-91:俺は、3-
──あなたどんな思いで私と一緒にいたの?!
その言葉が何故だかリアレスの心にまだ残る。
煙の中飛び出し、別のルートからキューズ家を逃げ出したリアレスはリトラスを抱えて、ある場所に向かう。
抱えたリトラスに温もりはなく、ただ冷たかった。
閉じられたままの瞼に目を向けてみるが、開かれる事なく、紅い目を見る事ができなかった。
とぼとぼと歩き、たどり着いたのは廃墟が並ぶ、名もない村。
「せめて、一緒にいてくれ」
墓地の一角にある木の根本にリトラスを横たえさせ、羽織っていた上着を掛ける。
リアレスはナイフを取り出し、ぎゅっと握りしめた。
「念の為。痛いけど、ごめんな……。これで楽になる」
リアレスはナイフをリトラスの胸に突き立てた。
呻き声も何もなく、胸からは赤い血が流れていくだけ。その様子をリアレスは見つめる。
「死人のようになったのに、血はこんなに溢れるなんてな……。本当、人でなしだな」
リアレスは近くに咲いていた、名も分からぬ花を摘み、リトラスの膝にのせる。
そして、一瞥したあと、背を向けて次の目的の為に動いた。
廃れたバグライドを歩いていると、思い出したくないことまで、リアレスは思い出す。
楽しい思い出は確かにリアレスの中にもあるのだが、思い浮かぶのは何故か悲しい思い出ばかりだ。
あんなに好きだったバグライドという居場所はいつの間にか嫌いな場所になっていた。
全てを壊したのはファスタシア・K・キューズという人間。力を持った人間たちだった。
リアレスはそれを知ってしまったが為に、非合法と言われても、狡い方法でしか罪を償わせることが出来ない。
「……父さんには顔向けできないな」
思っていたことが口から漏れた。
自分の思ってもみない行動に少し驚いたが、そのあと可笑しくなって笑う。
どうやらまだ、善悪を考える心があるらしいとリアレスは気が付いた。
また、笑う。
日が落ちていき、光が消え、闇に包まれていく中、笑い声も一緒に吸い込まれて消えていく。
リアレスはある家の重たい扉を開けた。
*****
「息子かと思えば、お前か。なんだ、一戦交えて来たのか? 頬に傷がついているぞ」
「ああ、まあな」
その男はリアレスの頬の傷をちらりと見て、心配している表情を着けてそう言った。
「それで、お前がここに来たのはどんな理由かな? 私はセルトラリアから来て疲れているんだ。……もしかして、私の肩でも揉みに来てくれたのかな?」
リアレスは心底めんどくさそうな表情になる。
「は? 誰がそんな事するためにわざわざ来るんだよ」
「お前の世話をしていたのは私じゃないか。日ごろの感謝を込めて『いつもありがとう、パパ』とか言うサービスは当然付いてくるものだと思うがね?」
リアレスは自分がそうやって肩を揉んでいるところを想像してみるが、吐き気しかしなかった。感謝はしているが、できない相談である。
「気持ち悪いな」
「全く、いつまで反抗期をしているつもりだ。やだねぇ」
男が呆れたように言う。
からかいのような口調ともとれ、リアレスは眉間にしわを寄せる。
「お前のそう言うところが気に食わないんだよ、ファグランディ」
「パパと呼んで欲しいといつも言っているじゃないか。なあ?」
男、ファグランディ・K・トイズは裏の読めない笑顔をリアレスに向けていた。




