灰かぶり、2(灰かぶりの日々)
父が死に、継母と継姉たちと暮らす日々は決して豊かなものではなかった。
遺された貯えも底が見え、使用人たちを減らし、ついには誰も雇えなくなった。浪費癖のある継姉たちは、屋敷の家具やら装飾品を密かに売り渡し、新しい衣装を買い入れていたが、すぐにそれも出来なくなった。正規に売れば四人が暮らすには事欠かない金になったはずの物たちは世間知らずの娘によって安く売られ、あれよという間に売れるものがなくなってしまったからである。
継母は灰かぶりを女中として扱い、屋敷の維持から食事の支度までをすべて仕込んだ。これで生活は出来るが元手はかかる。そんな折に飛び込んできたのが国の王子の花嫁を選ぶ舞踏会の知らせだった。
娘たち、と継母は言った。
どちらかが王子の妃にならなければ、と母の命に世間知らずの娘たちは喜んで従った。王子の妃になれば豪奢な暮らしが出来るに違いない、娘たちは思った。
灰かぶりは知っていた。
王子は女に興味がなく、側近である公爵と良い仲であること。それをおもんばかった国王が開く舞踏会であること。それらを買い出しにでた町で聞き及んでいた。妃など傀儡にすぎない飾りだ、と。
継母は知っていた。
国王が開く舞踏会で選ばれる妃が後継ぎを産むための娘であること。それらは宮中に詳しい亡き夫の知人から噂を耳にしていた。しかし王子との間に子を成すことが出来なければ、国王と睦むことになる、と。
何も知らぬ継姉たちは広間の古い大時計を売り渡した金で身支度を始めた。
灰かぶりは黙ってそれを見ていた。
継母はにこやかにそれを見ていた。