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第11話 泉

本日二話目の投稿です


「落ち着いた?」

「あぁ……」


 ハクは、泉の水を使い、涙の跡を洗い流していく。

 そばに座って様子を見守るムクは、顔を上げたハクに、そっと肩の力を抜く。


「悪かったな、見苦しいもの見せて……」

「ううん」


 ハクは、視線を逸らし、気まずそうに言葉を漏らす。

 ムクは首を振り、その言葉を否定すると、ハクは安心したように溜め息を吐いた。


「それで、なんだけど」

「? どうした?」


 ムクは、辺りを見回し、右手に魔力を集中させ始めた。

 ハクは首を捻り、ムクの視線を追うように周辺を見渡す。

 一見、なんの変化もないように見える森は、泉への道を閉ざしており、泉から出る道も存在していなかった。

 2人が森へ視線を向けた時、泉の水が波打ち始めた。

 ムクは、泉の中心へ視線を投げ、僅かに眼を細める。


「何の真似?」

「少々、気を使わせていただいただけにございます」

「!? 誰の声だ!?」

わたくしの声でございます」


 ムクの声に反応する様に、物腰の柔らかそうな声が響いた。

 反射的に振り返り、身構えるハクに返事をするように、泉が揺れる。

 泉の中心から響くその声は、徐々に近づいているかのように大きくなり、やがて姿を現す。

 突然、泉の表面が大きな音を立てて破裂した。


「なんだ!?」


 水飛沫が上がり、霧の様に辺りが霞み、視界が遮られる。

 ハクは眼を細め、霧の先を見ようとする。


「フフフ、そんなに驚かなくても」


 数秒後、霧が晴れ、泉全体が元の景色を取り戻す。

 ただ1点を覗いて。

 泉の中心に、1人の女性が立っていた。

 女性は、水色の髪を左肩から垂らし、金色の瞳で2人を見つめる。

 真珠色のドレスを着ており、2人へ向け、優雅にお辞儀をして見せた。


「……え」

「フフフ、人間が迷い込むとは、珍しいこともありますね」


 目の前に現れた女性に、ハクは驚愕でその場に固まる。

 口を開け、呆然とするハクに、その女性は微笑んでみせる。


「お初にお目にかかります。ウンディーネでございます」

「この人が、この泉の主」


 愕然とするハクをよそに、ムクと女性は言葉を交わしていく。

 ウンディーネと名乗った女性は、水面をゆっくりと歩き、2人へ近づいていく。

 ウンディーネは、一目で人間ではないと分かるほどに美しく、不思議な雰囲気を纏っていた。


「お久しぶりでございますね」

「うん」

「では、もう不要でしょう」


 ムクと言葉を交わした後、ウンディーネは森へ手をかざし、魔法を解く。

 すると、森がぐにゃり、と曲がり、一筋の道が現れた。

 それを見届けた後、ムクもまた右手に込めた魔力を散らした。


「殿方の泣き声を多数の者が聞くのは、無粋というものでございますからね」

「ありがとう」

「……!! まぁ! どのような心境の変化でございますか?」

「なんでもない」


 感謝を述べたムクに対し、ウンディーネは眼を見開いて驚く。

 少し、不機嫌そうな顔をするムクに、ウンディーネは驚愕を深める。

 自分の事の様に喜ぶウンディーネは、ムクの次にハクへ視線を動かした。


「さて、こちらの人間なのですが……」

「俺?」

「……え?」


 金色の瞳で捉えられたハクは、自分を指さし首を捻る。

 ハクを正面から見つめたウンディーネは、その瞳を覗き込んだ時、不自然なタイミングで動きを止めた。

 ピタリ、と動きを止めたウンディーネに、ハクは戸惑い、ムクは無反応で返す。


「ハク」

「ハク……様、ですか」

「え? 様?」


 ムクは、横からハクの名前を告げた。

 復唱する様にハクの名を口にし、ウンディーネは眼を細める。

 そして、数歩下がった後、ウンディーネは2人に跪いて見せた。


「え? 今?」

「そうでございますね。最初から、こうしているべきでした」


 ハクの眼には、ムクに向けて跪いているものに見えた。

 しかし、角度的には、ハクに跪いているようであった。

 ウンディーネは頭を上げずに、反省と忠誠を示す。


「我が主……、我が王よ。非礼をお許し下さい……」

「そういうの、いらない」

「ですが……」

