第21話 勇者
ハクが魔法を習得した頃、エーデレスト王国城壁外にある冒険者の集う村に、一人の男が訪れていた。
「……ん? おぉ! 勇者様!!」
「勇者様だ!!」
「如何なさいました、勇者殿」
冒険者の集まるギルドに訪れたその男は、屈強な戦士に慕われ、手厚い歓迎を受けていた。
地図を囲むように座る冒険者達に眼をやり、勇者と呼ばれたその男は、会議に加わる様に声をかける。
「何か、困った事でもあるのですか?」
「それが……」
冒険者たちは、躊躇うことなく勇者に事情を話す。
その内容は、紛れもなく、吸血鬼『ムク』についてであった。
「勇者様も一度は足を運ばれたでしょう、『魔獣の森』に、1匹の吸血鬼が住み着いているのです。あの化け物を、どうにか排除したいのですが……」
「何か問題でも?」
「それが、あの吸血鬼は、不死身なのです」
困った様に告げる冒険者たちに、勇者は真剣に話を聞く素振りをする。
口元に手を当て、考え込むようなポーズをとる勇者は、更に深く話を掘り下げていった。
「不死身、とは?」
「吸血鬼には、『人間から攻撃を受けるたびに心臓が増える』という特性があります。吸血鬼は、その心臓をすべて破壊尽くされなければ死なないのですよ」
「森に住み着いている吸血鬼の心臓の数は?」
「随分前から生きていますので、その数を把握しきれていません」
「なるほど、それは厄介ですね」
冒険者に寄り添うように、勇者は相槌を打つ。
その裏で、たくさんの計算を重ねながら。
「その吸血鬼は、何か災いを及ぼしたことがあるのですか?」
「500年ほど昔、隣村が壊滅しました。その他に被害は聞いていませんが、何かある前に始末してしまいたいのです」
「なるほど。確かに、この村にも被害が出ないとは言い切れない」
「おぉ、分かってくださいますか」
「えぇ、痛い程に」
感激する冒険者に、勇者は優しい笑みを向ける。
その笑みに安堵する冒険者は、更に情報を喋っていく。
「最近、その吸血鬼になにか仕掛けたのですか?」
「毎日奇襲を仕掛けています。吸血鬼は、行動パターンが決まっているようで、奇襲をかけるには丁度いいのですよ」
「その時、吸血鬼は何か攻撃を返してきますか?」
「それが、不思議と吸血鬼は攻撃をしないのです。まぁ、我々に恐れをなしているのでしょうけどね」
冒険者は、勝手な思い込みで汚い笑い声を上げる。
勇者もまた、愛想笑いを浮かべ、冒険者の機嫌を保つ。
この時、勇者は1つの確信を得た。
(この吸血鬼、人間に危害を加える気は微塵もないな)
勇者は、短期間で数々の魔物を倒したが故に『勇者』と呼ばれるようになった。
吸血鬼の様に、理性を持った相手とも対峙した経験がある。
それらの経験を照らし合わせ、吸血鬼を分析していくことで、導き出した結論。
しかし、その確信を冒険者に告げることなく、勇者は隠した口元を歪めた。
「みなさん」
口元から手を退かし、勇者は冒険者達に語り掛ける。
その場にいる冒険者全員の意識が自分に向いたことを確認した勇者は、全員の心に響くよう、言葉を紡いだ。
「少々準備に時間がかかってしまうのですが、こういうのはいかがでしょう?」
誰にでも理解しやすいよう、紙に図を描きながら、勇者は説明していく。
長期間にわたる準備期間の必要性、作戦の成功率、利益、その全てを説明していく勇者に、冒険者達は眼を奪われ、盲目的にその話を信じ込む。
「流石は勇者様だ。これなら行けるぞ!!」
「さっそく準備だ!」
「必ず仕留めてやる!!」
盛り上がる冒険者達を、勇者は笑いながら眺める。
吸血鬼の安全性は一切説明することは無く。
勇者は嗤う。
彼にとって、全ては、ただの遊戯でしかないのだから。




