんな方法、あるわけない。あるわけないあるわけないあるわけない!! 全部、私を惑わす嘘なんだ!! だって、そんな、ウンディーネ様を助ける方法なんて、私は知らないもの!!」


 突然、ルサールカは眼を見開き、叫んだ。

 水が振動し、轟音となって3人を襲う。

 説得に失敗したことにより、火に油を注ぐ結果となり、ルサールカの憎悪は膨らむ。

 耳を塞ぎ、警戒を強める3人を向かって、ルサールカは魔法を発動した。


「水よ! 全てのものに、斬撃を!!」


 彼女の体内には、残り僅かな魔力しか残っておらず、その全てを使い切る勢いで、ルサールカは魔法を放つ。

 彼女を中心に、全方位に無数の薄い斬撃が放たれ、3人の逃げ場を無くす。


「しまっ……!!」


 ルサールカの斬撃は、3人の結界を切り裂き、その身体を水中へ放り出す。

 途端、今まで結界に護られてきた体は、水圧に襲われる。


「……ハッ!!?」


 内臓は押しつぶされるような感覚に襲われ、肺の空気は強制的に吐き出される。

 呼吸ができず、魔力を集中させることもできない為に魔法を発動させることもできない。


「たかが、たかが吸血鬼になりたての、心臓を1つしか持たない新米魔王に、ウンディーネ様の何がわかるのよ!!」


 ハクの視界は徐々に薄れていく。

 ただ、ルサールカが、涙を浮かべ、何かを叫んでいた。




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