-92:俺は、4-
ファグランディの表情を見るとリアレスはイラつく。何を考えているのか分からず、人のことを心の中で見下しているような気がするからだ。
息子であるトラップもその感じがあるが、目の前にいる男ほどではなかった。
「で、いったい何用だ」
「……俺を拾ってくれたことは感謝している」
「急に素直だね。今日は槍でも降るのかな?」
ファグランディはくすくすと笑う。
リアレスは黙ったままでファグランディを見つめるだけだ。その表情から何か感じ取ったのかファグランディは神妙な顔つきになる。
「だが、俺たちを使ってやってきたことは、別だ」
その場がしんと静まり返る。まるで、厳重な防音の部屋にでも居るかのような静けさだ。
「調べたな」
飄々としていたファグランディの様子は打って変わって、刺々しいものになる。
リヒトは気圧されそうになるが、ここで退いては意味がないと自信を奮い立たせた。
「……ああ、調べた。お前は“デイル”として動いていた時期があった。そして、何年か前にファスタシアにそれを委ねたんだろ? 〈アルセア〉の資金源としてとかなんとか言って、な」
相手の表情をうかがうが、何一つ変わらず、リアレスの言葉の先を促しているかのようで、心地が悪い。
「そして、道化師を使って自分がデイルとして動いていた人間を消していった」
ここでファグランディは鼻で笑う。
次にファグランディが向けた表情で、リアレスはそれが全てだったことを知る。
「じゃあ、聞こう。どうして私はそんなことする必要がある? 私は王族分家だ。そんなことしなくても別に良い。私には実験等という趣味はない。金などそれほど必要ないのだよ」
「……キューズ家を落とす為、とかな」
「なに?」
リアレスは息を吐く。呼吸を整えて話した。
「同じ王族分家、そして、〈アルセア〉が許せなかった。キューズ家を消すにはどうしたらいいか。考えた末、違法な手段で金を稼ぎ、ファスタシアに協力すると、その汚い金を渡した。そうすることで金の出所が発覚したとき、キューズ家を罪に問われるようにしたんじゃないのか」
「ファスタシアはそんな怪しい金に手を出すほど馬鹿ではない」
「ああ、普段ならな。……でも、あいつは〈神仕え〉の力に魅了されてしまった。そこに付け込んだんだろ」
リアレスの中でファスタシアは狂った人間になっていた。麻薬のように〈神仕え〉に捕らわれ、魅了され、ふつうの感覚で物事を判断できなくなってしまった、哀れな人間。
幼い頃会ったときも、先ほど始末してきたときもファスタシアは狂っていたとリアレスは思う。そんな人間に実験を進める為に必要な金が沢山手に入ると囁けば、飛びつくに決まっていた。
「なるほど。……頭が回るのも考え物だな。頭が回らなすぎるのも上に居るものとして使いづらいが」
「俺たちを良い尻拭いに使いやがって」
「……ほう? お前が怒っているのはそっちなのか」
ファグランディの言葉にリアレスは紅い目を鋭くする。
「つまり、私はキューズ家を落とすため、一度は〈アルセア〉に協力した」
「……だから、お前を許すわけには行かない。あの実験はあってはいけなかった」
「そうだな。私がキューズ家を落とす為に、デイルになって金を稼ぎ、協力しなければ、あの実験は途絶えていたはずだったんだ。13年前には既に、ね」
ニヤリと笑う。それはまるで悪魔の笑みだ。
リアレスはその言葉の意味をとらえていく。そのままの意味ではあるが、考えれば考えるほど残酷になっていった。
「お前、分かってて、次にファスタシアが手を出すのがトラン家、リトラスだと分かってて、それを、したのか……?」
「そうだ。協力の提案をして、そして、ルーセの事を知るファスタシアならそっちに目がいく。ルーナ・K・クリスタスよりも、ね」
リアレスは気が付けばファグランディの胸ぐらを掴んでいた。
「ふざけんな! 知ってて、そんな事したのか!」
「あれはあってはならない実験だ。王女のあの力を向こうに渡すわけには行かなかった。トラン家のリトラスと王族のルーナ様、どちらをどうするかなど分かり切っているだろ?」
確かにそうだった。リアレスはその言葉に頷ける。
一国の王女で力の強いルーナがファスタシアの手に落ちれば、国が堕ちる可能性も出てくる。
だが、だからといって割り切れるほどリアレスは物わかりがいいわけではない。
「……俺を拾ったのはせめてもの罪滅ぼしか」
「……」
ファグランディはリアレスから視線を逸らし、その言葉に応えなかった。
「……まあ、何にせよ私の思うとおりに事は運んだ。お前がまさかルーナ様の護衛をするとは思わなかったがな」
「……それはあいつが」
「断っても良かったのだぞ? それなのに一緒に旅をする必要はなかった」
リアレスは掴んでいた胸ぐらを乱暴に突き放した。
「お前も、私も、どこか似ている」
その言葉にリアレスは拳を握りしめた。
「お前と一緒にすんな」
リアレスは手に握った短剣を構えるとファグランディに向かっていった。
「……まあ、誤算は我が息子の裏切りだけだな」
ファグランディは静かに笑い、哀れな青年を正面から見つめた。




