-85:私は、1-
-此処までのあらすじ-
リスターという田舎に住んでいたルーナは突如、両親を殺されることになる。犯人は悪を裁くという道化師。しかしルーナには両親が悪事を働いていたとは思えない。真実を知るため、1人道化師を追うと決意し、家を飛び出した。
道中で出会ったリースという青年と共に旅を始め、鉱山の町アスラエル、中心都市セルトラリア、強者の町パワグスタ、花の町フレバと旅を進める。
途中ウロストセリアの第二皇子であるリヒトも旅に加わる。聖都クリスタスまで目指していたが、リースがルーナの両親を殺した道化師である事が判明し、姿を消す。
それぞれで聖都クリスタスへ到着し、リースはアズウェル、ルーナとリヒトは王と対面。過去が明らかになる。
ー登場人物ー
ルーナ・K・クリスタス
アルセア国の第一王女。
リアレス・トラン
狂愛の道化師。騎士の名家トラン家唯一の生き残り。
リヒト・ウロスタリア
隣国ウロストセリア帝国の第二皇子。記念式典の一件からルーナたちと行動する。
アズウェル・T・スラクス
アルセア国第107代騎士団長。最年少騎士団長で、リアレスの父ジェルドの弟子。
などなど、、、
王はふうと息を吐いた。
「私にはそんな強い力が……」
ルーナは信じられないように呟くが、リヒトはその力を間近で見ていた為、確信に変わっていた。
隠さなければ守れなかった、そこまでしなければ行けなかった〈アルセア〉という恐ろしいものの存在。
ここまで知らぬうちにいろいろなものを犠牲にしていたのだとルーナは知った。もう、何も知らないとは言えなくなったのだ。
「……私、考えていたことがあるんです」
膝においていた手を握り締めて、俯き、話そうとしないルーナ。
王はその顔を優しい顔で見つめた。
「言ってごらん?」
その言葉に意を決したのか、ルーナはガバッと顔を上げた。
頬が赤くなっていることにリヒトは気が付き、何事かと目を見張る。
「私、リヒト皇子と結婚します!」
コンコン
「陛下、お話中のところ失礼いたします。王女様の護衛の為参りました。つきましては──」
間が悪いのか良いのか、リヒトと王が固まる中、入ってきたのはアズウェルとジルファであった。
空気が固まっている事に気が付いたジルファはしまったという表情になる。
「タイミングが悪いようですね」
「あ、ああ」
2人が出て行こうとすると王は騎士2人に顔を向ける。
「アズウェル殿、ジルファ殿、両名留まりなさい」
「はっ!」
扉の前で2人は姿勢を正し、まっすぐ伸びた棒のように立った。
王はもう一度大きく息を吐き、口を開く。
「ルーナ、真か」
「……は、はい!」
真っ赤になりながらも、はっきりと言うルーナにリヒトも訳が分からず、戸惑う。王とルーナを交互に見やるが、今発言すべきではない気がリヒトにはしていた。
「分かっているのか? 〈神仕え〉は王家象徴みたいなものでもある。神話になぞらえ、その神聖さや力の畏敬があるからこそなのだ。だから、伴侶は遠い昔血を分けた分家のキューズとトイズから選ぶ。それを崩そうと言うのか」
王は眉間にしわを寄せ、ルーナがなぜこのようなことを言い出したのか疑問に思う。
今の話を聞いてさらにその考えを強くしたという事は何かしらルーナにも考えがあるのかと。何も考えず、リヒトをただ好いているだけであれば、王は当然猛反対する予定でいる。
「……私は争いの原因はこの力に因るものだと思いました。この力さえなければ、〈アルセア〉もない。だから、もう、いつまでも神話に縋るだけでなく、力でなく、私たち王家を認めてもらいたいのです」
「……それは」
「それに、今、ウロストセリアとは微妙な関係にあります。だったら、結婚相手をリヒト皇子に選び、さらなる和平への道を歩みたいと考えます」
アズウェルとジルファはどうやら話しているのが王女であり、しかも、今結婚相手云々という重要な話になっているのだとようやく理解する。
自分たちのタイミングの悪さに2人は心の中で溜め息を吐きながら、王の反応をうかがう。
「……そこまで考えていたか。うむ」
王は視線をリヒトへと移す。
「リヒト皇子はどう考える」
「私は和平の為ということであれば異論はありません」
「……ルーナという1人の女性としてはどう見るか」
王の視線が一層強くなる。
リヒトは隣にいるルーナからの視線も感じ、言葉を容易に発せないでいた。頭の中で言葉を整理し、王の視線を受け止める。
「和平の為、と言いましたが、都合のいい建て前です。私はルーナが好きですから」
部屋が静寂に包まれ、王は背もたれに体重をかけた。
リヒトの真っ直ぐな目に何も言えないでいる。一方、ルーナはその言葉にどぎまぎし、頬を赤らめていた。
最初に結婚する、つまり、プロポーズした事の方がよっぽどではないかと隣のリヒトは笑いそうになる。
「分かった。私が認める。何人も文句は言わせない」
「あ、ありがとうございます。……お父様」
「可愛い娘の頼みだ、聞かないわけにはいかぬ。……私はしかと聞いたからな、リヒト・ウロスタリア第二皇子」
ルーナに向ける笑顔とリヒトに向ける笑顔にはどこか差がある。リヒトは背筋が反射的に伸び、王に深く礼をした。
「2人とも悪かったな。こちらに来なさい」
王は扉の前で棒立ちになっていた2人の騎士を手招きする。
騎士の2人は軽く礼をし、スタスタと王の側に歩いていった。
「護衛を任せたいのはここにいる、ルーナ・K・クリスタスである。大々的にはまだ発表できぬ故当分はお前たちに任せたい」
2人の騎士はルーナの前に並び、両者と視線が合う。
「えっ」
アズウェルは声が漏れた。
王女の目の前で、このような間抜けな声を出すなど、失礼極まりないのだが、どうしても出てしまう。
「あ、あなたは和平条約締結5周年記念式典にリアレスと一緒にいた……」
アズウェルのことを騎士団長とルーナは知っていた為、特に驚きはしなかったが、聞き慣れない名前を耳にして首を傾げる。
「王女として会うのは初めてですね。……ところで、今“リアレス”とは?」
「申し遅れました。アルセア国第107代騎士団長アズウェル・T・スラクスと申します。……あの時ルーナ様が“リース”と呼んでいた者のことです」
「アズウェル殿はリースをご存じなんですか?!」
明かされたことに驚き、リヒトは横から会話に入るのを抑えられなかった。
2人を置いて消えてしまったリース。ルーナの育ての親を殺し、道化師として活動していた顔を持った男。
この場でその名前が出るとは思わず、2人はアズウェルに食ってかかりそうな目を向けた。
「話しますのでお2人とも落ち着いてください。あなた方が言うリースは、リアレス・トランという男です」
──だけどね、結局、このトラン家も騎士団長さんが14の時に一家全員が殺される事になる。
──トラン家には当時7歳の子供もいたんだけどね、酷い話だよ。
ルーナの頭の中に思い出されたのは、和平条約締結5周年記念式典間近のあの日。ダグライ・ルクスヘルデから聞いた話だった。




