3.お母様とお話しします!
そんなことを考えていると、私の部屋の前に誰か人の気配を感じた。
いけない、いけない。
私はさっき倒れたばっかりだった。
決意を新たにした今の私はやる気に満ち溢れていて、ベッドの上に立ち上がっていた。
こんなの見られたら恥ずかしいとかの問題の前に、どこかおかしくなったと思われて病院に送られちゃうよ。
音をたてないようにベッドに戻りふとんをかぶる。
するとすぐに、ドアの開く音が聞こえてきた。
「クラリス、目が覚めた?大丈夫なの?気分はどう?」
部屋に入ってきたのは、私のお母様だった。
彼女は身内びいきがなくてもとても美人でそれでいてなおかわいらしい女性だと思う。
前世を思い出す前まではそれが基準だったし、あまりほかの人に会う機会もなかったのでそんなことは思ってなかったけど。
うん。
相当きれいだね。
さすがゲームの世界、出てくる人はみんな美男美女なんでしょ。
わ、そんなに顔近づけられたらまぶしすぎててれちゃうよ。
「うん。大丈夫。楽しみにしすぎて昨日あんまり眠れなかったから気分が悪くなっちゃったのかも。ごめんなさい。」
お母様の迫力に圧倒されて思わず顔をそらしそうだったけど、なんとか耐えてそう答えた。
前世を思い出したなんて間違ってもいいませんよ。
ほんとに病院に送られちゃう。
ボロを出さないように気を付けないと。
あれ、6歳児の話し方ってこんな感じで良かったんだっけ?
「そんなこと気にしなくていいのよ。あなたが無事だったら。いつもあまり一緒にお出かけできなくてごめんなさいね。」
お母様はなぜか感動して抱きついてきた。
おおう。
やっぱりきれいだなー。
抱きついた感じスタイルも良さそうだし。
私が母親似になるかわからないけど、将来が楽しみになってくる。
それにお父様も相当なイケメンであると思う。
どっちに転んでも、いい結果になりそうだ。
突然変異は起こらないで―。
で、そのお父様はどこにいるんだろう。
私の部屋に入ってきたのはお母様とメイドの2人だけだ。
あ、この家にはメイドさんがいるんだよ。
それもおばさんってわけじゃなくて、前世のメイド喫茶にいるような若くてかわいい子がやってるの。
さすが、二次元の世界。
抜かりないね。
「ねえ、お母様。お父様は?せっかくお出かけに連れてってもらったのに倒れちゃったから、ごめんなさいしたいの。」
お母様にお父様の所在をさりげなく聞こうとしたら、6歳児のしゃべり方に迷走してあざとすぎる感じになってしまった。
中身はこんなんだけど、見た目的にはしっくりくるはず。
そういえば、私の見た目ってどんな感じなんだろう。
身の回りの世話を他の人にやってもらってると、鏡を見る機会ってあんまりないような気がする。
え?
そんなことない?
私が無頓着なだけ?
よし、後でしっかりと鏡を見ておこう。
「お父様はお仕事で呼び出されてしまって家にはいないの。でも、クラリスのことをとっても心配していたのよ。ついさっき仕事に出て行ったばかりなんだけど行きたくないって玄関でごねてたくらいに。」
お母様は少し申し訳なさそうな顔をしてから、話していてだんだんと面白くなってきたのか楽しそうな顔になっていった。
まじか。
私のお父様ってそんなキャラだったの!?
父親は娘にはあまいものだけどそこまでとは。
あ、だから目が覚めたときしばらく私の部屋に人がいなかったのか。
なっとくなっとく。
窓の外を見るにまだ日が高いので私が倒れてからそれほど時間は経っていないのだろう。
かわいそうにお父様。
休日出勤もバリバリな社畜なのね。
そのあとは、私の体調を気遣ってくれたお母様とベッドでお話をした。
そういえば、普段はお母様も忙しいみたいで一緒にいる時間は短いかもしれない。
前世を取り戻したことで湧いてきた不安や戸惑いが和らいだ気がする。
大会を見れなかったのは残念だったけど、楽しい1日を過ごせたと思う。
社畜のお父様を気の毒に思いながら。