-87:私は、3-
アルセアで動く、道化師。
彼らは表で裁けぬ者たちを裁いてきた。
「ジルファ、お前は直ぐに動ける騎士を連れてキューズ家へ行け。後から追う」
「了解です、団長殿」
ジルファは足早に部屋を出ていく。
「アズウェルさん、リアレスがファスタシア殿を裁くって……?」
「キューズ家のファスタシア殿が〈アルセア〉に関わっていて、ルーセさんのことを知っていれば、自然と目が向くのはトラン家です。そこに子供が産まれたとなれば、勿論目を付けます。トラン家にはリアレスの双子の兄もいました。彼は早々に〈神仕え〉の力に目覚める。ファスタシア殿は欲しいと願うでしょう? だから、トラン家を焼いたのですよ、あの方は」
アズウェルは口早に説明する。
「アズウェル殿、確証はあるのか? そなたも先程トラン家は賊にやられたと言っていたではないか。それにトラン家の件は調べた上で強盗事件だと片が付いたはずだ」
「王族分家のキューズ家とあれば、いくらでも圧力はかけられますし、賊を使うのも容易いでしょう。証拠の物はありませんが、事の一部始終を見たリアレスの話です。私も初めは信じられませんでしたが、ルーセさんがクリスタス王家の血を引いているという真実を知った今、信じないわけにはいきません」
王はアズウェルの言葉に反論することが出来なかった。
「ファスタシア・K・キューズ殿を調べる必要があります。ですから、今、道化師に殺らせるわけには行きません」
「……リアレス・トランから聞いたという話、後ほどじっくり聞かせてもらう。一番は本人から聞けると良いのだが……。うむ、早急にキューズ家へ」
「御意」
騎士2人が去っていく背中をルーナは呆然と見つめた。
「ルーナ、お前はここにいなさい。リヒト皇子、頼みましたよ」
王もそう言って部屋から去っていった。
何が何だか分からないうちに、部屋は静けさを取り戻している。
残されたルーナとリヒトの2人はしばらく何も話せないでいた。
「……リアレス、って言うんだね」
先に口を開いたのはルーナで、ほとんど独り言のようなものだったが、リヒトは隣で頷く。
「初めていろいろ知ったよ。まさか、王家血を引いていたなんて……。ルーナの結婚の話も驚いたけど、それ以上だよ」
結婚云々の話をしたときもだいぶ精神的に疲れたルーナだが、今の方が本当に精神的にきた。
事の大きさと、リアレスの抱えるものに頭が爆発しそうだった。
「……ルーナ。結婚良いの? 君はリアレスのこと──」
「私は、リヒトが良い。……“リース”はもういないもの」
嘘偽りで固めたその名をルーナは過ぎた思い出を話すように呼んだ。
リヒトはちくりと胸が痛んだが、何を聞いても言っても痛みは広がるだけだと思い、口をつぐむ。
ルーナは明らかにリアレスを慕っていた。フレバを出る際に、それをリヒトは強く感じたのだ。旅をしてきた長さ、つまり、過ごしてきた時間が違う。
それだけの時間を過ごしてきて、何も思わない方がおかしいとリヒトは考えた。
その思いは信頼であったり、恋情であったりするだろう。ルーナの場合はどうかと考えると、リヒトはどうしても後者であると考えてしまう。
「……リースの代わりってこと?」
意地悪な質問だとリヒトは自分でも思う。
「違う! リヒトは私の側にいた。ショックだったあの時もお父様に会うときも。だから、私は……!」
リヒトと向き合い、ルーナは泣きそうな表情で訴えた。
その表情を見てリヒトは申し訳なくなる。
「ごめん。嫌な聞き方をしたね。……ただ、ルーナには無理をして欲しくなかった。国王様に言った俺の気持ちに嘘はない。だから、もし、無理をしているなら、と思って」
ルーナは首を横に振り、俯く。
ルーナ自身、どこか特別な感情をリアレスに抱いていたのは気が付いていたことだった。しかし、それがどんなものなのか名前が付く前に、崩れていった。
その後隣を歩いたのも、背中を押したのもリヒト。ルーナは感謝し、そして、リヒトに対し、温かな感情を抱いたのだ。
「そんなこと言わないで」
「……分かった」
リヒトは優しく、ルーナを腕の中に包む。
「……ねえ、リヒト」
「ん?」
「でも、私、“リース”にもう一度会いたい」
ルーナは静かに、だが、強くそう言った。
「……実は、同じこと言おうと思ってた」
リヒトの腕から解かれ、ルーナはニヤリと笑う。
「よし。行こう。まだ、“リース”に聞きたいことがあるの」
ルーナは立ち上がってズカズカと扉に向かって行く。
「……国王様に怒られそう」
何となく後悔してしまいそうになったリヒトは急いでルーナの後を追った。




