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第2話 少女と青年

 青年は声を漏らし、少女の裸体を見つめる。

 髪、顔、胸、足の順で眺め、もう1度少女の顔に眼をやる青年は、1拍後、大きく後ずさった。


「う、うああぁああぁ!!??」


 奇声を上げて倒れ込む青年を、少女は表情1つ変えずに眺める。

 口を開け、顔を赤くし少女から眼を背けた青年は、その幼気な身体を指さし叫ぶ。


「ふ、服を着ろおおおおお!!」


 少女は、青年の言葉に反応し、胸元の破れた衣服を見せつける。

 項垂れ、顔を両手で覆い絶望する青年は、大きな声で独り言を漏らし始めた。

 聞きなれない言葉を吐き続ける青年に、少女はゆっくりと歩み寄る。


「なんでだ、なんでなんだ……。俺は、さっきまで学校にいたはずなのに。急に変な世界に飛ばされたかと思ったら、なんで目の前に裸の幼女が!? ……待てよ、ここは俺の知る世界じゃないとしたら!! この幼女の裸を見るのは合法では!!??」


 複雑に混ざり合う心中を思う存分吐き出した青年は、勢いよく顔を上げ、少女の裸体を拝もうとするが、事故が起こるまで目の前まで移動してきた少女の存在に気付くことは無かった。


「「……」」


 突如顔を上げた青年は、目の前にいた少女の僅かに膨らんだ胸に顔を埋めることとなった。

 あまりの出来事に青年は固まり、少女はやはり表情を動かす事はなく、青年を見下ろしていた。


「柔らかい」

「そう」


 今まで生きてきた中で女性の胸を揉んだことのない青年にとって、ほぼ絶壁の少女の胸すらとても柔らかく、神秘的なものであった。


「もういい?」

「は、はい!!」


 少女は抵抗することなく青年に胸を貸し続け、青年は勢いよく仰け反り、そのまま後ろへ倒れ込む。


「俺、死ぬのかな」

「死ぬの?」


 青空を見つめ、ポツリ、と呟く青年の顔を少女は覗き込み、首を傾げた。

 体を起こし、頭をかく青年の容姿を、少女は今一度観察する。

 太陽の光を反射して光る銀髪。少し長めの前髪の隙間から覗く不思議と魅かれる藤色の眼。

 『普通』とは異なった容姿の青年に、少女は眼を奪われる。


「なんだ?」

「綺麗……」


 少女は藤の瞳を見つめ、声を零した。

 意外な反応に、青年は呆気にとられ、少女の血のような赤を見つめ返す。


「これは、元は青い眼がアルビノのせいで紫に見えてるっつーか」

「アルビノ?」


 端折って説明する青年の聞きなれない言葉に、少女は先ほどと反対方向に首を傾げた。

 その反応に、少女が自分の国の人間ではないことを判断した青年は、補足していく。


「母親がロシア人で、ハーフの日本人なんだが。色素が薄い病気、みたいなののせいで眼が紫というか」

「ロシア? ニホン?」


 表情は変えぬまま、理解しきれない言葉は投げ返し、少女はコミュニケーションを図ろうとする。

 ようやく自分の置かれた状況を理解し始めた青年は、少女に問う。


「ロシア、北にある大国。日本は極東の国。知らないか?」

「そんな大国、聞いたことがない。ニホンも同じ」


 首を振る少女の反応を見て、青年は手で顔を覆う。

 少女は、青年の着用している衣服を見て、武器になるものを何も持っていないことに再度首を傾げた。


「これは?」


 青年の服を指さし質問する少女。

 青年は少女が何を指しているのか、確認した後、自分の持つ知識で答えた。


「ん? これ? 制服。俺は、男子高校生だからな」

「ダンシコウコウセイ?」


 片言で、少女は青年の言葉を復唱する。

 聞いたことも、使ったこともない単語を吐き出す青年に、少女はゆっくりと距離を取る。


「あぁあ、違う! 俺は怪しい人間じゃない!!」


 少女の行動に、青年は慌てて否定し、身の潔白を証明しようと大きく身振り手振りで説明していく。

 少女の表情筋は働かず、考えていることが読めない青年は諦めたように顔を引き攣らせるが、少女が元の距離に戻ってきたことで安堵し、肩の力を抜いた。


「なぁ、俺からも質問いいか?」

「いいよ」


 話題を変える合図として、青年は咳払いをし、少女に確認を取る。

 一つ頷いた少女に、青年は言葉を選びながら問いを重ねていく。


「ここは、どこだ?」

「エーデレスト王国郊外、通称『魔獣の森』」

「ここには、何が存在する?」

「土地、という意味なら、龍種未満の低俗魔族が。人間は王国内に閉じこもっている」

「魔術や魔法の類は、存在するのか?」

「ある」

「世界の状況はどうなっているんだ?」

「人類対魔王軍の全面戦争」

「俺がこのままここに残っていたら、どうなる?」

「人類から『魔族』と判断され、始末される」

「なら、最後に」


次々に青年は問を重ね、少女は気を悪くすることなくそれに応える。

 青年は、勿体ぶるように一呼吸置いた後、少女を真っ直ぐと見据え問うた。


「お前は、なんだ」

「通称『吸血鬼』。魔族の中でも最上位とされる存在」


 冷たく、平坦な声で少女が告げた時、二人を包み込むように強い風が吹き、赤い満月の様な少女の瞳が、妖しく光った。




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