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第1話 遭遇


「いたぞ!!」

「こっちだ!!」


 騒々しく、冒険者を職業とする人間が、フードを深く被った少女へ剣を向ける。

 総勢5人、全員が少女を取り囲むように並んだ後、一斉に少女へ飛び掛かった。


「たああぁあ!!」


 5人は前後から少女の心臓部を貫き続ける。

 何度も、何度も心臓へ向け剣を刺し、息の根を止めようとした。


「やったか!?」

「いや、まだだ!」

「手を止めるな!!」


 冒険者が冒険者へ叫び、穴だらけになった小さな少女を尚も細く鋭い剣で刺し続ける。

 抵抗せず、攻撃を受け入れる少女の瞳に、光は映っていなかった。


「これで、どうだ!!」


 5人は血だらけの少女から距離を取り、様子を窺う。

 胸部は穴だらけ、内臓が見え、骨がむき出しになっている少女は、立っているのが不思議に思えた。

 緊張感と恐怖が混ざり合った空気の中、5人が達成感を感じ始めた時、ピクリ、と少女の肩が動いた。


「クソッ!! まただ!!」

「今度は何回攻撃したんだ!?」


 冒険者は叫び、吠え、頭を抱える。

 少女の身体は自然に回復し、飛び散った肉、血液を吸収し始め、欠落部を埋めていく。


「数えてろって言ったじゃねぇか!!」

「何してる! 逃げるぞ!!」


 怒声をまき散らし、慌てて逃げ惑う冒険者5人は、動くことの無い少女へ振り返り、止まることなく走り去る。


「畜生! 化け物が!!」

「吸血鬼め!!」


 転びそうになりながら逃げていく冒険者を眺め、少女は耳に残った汚い怒声を思い出す。


「吸血鬼……」


 少女は起伏の無い声で、ポツリ、と呟く。

 吸血鬼。

 それはこの世界を蔓延る魔物の中でも、特に強力な力を持った存在。

 攻撃された回数分、心臓が増え、それを全て壊されない限り永遠に生き続ける化け物。

 元の心臓は人間と同じく1つ。

 その周りに、小さな球状の心臓がくっつく様に増えていく。

 自分で自分へ攻撃しても心臓は増えず、『人間』に攻撃されることで心臓が増えていく。

 仕留め損ねればそれだけ攻略は困難になり、心臓は無限に増えていく。

 また、人間の心臓を喰らうことでも自身の心臓を増やすことができた。

 人間の血を啜り、心臓を喰らって生きていく化け物は、人間にとって最も恐るべき存在であった。

 吸血鬼の中でも共通の外見的特徴は、その『赤い眼』。

 血液を連想させるその瞳は、吸血鬼であることの何よりの証拠であった。

 少女は、破けたフード付きマントを脱ぎ、引きずるほどに長い白髪を露わにする。

 前髪も後ろ髪と同じ長さまで伸び、M字に分けられ重力に従い垂れていた。


「水浴び、行こう」


 少女は、日課としている水浴びをしに泉へ向かう。

 生前、母親に教えられた、今はもう意味をなさない習慣。

 それでも、身体に刷り込まれている習慣。

 先程まで殺されかけていたにもかかわらず、少女は冒険者を追うこともなく、その上気にする素振りさえ見せず、泉へ向かう。


「服、捨てなきゃ」


 胸部周辺のみ破れた衣類を見て、少女は呟いた。

 歩きながら服を脱ぎ、泉に着いた頃にはもう一糸まとわぬ姿となった少女は、まだ冷たさの残る泉へ躊躇うことなく足を入れた。


「ふぅ……」


 体全体を冷水だけで洗っていく少女は、肩まで泉の中へ入り、表情の無い顔で辺りを見回す。

 魔獣も近寄らず、静寂だけが場を満たす空間で、少女は己の存在を考える。

 少女の見た目は、およそ12歳程の幼さで、顔は端正に整い、赤く大きな瞳を揺らしていた。

 髪は濁りなく白く、何十年も伸ばしたままになっていた。

 しかし、少女は見た目と反して、すでに500年の時を生きており、生きた屍として彷徨い歩いては人間と出くわし、攻撃を受けていた。


「……いない、かな」


 少女は立ち上がり、水分を含んで重くなった自分の髪を小さな両手で絞っていく。

 音を立てて流れ落ちる水を眺めながら、少女は髪を乾かそうと岸へ上がろうした時、少女の背後でガサリ、と音がした。 


「……」


 少女は動揺することなく、また自分の裸体を隠すことなく後ろを振り返ると、そこには見慣れぬ服装の青年が立っていた。


「え?」




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