アリス、1(不思議の国)
まあ、主人公の名前はなんでもいいんです。
確かに外見は可愛らしい女の子でしたが、少年ではないことをだれにも証明出来ないのですし。
生まれつき色素が薄いのでしょう、金色の髪に碧の眼をしています。
怒るとすぐ赤くなる白い肌。唇も白いので乳母がいつもピンク色のリップバームを塗っていました。
水色のエプロンドレスにペチコート、白黒縞の膝丈靴下にエナメルローファーを履いています。
もちろん頭には赤いカチューシャ。
ねえあなた、お名前は?
「アリス。
でもママはベスと呼ぶしパパはリジーと呼ぶわ。ダニエルとジョーはエリーと言うし、なんだっていいのよ。
だから「今は」アリス。
My name is Alice,now!」
ですって!
ですから、主人公の名前はアリスにしておきます。
今のところは、ね。
さてさてお話はここから。
アリスがうたた寝をしていると、白ウサギが駆けてきました。
白ウサギは白い毛並みに赤いお目め、黒いチョッキに丸めがね、手には懐中時計がひとつ。
「大変だ!遅れちまう!」
そんなことを言いながら二足歩行で走って行く。
アリスはびっくりしてまんまるになった目を、きらきらさせながら大きな声で問い掛けます。
「白ウサギさん!そんなに慌ててどこへ行くの?」
白ウサギは聞き耳持たず、
あんなに長い耳があるというのにね、
忙しそうに駆けて行きます。
アリスはもちろん、白ウサギを追いかけます。
だってアリスはウサギを追うものでしょう?
「物語の主人公みたいね!」
アリスは気付いてないみたいですが、みたい、じゃなくて物語の主人公なんですけど。
とにかく、白ウサギを追いかけたアリスはウサギ穴に飛び込みます。アリスが飛び込んだウサギ穴は、びっくりすることに井戸でした。
井戸!
アリスは頭からまっさかさま、底に向かって落ちて行きます。
「このままじゃ死んじゃうわ!」
真っ暗な井戸の先を見ながら、アリスは心の中で叫びました。
でもね、アリス。
ウサギ穴に落ちたアリスが辿り着く場所はひとつなのよ。
天国?そんなわけありません!
アリスが行く場所といえばひとつ。
落ちて行く感覚にアリスは気を失ってしまいました。
目が覚めたらびっくりするわね。きっと。
アリスは不思議の国の入口に着いたのです。