「え? どういう状況?」


 跪いたまま、動くことの無いウンディーネに、ムクは冷たく言い放つ。

 混乱するハクを置いてけぼりにし、ムクとウンディーネ、2人で話を進めていく。


「ハクは、気付いてない」

「……! そういうことでしたら……」

「何に?」

「なんでもない」


 ウンディーネは静かに立ち上がり、最初に見せた微笑みを浮かべる。

 首を捻るハクに説明することなく、話題を終わらせるムクは、普段よりも顔に感情が現れていなかった。

 納得がいかず、拗ね始めたハクは、頬を膨らませる。


「なんだよ」

「いいの」

「では、改めて自己紹介を」


 不穏な空気が漂い始めた2人の間に割って入る様にウンディーネが声を上げた。

 2人は同時に視線をウンディーネに集中させる。

 にっこり、と微笑んだウンディーネは、自分の胸に手を当て、ドレスの裾をつまみ、名乗りを上げた。


「ウンディーネ、この泉の主であり、属性・水を司る精霊でございます」

「属性を、司る……?」

「えぇ」


 ハクは、理解が追いつかない部分を復唱していく。

 その声に、ウンディーネは再度微笑み、1つ頷いて見せた。


「他にも、私の兄妹が属性を司っております」

「兄妹?」

「はい。属性・炎を司るサラマンダ―、属性・風を司るシルフ、属性・土を司るノーム。この三人が、私の兄妹でございます」


 指を折り、ウンディーネは、自分の兄妹について説明していく。

 口を出すことなく、ムクはハクの隣で黙ったままウンディーネの話を聞く。

 ハクは、ウンディーネの話に興味を示し、眼を輝かせた。


「じゃあ、光と闇は?」

「え? ……そうですね。属性・光を司るのはウィル・オー・ウィプス。属性・闇を司るのはシェイド。彼らは、気難しく、誰も近寄らない精霊の代表格でございます」


 眼を輝かせるハクから視線を逸らし、ウンディーネは補足する様に説明していく。

 ウンディーネが『シェイド』の名を口にした時、世界がざわめいた気がした。


「ふむ……。俺がいた世界でも聞いたことのある名前……」

「あら? こちらの世界の住人ではないのですか?」

「え? いや……」


 ハクは、精霊の名に思考を巡らせ、うっかりと口を滑らせる。

 首を捻るウンディーネに、誤魔化すように視線を逸らしたハクは、ムクに助けを求めた。

 しかし、ムクは完全に興味を無くしており、泉の中の小魚と戯れていた。


「大丈夫ですよ。そう珍しいことではないです」

「え?」

「どうりで、見慣れない格好をしていらっしゃいます」


 ウンディーネはハクの心配をよそに、温かい微笑みを浮かべた。

 別の意味で理解が追いつかないハクは、ウンディーネの金色の瞳から眼が離せなかった。


「しかし、人間の国ではなく、森にいるということは……」

「ウンディーネ」

「はい、ここに」


 頬に手を当て、ウンディーネは考え込むように小さく呟いた。

 すかさずその言葉を遮る様に、突然ムクがウンディーネの名を呼んだ。

 ムクの呼び声に反応し、ウンディーネは言葉を切り、ムクへ体を向ける。


「余計なこと、しないで」

「……承知いたしました」


 赤い瞳を光らせ、鋭い牙をのぞかせ、ムクはウンディーネへ命じる。

 ウンディーネは顔に影を落とし、重く、冷たい言葉で命令を飲み込んだ。

 再度置いてけぼりを食らったハクは、そういうものだ、と割り切り、無理やり自分を納得させる。


「さて、今日は水浴びにいらしたのでしょう?」

「うん」

「では、お話はここまでといたしましょうか」

「うん」


 ウンディーネの言葉で、全ての会話が強制的に終了する。

 ムクは、ハクの前にもかかわらず、身に纏っている衣服を脱ぎ始めた。


「ちょ!? だからやめろってば!!」

「なんで?」

「女の子なんだから!!」

「あら? お二人は、まだ夫婦の契りは……?」

「してねぇよ!!」


 慌てて視線を外し、ムクを戒めるハクに、ウンディーネは首を捻る。

 否定するハクに、ウンディーネは驚いたように眼を見開き、ムクを見下ろす。

 すでに一糸まとわぬ姿へとなったムクは、泉に浸かっており、2人の言葉を聞き流していた。


「まぁ」

「恥らいを!!」

 




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