第0話 プロローグ
血の雨が降る。
少女は、ただそこに座っていた。
首筋から血を流し、辺り一面灰になってしまった街を見渡して。
――どうして、こうなったのだろう。
少女は考える。
何も、考えたことの無い頭を回転させて。
少女は、自分の髪を見る。
黒から白へ変化した髪色を、緑から赤へ変化した瞳で。
――自分は、ついさっきまでただの人間だったはずだ。
少女は、足を引きずって歩き出す。
吐きそうな程に濃厚な血液の匂いが充満した空気を裂いて進む。
――視界が、はっきりしている。
足跡を残して、少女は進む。
長い髪を引きずり、みすぼらしい服を着て。
虚ろな瞳、表情の無い顔。
新しく生えた犬歯を光らせて。
少女は進む、あてもなく。
――私は、誰だろうか?
少女は炎から逃れた森を見る。
あてもなく、ただ森の中へ足を踏み入れる。
血の足跡を残し、生者へ別れを告げた。
――何もない。何もない。何もない。
生き物が見当たらない森へ、足を踏み入れる。
魔物の声が響き、地揺れは止まることを知らない。
人間は到底生きていけない環境で、少女は生きる。
――いつになったら、私は夢から覚めるのか。
少女は夢を見続ける。
醒めることの無い悪夢を。永遠の悪夢を。
少女は500年、悪夢を見続けていた。
少女はこれからも悪夢を見続ける。
醒めることは、永遠にない。
これは――