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魔術師の森物語(マギズ・フォレスト・ストーリーズ)

レンジャーピンクの受難 ~魔術師の森物語(マギズ・フォレスト・ストーリーズ)~

作者: ひょーじと愉快な仲間たち

「でりゃああああああっ!!」


……その日。

 ヒーローショーのレンジャーピンクは、子供達から拍手喝采を受けた挙句、バイトを首になった。



 話は、役者で軽業師のキュラがまだ劇団のアルバイトで、別の会社のヒーローショーのアルバイトも掛け持ちしていた頃にさかのぼる。



 その日の演目は最悪だった。

 ストーリーは悪くない。子供向けのお約束勧善懲悪物。

 人気も悪くない。5人の仮面のレンジャーが森を守るべく活躍するこの物語は、シリーズとして老若男女を問わず人気がある。

 が。


 ショーの配役がまずかった。


 ピンク色のベストを身につけ、濃いピンクの弓を背負い、整った愛嬌のある顔にちょっと淡いピンクの仮面をつけて。同じくピンクの羽根付き帽子に明るい茶色のポニーテールを押し込みながら、キュラはため息をついた。

 練習の時から何かと自分に冷やかし半分に絡んでくる黒レンジャー役の役者。今まではうまくいなしてきたが、本番を前にしているというのに自分が冷静に全てを済ませられる自信がない。

 最近ますます、彼が自分に対して投げてくる言葉が冗談では済まされない――少なくとも、キュラにとっては――レベルすれすれになってきているのだ。しかも、子供たちの前で言い合いをするシーンで。

 最初は、はねっかえりだのおてんばだの言っていたのに、気づけばちんくしゃだの骨っぽいだのと口が悪くなり始め、リハーサルの時にはセクハラトークまで飛び出す始末。いい加減代役は見つからないのかとお星様に祈ってみたりもしたが、願いもむなしく「予備の代役」しかいないまま、今日の本番を迎えている。

「だーいじょうぶなのかしらねー……あぁ、もうやんなっちゃうーっ」

 ぶつぶつ言いつつ、舞台の袖に向かうキュラは――


――その日が、まさか最後の舞台になろうとは知る由もなかった。



 一度戦いに敗れ、ヒーロー達は作戦会議に入る。そして、問題のシーンに差し掛かった。

「あんたはそうやって、なんでいっつもまぜっかえすのよ!」

 キュラの言葉に、黒い衣装のヒーロー……ブラックが立ち上がり、にやにやしながら口を開く。

「うるせぇ、ちびでぺたんこのまな板のくせに生意気だぞ、お前」

「なん……」

「非力で役にもたたねえジャリ娘は黙って俺達の言う事聞いてればいいん」


 言葉は、途中で途切れた。


 キュラの背後には、既にゴゴゴゴゴ……と効果音付きの炎が上がっている。

 言い忘れていたが、キュラに対して胸の話は禁物なのだ。そのスレンダーな体に似合う、鍛え抜かれた胸筋は……いや、言うまい。


「もう一回……」

 その右手が、舞台の真ん中に据えられた大岩、配役で言えばレッドとブルーが座っている大道具にかかった。


「いってみやがれやあああああ!!」


 ばごん、と岩が持ち上がった。役者二人を乗せたまま。

 右腕一本で。


「う? わ? あああああ!?」

 ブラックはあまりの事に棒立ちになり、レッドとブルーは弾みで岩から転げ落ちる。

「きっさまああ。今日という今日は許さないッ! 天罰じゃああああッ!」

 左手を添え、両腕で岩を高々と持ち上げ、

「そこになおれええええええッ!! でりゃああああああっ!!」

「まっ、待った待ったッ!!」

 今にも振り下ろされそうなその岩の下に、慌てて立ち上がったブルーが魔力を開放する。青白い光が瞬時に編み上げられ、岩と床の間に落下防止の新たな土台を出現させた。

「なな、なあ、二人とも落ち着けよ。ここで仲間同士で言い争っても仕方ないじゃないか……」

 どうにか、台詞が元の舞台の流れに戻る。ここで初めて、キュラは怒りから我に返り……そのまま、ぺたんと座り込んでしまった。


 この時の事を、実はキュラは良く覚えていないのだが。

 子供達はあまりのダイナミックさに大喝采を上げ、大人達は凄い演出だと感心し、万が一のために役者に組み込まれていたブルー役の魔術師はあきれ返り、劇団関係者は真っ青になっていたそうな。

 ブラック役はというと、それこそ燃え尽きた灰の如くまっしろ状態になってしまい、強引に代役を立てて舞台を途中で降板すると、そのまま家に帰って寝込んでしまったらしい。

 キュラはキュラで、急激な疲労感で舞台の続きができなくなってしまい、やはり代役に代わってもらう事になってしまった。


 そして、即日バイトを首になった。

 後日、彼女は更に脚本家から怒られる事になる。


「おかげで、ピンクの設定変わっちゃったじゃないかッ!」


……たまたま、ショーが水晶放送で中継されていたのがまずかったらしい。

 その時は半べそで謝り続けたのだが、さらに後日「ピンクは怒らせると大岩を引き抜くほどの怪力を発揮する事がある」という追加された公式設定が人気に拍車をかけ、代役がその名演技で別の大きな舞台に引き抜かれた事を、ずっと後になってキュラは知った。


「アイディア料よこせー!」


……と、この時の事を思い出す度に叫びつつ。

 キュラは所属する劇団で、今日も元気に舞台に立っている。



 後日、彼女が一種の「魔術師」であることが判明する……が、それはまた別の話。

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