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月給24万円でヒーローやってるけど色々しんどい  作者: シラサキケージロウ
第3章 第2話 日本で一番悪い奴ら
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第2話 日本で一番悪い奴ら その4

 ラジオもテレビもインターネットも、ニュースといえば野水が起こした例の一件ばかりで本当に嫌になる。世間全体はすでに敵だ。印象操作で特装隊全国展開の世論を盛り上げるつもりがこのザマでは、まったくどうしようもない。このままでは全国に展開なんて夢のまた夢。それどころか、設立早々この隊がおとり潰しに遭う可能性だって出てきた。どこまでいっても俺には関係の無い話なので、気にする義理も無いのだが。


 さて、その日の夜も俺と四ノ原はパトロールを行っていた。街はいつものように至って平和で商売あがったり、閑古鳥が鳴くばかりである。


「暇ですね」と四ノ原が車を運転しながら呟いた。


「眠くなってくるくらい」


「暇なのが一番だろ、警察にとっては」


「そりゃもちろんそうですけど、でも、実績のひとつやふたつくらい作らないと。野水くんの件で、わたしたちへの風当たりが一気に強くなったんですから」


「じゃあ俺がコンビニ強盗でもしてやろうか。で、お前がそれを捕まえる」


「あら、いいですね。早速やって貰えません?」


「冗談だよ。臭い飯は食いたくない」


「こっちは本気でしたけど?」


 そう言って笑った四ノ原の横顔から笑みが消えると同時に、車が路肩に寄せられて停められた。俺が「何かあったか?」と訊ねる頃には、四ノ原は既に外に出て、クロカブトが載せられた後ろのスペースに乗り込んでいる。


「見つけたんですよ、通りかかった路地の向こうに車上荒らし」と半ばウキウキした調子で四ノ原は言った。犯罪者を見つけて喜ぶとは、防犯思想の欠片も無い警察官である。


 車から降りて元来た道を少し戻り、路地の先を覗いてみれば、確かに向こうの駐車場に怪しげな男ふたりが車の窓に何か細工をしようとしているのが見える。警察の出番なのは間違いないようだが、しかしアレにクロカブトが出張るというのはやりすぎだろう。四ノ原に限って無いとは思うが、何かの手違いで野水の二の舞――なんてことも十分にあり得る。


 車のところまで戻ってきた俺は、クロカブトの起動準備をする四ノ原に声を掛けた。


「待ってろ、四ノ原。俺が行って止めてくる」


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ本郷さん。これは、なんとしても特装隊の手柄にしないと――」


 その時、運転席の無線から「いるか?」という寝ぼけたような藤堂の声が聞こえてきた。四ノ原がそれに気を取られた隙に走り出した俺は、一気に路地を抜けて駐車場へと向かう。


 しかしどうしたことか、そこには既に車上荒らしの姿は無かった。一歩遅かったかと思ったが、見たところ荒らされた形跡のある車も無い。もしや、こちらの気配を感じて素早く逃げたのだろうか、と思った矢先、車の陰にふたりの男が縛られた状態で気絶しているのを発見した。


 まさか――。


「連絡する手間が省けた。ご苦労だな、〝警察官殿〟」


 厭味ったらしい声が頭上から聞こえた。見上げてみると、電柱の上に居たのはヒーローの衣装にすっかり身を包んだ司である。


 電柱から飛び降りた司は俺の目の前に着地した。


「……ようやく会えたな、司」


「誰だ、それは。私はファントムハート。司などという名前の者は知らない」


「ああ、そうかよ。なんだっていい。とりあえず話聞け」


「話を聞く暇はない。私は翔太朗と違って忙しいのでな」


「なんで司じゃないヤツが、俺の名前を知ってるんだ?」


「……とにかく、その犯罪者共は貴様に預ける。ではな。もう二度と会うことも無いだろう」


 そう言ってトレンチコートを翻した司の肩に、俺はぐっと手を伸ばして掴んだ。抵抗されると思ったが、存外、暴れる素振りは無い。


 その時、俺は理解した。司は延々怒っていたわけではない。ただ、カッとなって振り上げた拳を下げるタイミングが見つからなかっただけなのだと。司も司で悩んでいたのだろう、と。

となれば、問題解決は目前。必要なのは〝仲直りの儀式〟だ。俺はこいつに事情を説明して素直に謝る。そうすればきっと、こいつはそれを「まあいいだろう」と渋々を装い受け入れる。これで万事解決。後腐れもきっと無い。


「司。話聞いてくれるよな」


「……一分だけだぞ。納得できる説明をしろ」


「任せろ。まあ、色々と複雑なんだけどな、かいつまんで話せば藤堂っていう悪徳警官に――」


「本郷さんっ!」


 すぐ後ろから四ノ原の声が聞こえてきた。他の誰かに――特に警察には絶対に聞かれたくない話をしようって時に現れるなんて、タイミングの悪い奴だ。


 司は「どうした」と少し不服そうな声を出す。四ノ原は「緊急事態!」と焦った様子でこちらを手招いている。どちらも無視をすれば後が怖い。前門の虎後門の狼。万事休すである。


