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1冊のノート

俺は図書室の常連客である、ほぼ毎日通っては何かしら借りているため、先生からクラスと名前を覚えられているどころか

「浅井君、今回は赤点とってない? とってたら貸出は控えめにね」

と、成績の心配までされる始末。

とまあ、それくらい図書室が好きな俺は今日も放課後になってすぐ図書室に行った。

「やった」

新刊コーナーに、Re:イチから始める異世界生活という、お目当ての本があった。

現在アニメ放送中の人気作品だ。略してリイチ

さっと俺はカウンターに返却用の本を積んで、リイチに手を伸ばすと―

「あ」

誰かと手が重なった。先輩であれば譲るかもしれないが、後輩なら容赦はしない。俺の方が早く読み終わる自信があるからだ。

顔を上げると…先輩でも後輩でもなかった。クラスメイトだった。

クラスの男子の憧れの的の、小岩縁。

腰より少し短いくらいの黒髪を、ポニーテールにした、無口でクールビューティと言われている、小岩。

そんな彼女と手が重なって、目が合って―

「なななな、なんでよ!」

と叫ばれて逃げられた、俺。

「今の何なんですかね、先生」

司書の先生は苦笑するだけだった。



小岩に逃げられた俺は、とりあえずリイチの2巻までを借りた。新刊は2巻まで1番最初に借りられれば続きを、待たずに借りれられることが多い。

運が良かったと思いながら、鞄を背負って図書室を出ると

「ねぇ」

小岩がいた。

リイチは貸せねぇぞ?

「あのさ…話があるんだけど」

無いのに待ち伏せしてたら、怖いぞ。

続きを待つが、なかなか始まらない。

「お前、リイチ好きなの?」

とりあえず俺から話しかけてみた。

「え、あ、うん…」

「誰推し?」

「エミリィ…じゃなくて!」

エミリィじゃないなら誰だ、やっぱり女の子だし主人公か?

「えっと…あたしがリイチ借りようとしてたの、誰かに言わないで」

「何でもするからって言ってみろ」

「は?」

凄く冷たい目で見られました、すいません調子乗りましたでも男なら夢のシチュエーションなんです。

「つまり、ライトノベルを借りてることを知られたくないと」

俺が聞くと小岩はこくこくと頷いた。

ところで俺は1つ、疑問に思うことがある。

「オタクなのか?」

別に、オタクでなくたってライトノベルが気になることもあるだろう、新刊だから気になったとかな。

けどこいつは誰推しと聞いたらすぐ答えた。

1巻を手に取るということは読んでないということ。けれど、キャラを知っている、加えて現在アニメ放送中。

「お前アニメ見てるだろ」

「そそそそ、そんなことな…」

明らかに動揺していた。クールビューティと言われる普段の彼女はどこへ行ったのやら。

「大丈夫だ、誰にも言わない」

「本当に?」

おう、と俺が答えると、彼女は安心したように息を吐いた。

別にオタクを隠している人だって学年に1人や2人いるだろうし、誰かの秘密をペラペラ話す趣味もない。

彼女の用が口止めなら、もう俺に用は無いはずだ。けれど、立ち去らない。

まあ、いいや。俺は帰ろうと歩き出す。

「ま、待って!」

小岩は俺を呼び止める。まだ何か、あるのだろうか。

「ねぇ…浅井君って国語得意だったよね」

自慢であるが、俺は入学後のテスト以降、国語は学年1位を逃したことがない。まぁ、数学と科学でいつも赤点とってるんですけどね。

「お願いがあるんだけど…」

そう言って、小岩はカバンからノートを取り出した、水玉の表紙の大学ノートだ。

「これ、読んで欲しいの」

まさか俺への愛を綴ったノート…なわけあるまい。めくると細かく、丁寧な字で埋まっている。

…小説のようだった。

「小岩が書いたのか?」

「…悪い?」

いや、別に悪くないと思うが。

「感想とか、アドバイスが欲しいの」

小岩が言うには、前からアドバイザーとして俺に目をつけていたらしい。

国語の成績が1位なこと、図書室の常連客であり、クラスでラノベを読んでいること。

「いいけど…」

対して話もしたことのないクラスメイトに頼みということは、結構本気なんだろうな。

「ありがとう、あっでも誰にも言わないでね」

「わかってるわかってる」

「言ったら大船さんにLINEで浅井君がエッチな本読んでるって送るからね」

勘弁してください!


こうして俺達は交換日記のようなことをするようになった。放課後、図書室で知り合いがいなければ、さっとノートを交換する。

もらったノートに俺はいいと思ったところや、誤字の指摘、直した方がいいと思うところを書いた紙を渡す。

もちろん毎日できるわけでは無く、3日に1回くらいのペースだ。

小岩は家にコピー機があるらしく、コピーしたノートを見ながらパソコンに打ち出しているらしい。

賞に応募したいそうだ。

小岩の書いている小説は異世界コメディだ。勇者と、のんびり屋の火の女神様との冒険記。

結末は知らされていないが、今はダンジョンに入ったところだ。

日常系が好きな俺でも楽しく読めるあたり、結構才能あるんじゃ無いだろうか。

読みながら、紙に書いていく。

なかなか気になるところで終わっている。次の交換が待ち遠しい俺だった。

ぱたん、とノートを閉じてふと思う。

小岩はどうして、俺にこのノートを見せたのか。小岩と俺はほとんど話したことが無い。そりゃまあ、同じクラスなのだから挨拶くらいはしたことがあるし男子どうしの話題にもよく登るしで全くの他人ではない。

けれど彼女にとって俺はこのノートを渡せるほど信用に足る人物なのだろうか?

ヘタをすればオタバレするし笑われるしでリスクがある。

俺がクラスでラノベを読んでいることで同類認定したのかもしれないが


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