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幻 想 童 話  作者: 保地葉
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アリス、6(女王陛下と裁判)

期待を裏切らず女王陛下方のご登場です。


女王陛下、方?


四つ角からお一方ずつ、先導する兵士と侍女を従えて女王陛下が見えました。

薔薇の花束を抱えた侍女が付き従っているのは豊満な体をコルセットで明らかに絞り、やわらかな笑みを浮かべた女王陛下。赤のたっぷりとしたドレスは胸元を惜しげもなく見せています。なんて見事な赤の巻き毛なんでしょう!


一方、黒髪のゆるやかなウェーブヘアの女王陛下は首の詰まった露出の少ないドレス姿、濃い緑の布地に花飾りをつけています。従う侍女は大きな水瓶を二人がかりで抱えて大変そう。


他方、金髪を結い上げた女王陛下は沢山の宝石を散りばめた薄いレモン色のご衣装で、頭飾りも首飾りもすべてが輝き目が痛いほどです。侍女が宝石箱のような小箱を掲げています。


そしてあの女王陛下の色の白いこと!濃紺のドレスはスレンダーな体にぴったり合っています。髪は結い上げているのかしっかりと布地で縛り、剣を左手に持っています。従う侍女も戦装です。


「あなたが、エルシー?」


赤の女王陛下がカウチに座りながら問いかけました。


「さなぎにはベスと名乗ったそうですね」


緑の女王陛下がその隣。


「気狂いお茶会ではエルシーと名乗ったのでしょう」


金の女王陛下がカウチの反対側の端に座ります。


「さて、お前の名は一体何だろうねえ」


青の女王陛下がアリスの隣に座りました。


(まるでハーレム!)


アリスは口には出さず感激しました。女王陛下を四人も侍らせるなんて、なかなか出来ませんから。


「My name…」


そこでアリスは口ごもります。果たして、今アリスはアリスかしら?


エルシーではないみたい。だってミルクティーに染まった服は女王陛下の前だからって取り替えさせられたもの。

ベスではないわ。小さくないもの。


ではアリス?でもアリスは両手に女性を侍らせるかしら。

アリスが中央に座っていてまるで女王陛下のよう。


(女王陛下、…そうよ、)


「I'm Elizabeth!」


アリス、いえエリザベスはそう叫びました。

すると、



…はちきれんばかりの絶叫!



広場が揺れそうです。四人の女王陛下も青ざめ、カウチから転げ落ちそうです。


青の女王陛下が叫びました。


「白ウサギをここへ!」


そして剣を引き抜くとエリザベスの喉元に突きつけたんです。


「法廷を開くっ」


まあエリザベスはどうなっちゃうの?


エリザベスは思わず言っちゃいました。


「法廷って入ったことはないけど、…これは絶対に違うでしょう!」


座っているというよりも既に首も固定され、押し付けられている状態。エリザベスからは見えませんが頭上では刃物がぎらり、ってエリザベスがいるのは斬首刑台、ギロチン台です。


「刑の執行が先、判決が後、ですわ」


赤の女王陛下の声がしました。


「斬首がお嫌なら茨の冠を被っての鞭打ち刑が宜しくて?」


「…そんな痛そうなのは遠慮します!」


「ならば水瓶に顔を沈めましょうか」


緑の女王陛下が言いました。


「…そんな苦しいのは無理よ!」


「だったら、毒をあおる?」


金の女王陛下が言いました。


「そんな恐ろしいことできないわ!」


「だったら斬首しかなかろう。心配せずともあっという間に終わる。おまえが判決を聞くまでもなくねえ、」


青の女王陛下が言いました。


「…ですから、何故首をはねられなければならないのですか!?」


「それは刑の執行の後、白ウサギが主文で告げる。審議はその後だ」


「それじゃ理由すらわかりませんわ!」


言うとおりだわエリザベス。


「理由などわからなくてよいのだよ。ここは不思議の国だから」


あ、と思ったときには青の女王陛下がギロチン台のロープを切り離し、刃は重力に従って真下へ落ちました。


すとん。

ごろごろ。


エリザベスの首はころころと転がって、一緒に切られた金髪をばらまきながら辺りを真っ赤に染めました。

ひょい、と拾い上げたのは白ウサギです。やっと会えたわね、エリザベス!

首の付け根からぼたぼた血が流れるものですから、白ウサギは着ているチョッキごと転々と赤くなっています。

さあ白ウサギ、エリザベスが首をはねられた理由を教えてくれません?


「メアリー・アン、こんなところにいたのか」


白ウサギはそう言ってエリザベスの首をチョッキのポケットにしまおうとしましたが、大きくて入るわけがありません。そしてそれはエリザベスよ、メアリー・アンじゃないわ。


「閉廷、閉廷!被告人の刑は執行された!判決は斬首、告訴理由は逃亡罪、被告人はメアリー・アン!」


白ウサギがそう叫ぶと喇叭が鳴り傍聴人と陪審員が退廷しました。四人の女王陛下と白ウサギだけが残ります。


「メアリー・アンは決まり通りクローケーの玉に!」


エリザベスの首はメアリー・アン、メアリー・アンはクローケーの玉になると決まっていたみたい。

決まりならしょうがないわね。

白ウサギの言葉に女王陛下はクローケーは久しぶりだ、と喜びます。


「ではすぐに準備をいたしますので」


と白ウサギがメアリー・アンを連れて去り、女王陛下も始末を兵士たちに任せてクローケーの用意に城に戻ります。

法廷にはだれもいなくなりました。残ったのはメアリー・アンの首を持っていかれたエリザベスの体だけ。


物語はどうなるのかですって?


主人公がいなくなった物語はそこでおしまい、それが決まりでしょう。

主人公の名前はなんでもいいですけど、主人公は生きていなくちゃ、白ウサギを追いかけられないでしょう?






ではこの物語はこれでおしまい。


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