 司か、四ノ原か、司か、四ノ原か。五秒に及ぶ長考の結果――俺は付き合いの長さに賭けた。


「司。突然だけど用事が出来た。行かなくちゃならん」


「……おい貴様、この期に及んで怖気づいたというのではなかろうな」


「そういうわけじゃない。そういうわけじゃないけど、この前に言った通り事情が複雑だ。ここじゃ話せない。だから、明日必ず話す」


「私も言ったはずだ、一分だと。残りはもう半分も無いぞ」


「じゃあその半分を明日に持ち越しだ。とにかく俺は行く」


「……いいか、翔太朗。私は貴様に――」


「本郷さんっ! ほら! ここはご当地ヒーローに任せて!」


 気づけば背後にいた四ノ原が俺の腕を掴んでいる。俺は身体を引っ張られながら、「明日だからな!」と何度も司に繰り返し念押しした。


 司は黙って親指を下に向けた。





 半ば無理やり俺を助手席に押し込んだ四ノ原は、シートベルトも締めないうちにアクセルを踏み込んだ。その顔は興奮とも焦りともとれる表情をしており、目は若干血走っている。「緊急事態」とは言っていたが、よほどのことがあったと伺える。


 俺は「どうしたんだよ」と言いながらシートベルトを締める。


「言った通り、緊急事態です。特装隊の出番なんですよ。練馬で銀行強盗だって」


「ただの銀行強盗なら警察に任せとけよ」


「わたしたちだって警察です。それに、〝ただの銀行強盗〟じゃないんですから」


「だったらなんだよ。全員ピエロのマスクでも被ってるのか?」


「なんですかそれ、全然違います。パワードスーツを使ってるんですって。しかも、聞いた話だとかなり高性能らしいです」


 わざわざパワードスーツを、しかも高性能のそれを用意してやることが銀行強盗とは。何ともくだらない奴らだが、それを捕まえに行く俺達もまたくだらない存在であることは間違いない。


 事件の起きた銀行に到着するまでは三十分と掛からなかった。周辺は既に野次馬、マスコミ、警察という三つの勢力でひしめき合っており、祭りの夜のように騒がしい。パトカーのランプで赤く染まる景色は大変賑やかに見える。季節が夏なら、バカに高いビールや冷えたキュウリやしょっぱい枝豆を売り始める輩が出てもおかしくないだろう。


 警官に誘導されながら人混みの中を車で進み、黄色い警戒線を超えたところで、事件現場がようやく視界に入ってきた。銀行の周囲は多くのパトカーで囲まれている。祭りの様相がいよいよもって高まってくる。


「提灯が並んでるみたいだな。神輿でも担ぐか」


「事件現場ですよ。藤堂警部補みたいな冗談止めてください」


「……わかった。止めるから、あいつと一緒にするのだけは止めろ」


 そんな会話をしながら車を降りて諸々の準備をしていると、ワゴン車が横に停まった。見れば、乗っているのは藤堂と野水のふたりだ。咄嗟に四ノ原を見ると、「何しに来たの」と言わんばかりの険しい顔をしている。


「……別に謹慎処分を言い渡されたわけじゃない。俺がここに居たって、何も問題ないだろ」


 車を降りながらぶっきらぼうに言い放った野水は、俺達と同様にクロカブトの準備を始めた。四ノ原はそれに対して突き放すように「あっそ」と答える。互いに感情を爆発させないぶん却って怖い。とんでもなく険悪な雰囲気である。許されるなら一秒でも早くここを離れたい。


 なんだって警察の手伝いを無給でやらされる上に、人間関係に胃を痛めなけりゃならんのかと、自分の不幸を呪っていると、藤堂が「すまんな」とこっそり謝ってきた。こいつが謝るとはなんとも珍しい。今日はきっと良くないことが起きる。


「本当なら、おれだって野水をここに連れてくるつもりじゃなかったんだ。でも、上からの命令でな。逆らえんのよ、公務員だから」


「なんで上があいつを連れてくことを命令するんだよ。問題起こしたばっかりだぞ。連れて行くな、ならわかるけど」


「問題を起こしたからこそ連れて行くんだと。警視正ったら、世間からの風当たりを、一発逆転ホームランで向かい風から追い風に変えたいらしい」


「……出来るのかよ、そんなこと」


「出来る、じゃない。やらせるんだよ、あんたが」


 藤堂は俺の肩に腕を回し、自分の方へぐいと引き寄せた。


「おれは現場まで入れない。あいつが暴走しそうになったら、止めるのは本郷の役目だ」


「……俺ばっかり損な役回りか?」


「そうなるな。いっちょ気張ってくれや」


 そう言って藤堂はニヤリと笑った。いつか地獄に落ちろと俺は思った。


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