二人の休日 -2-
翌朝、もう大分陽が高く登ってからハドリーは目覚めた。大きく伸びをして傍らを見ると、もうニナは起きて居なかった。夕べのニナの感触を思い出してちょっと照れたように頭を掻くと、ベッドから起き上がって寝巻きのまま欠伸をしながらハドリーはキッチンへ向った。
「おはよう、ハドリー。オフだからって寝すぎよ」
キッチンで片付け物をしていたニナは苦笑しながら振り返り、ハドリーの為にお茶の用意を始めた。
「ああ。今日がオフだから、夕べちょっと張り切りすぎたからな」
と、ニナを抱きかかえると静かにおはようのキスをしてハドリーは悪戯そうに笑った。その言葉に頬を赤く染めたニナがハドリーを睨むように見上げて、
「本当に最近のハドリーは食いしん坊だわ。いくら安定期だからって……」
と、拗ねるように呟くと、
「仕方ない。俺は腹ペコなんだ。何年も待ってたからな」
ハドリーは抱きかかえたニナを離そうとせず、また唇を奪うと強く抱き締めた。
軽いブランチを取った後、食後のエールの瓶を手にハドリーは機嫌よさそうにソファに腰を掛けた。
「ねぇ、ハドリー。今日はどうするの?」
「そうだなぁ。久しぶりに買い物にでも出掛けるか」
キッチンを片付けながらニナが訊ねると、上を見上げながらハドリーはボソッと呟いた。
「確かメールが来てたんだよな。新しいPCが……」
と、ハドリーがそわそわしたように言い掛けると、片付けを終えてハドリーの隣に座ったニナが、眉を顰めてハドリーを睨みあげた。
「ハドリー! 貴方PC屋さんを開くつもりなの? もう家に何台あると思ってるの! 五台よ! 五台! 二人しか居ないのに五台もあるのよ! これじゃジェミーの事を笑えないわ。ハドリーもオタクだわ、全くもう……」
「分かったよ。次は今のが壊れたらにするから、勘弁してくれ」
ぶつぶつとニナが文句を言うと、ハドリーはバツが悪そうに頭を掻いて残念そうに眉を顰めた。
「じゃあ、特に買うものもないのね」
と、ニナが覗き込むように訊ねると、ハドリーはその胸元で揺れているペンダントに気がついた。
「そうだ。お前に新しいジュエリーを買ってやる」
思いついたように目を輝かせるハドリーに、ニナは胸元のペンダントに手をやって、静かに首を振って嬉しそうに頬を染めて呟いた。
「要らないわ。これがあるもの」
「お前なぁ。いつもそのペンダントばかりじゃないか。他にも色々買ったし、賞とかで貰ったやつも付けないし。もっといいのがあるだろうに」
ハドリーが呆れると、ニナは困ったような顔でハドリーを見上げた。
「だって……初めてハドリーに貰ったんですもの。あの時凄く嬉しかったのよ。だから大切にしたいの」
鳶色の瞳を潤ませてハドリーを見上げているニナをじっと見たハドリーは、黙ったままニナを愛おしそうに抱きすくめて、「ニナ。愛してるぞ」と呟くと、ニナの顎に手を掛けてその小さな唇をそっと塞いだ。
暫くそのまま互いに唇を重ねていたが、ハドリーは我慢出来なくなったようで、おもむろにニナをソファに押し倒した。
「え? ハドリー、ダメよ」
と、赤くなったニナが焦ってハドリーから体を離そうとしたが、ハドリーはニナの白い首筋に唇を這わせてから、顔色も変えずに耳元で囁いた。
「大丈夫だ。誰も来ない」
ニナの胸は、以前は片手に収まるほどの大きさだったが、今は片手から溢れて零れるほどに大きくなっていた。少し膨らみが目立ち始めたお腹を圧迫しないように体を浮かせて、そのニナの胸を優しく触っていた手をスモックやカットソーの下から差し入れて、ハドリーが直接愛撫を始めるとニナも顔を赤らめたが、眉を顰めてハドリーを押しやろうとして呟いた。
「嫌よ、ハドリー。此処じゃ嫌」
「なら、ベッドならOKって事だな」
ハドリーは平然としたまま切り返すと、「え? いえ、そうじゃなくて……」と、じたばたとしているニナを抱き上げて悠然と歩き出し、足で乱暴に居間のドアを開けた。