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第29話 王がら我

今回は、第28話のハク視点の話になります。

題名の裏返し。

即ち、話のやり直し。

作者はこういう表現の仕方が大好きです。


 身体を、揺さぶられている。

 頼りない力で、それでいて優しく、どこか安心する心地がする。

 瞼が重い。

 眼を開けるのが億劫だ。

 体が軽くなるまで眠っていたい。

 あぁ、まだ揺するのか。

 このまま、起きることなく体を揺らせれたら、きっと酔うだろうな。

 それは、それで億劫だ。

 あぁ、ムクに、会いたいなぁ……。


「……っ」

「ハク!」


 瞼は、やはり重い。

 まるでレンズが曇っているように前が見えない。

 あぁ、それでも、そこにある白い髪は、きっと。


「ム、ク……?」


 段々と、視界がはっきりとしてきた。

 間違いなく、俺の顔を見ているこの子は、ムクだな。

 ムクが、生きてる……。

 じゃあ、村で、俺を抱きしめたのは、ムクであっているんだな。


「ッ!?」


 身体に、電流みたいな、何かが……。

 魔法を使った反動か?

 身体を動かすたびに、細かくて嫌な感覚がする。

 筋肉痛とも違った痛み。

 これはこれで、不愉快だな。


「ハク……!!」


 ……っ、珍しい歓迎だな。

 あのムクが、自分から俺に抱き付くのか。

 ムクを受け止めた衝撃で電流が走ったのは、黙っておこう。

 やっぱり、傷は塞がってるな。

 あの人間共の企みは、阻止、できたのか……。

 俺は、ムクを抱きしめ返しても、いいのか?

 とにかく、離れてもらうことが先決か?

 あぁ、そんなことより、今は、ムクの事が。


「ムク……」

「よかった……」


 女の子らしく、か細くて弱々しい声。

 ムクも、ちゃんと小さな女の子だもんな。

 俺の胸にしがみ付いて、頬を寄せてるのが、その証拠だ。

 僅かに、震えている気もする。

 ……憎い、な。

 ムクを、ここまで悲しませる原因を作った、実行した『人間』が、憎い。

 憎い、憎い、憎い、憎い、憎い憎い憎い憎い。

 あぁ、でも、今は。

 俺の前に、俺のそばにいてくれるムクが、愛しい。

 俺の手で触れたら汚れてしまうだろうか?

 この綺麗な真っ白な、純白な髪は、赤黒く変色してしまうだろうか?

 ……それでもいいか。

 どんなに変わろうと、俺は、お前を。


「……よろしいですか?」


 ムクの頭へと伸ばした腕が、不覚にも震える。

 咳払いと、たった一言。

 聞きなれない男の声がする。

 警戒の意を込めて、声のした方へ振り返った。

 そこにいたのは、中華風の装いの男。

 ……あぁ、多分、大蛇か。

 青銅色の髪に、白磁の毛が一束まざっている。

 それに加えて、あの中黄の瞳。

 多分、間違いなく、あの大蛇なのだろう。

 にしても、だ。

 確かに大蛇なら、きっとムクとも面識があるんだろうな。

 にしても、なんだ?

 ムクが、俺以外の『生物』と言葉を交わしていることに、無性に腹立たしさを覚える。

 ……憎い。


「この人は?」


 我ながら、ガキだな。

 自分に意識を向けてほしくて、分かりきったことを聞くなんて。


「ヨルムンガルド。私たちをここに運んだ、葡萄を守ってた、あの大蛇」

「一応、神の息子なのですがね」

「ヨルムンガルド……?」


 大蛇なのは当たっていたらしい。

 だが、『ヨルムンガルド』の名は、大いに予想外だ。

 その名の大蛇は、俺の世界では確か、邪神ロキの。


「再びお目にかかることができ、光栄でございます。挨拶が遅れました。これは、ロキ神とアングルボザの二男、ヨルムンガルドでございます。現魔王派に属しており、秘書としての立場を承っております」


 俺が思い出すよりも先に、自己紹介をしてくるとは。

 そこそこに気が利くらしい。

 またムクとヨルムンガルドが会話している。

 腹立たしいことこの上ない。

 苛立ちを、隠さないと。

 気を紛らわすなら、2人から視線を外して。


「ここ、は?」


 初めて、自分のいる場所の異質さに気が付いた。

 辺り一面が氷。

 氷しかない。

 直に触っても冷たくない、氷だけが世界を覆っている。

 なんだ?

 世界が滅びたのか?


「ここは、ユグドラシル・ニヴルヘイム。私たちがいた場所の、所謂平行世界でございます」


 世界は滅びていなかった。

 いっそ、あの憎い人間が根こそぎ滅んでくれたなら、どんなに心地いいか。

 ムクとヨルムンガルドが二人がかりで状況の説明をしている。

 海底に平行世界の入り口とは、なんとも不用心な。

 限られた種族だけだからと言って胡坐かいてると、きっと足元掬われるぞ。

 たとえば、極夜辺りに、な。


「平行世界……」

「うん」

「……本当に、氷しかないんだな」

「うん」


 俺が言葉を呟けば、そのたびにムクが反応する。

 律儀に言葉を返してくるムクが可愛くて仕方がない。

 俺が歩き出せば、ムクは後ろをついてくる。

 きっと、さっきの村での出来事が、ムクを不安にさせているんだろうな。

 今、ムクの意識は俺に向いている。

 あぁ、気持ちがいい。

 ヨルムンガルドが、勝手に街の解説をしてくれるおかげで、この国の構造が大体理解できた。

 魔王の秘書を務めるだけはあるか。

 解雇してやろうかと思ったが、今のままでいいか。

 それにしても、1つ。

 この国に、食料と呼べるものは何一つとしてないのか。

 畑もない。

 市場もない。

 樹木も、雑草さえもない。

 完璧な、氷の国。

 だから人間ごときに負けるんだよ。


「さて、街の散策はこの辺に。ハク様、ここが、我等が王の城でございます」


 王城へと続く一本道にたどり着くと、ヨルムンガルドが足を止めた。

 不思議と、霧の中から浮かび上がってきた門と城。

 確かに、魔族の城にはふさわしい。

 何もないな。

 外見に、美しさも、覇気もない。


「こちらへ」


 ヨルムンガルドが門を開けて中へと進む。

 躊躇うことなく城へと足を踏み入れると、ムクが袖を握ってきた。

 可愛いな。


「大丈夫、だから」

「……? おう」


 ムクの可愛さは大丈夫じゃないな。

 きっと、俺が魔族相手に怯えることを心配したんだろうな。

 大丈夫だよ、ムク。

 ここにいるようなやつらに、負けることなんてありえないからな。


「どうぞ、お入りください」


 通された大広間。

 所狭しと、規則的に並ぶ魔物たち。

 恐らくは、種族ごと。

 入口に近くなる程低俗、奥へ行くほど高貴。


「さぁ、王座へ」

「……王座?」


 あれが?

 確かに、大広間の最奥。

 魔物が詰め寄った空間のその先に、1つの椅子がある。

 だが、どうみてもただの椅子だ。

 装飾もしてあるが、シンプルすぎてなんとも言えない。


「いこ、ハク」


 いきなりムクが俺の手を引き、歩き始めた。

 自分でも歩けるが、気分がいいので手はつないだままにしておいた。

 俺達が一歩踏み出した瞬間に、魔物が一斉に道をあける。

 あぁ、なんて気分がいいんだ。

 あれが王座。

 だが、近づけば近づくほどに理解できる。

 あれは、王座だ。

 なるほど、確かに王座だ。

 俺は、この椅子に吸い込まれるように座った。

 その瞬間、王座は質素な装飾から、豪奢な装飾へと変化する。

 幅も広がり、もう一人、たとえば、少女が座れるくらいの幅ができる。

 そこに、何の迷いもなくムクが座る。

 あぁ、気分がいい。

 この椅子は、所有者の趣味に合わせて装いを変えるのだ。

 あぁ、これならば、辻褄が合う。

 俺が、魔獣の森の中に召喚された理由も。

 ムクに会うまで、一度も魔獣の姿を見なかった理由も。

 あの時、ブラックドッグに、襲われなかった理由も。

 俺は、俺が、俺こそが――


「ここに、我らが王の帰還を宣言する!!」

「「「おぉ!!!」」」


 地面を揺らす程の魔物の歓声。

 耳障りな程、低俗な声色が多いが、眼を瞑ってやろう。

 ヨルムンガルドが俺の、俺達の前に跪く。

 それに合わせ、魔物が一斉に跪き、忠誠を誓う。

 あぁ、支配者とは、こういう気分なのか。

 折角だから、口調も変えておこうか。


「……装いを、変えねばなるまいな」


 俺は指を一度鳴らした。

 ウンディーネの加護を受け、海水で浄化された制服に、別れを告げよう。

 指を鳴らした途端、衣服は徐々に漆黒に染まり、軍服に似た形へと装いを変えていく。

 漆黒の軍服に猩々緋に染まったマント。


「ハ、ク……」


 大丈夫だよ、ムク。

 何も心配することは無い。

 全部、俺に任せればいいから。

 そうすれば、君を傷つける全ての存在を『消して』あげるから。

 だから、笑ってくれよムク。

 村で俺に見せたあの笑顔を見せてくれよ。

 咲き誇らんとするあの花のような笑顔を。

 俺だけに、見せてくれよ。


「おかえりなさいませ、魔王様。そして……、よくぞ召喚に応じてくださいました、我らが王よ!」


 今の俺は、きっと、『人間』の表情はできないだろうな。

 あぁ、なんて、最高の気分なんだ。

 ただ、俺の胸に残ったのは、人間への憎しみ。

 俺の顔に浮かんだのは、魔王としての自覚と恍惚。


「さぁ、はじめよう。人類の、殲滅を!」





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