-84:オウカコ15-
アズウェルの前に広がるのは闇を照らす、赤色の炎だった。
走ってきて、やっとの思いで村に着いた頃には火の手は既にあがっていた。
村の人々はバケツを手にアズウェルの横を通り過ぎていく。
トランの家であって欲しくない、そう願ってみるが、近づいて行けば行くほど叶わないのだという実感が湧く。
駆け出して今すぐ確かめに行きたいと思う気持ちと、知りたくないと引き返してしまいたい気持ちが入り混じり、アズウェルはとぼとぼと歩きながら道を進んだ。
「……バカな奴らだな」
火を消そうとする村の騒ぎの中、トランの家から離れる方向に歩く男とすれ違う。
アズウェルは言葉を聞き逃さなかった。
「おい」
すれ違った男の胸ぐらを掴み、ぐいと引き寄せる。
14歳で成長期が来たと言えどもまだ子供のアズウェルと男の身長差はかなりある。アズウェルが凄んだところで男たちには痛くも痒くもない。男は冷ややかな目を向けていた。
「なんだ? 喧嘩相手を間違ってるぞ、ガキ」
胸ぐらを掴まれた男はケラケラと笑う。
周りにいた男数人もつられて笑った。
不快に思い、その男たちをアズウェルは睨むと、見覚えのある品が目に留まる。
男たちが手に持っていた一本の剣に釘付けになった。
「その剣」
「これか? 拾いもんだぜ。良い品だよなぁ。高く売れそうだ」
ニタァと笑うその笑顔に、拳が自然と動いた。
「汚ねぇ手で、それを触ってんじゃねぇ!!」
アズウェルは知っている。
見慣れた剣、目指していた剣。それが今、目指していた人物の手ではないところにある。それが許せないのだ。
殴られた男は予想以上の力の強さに尻餅をつく。
周りにいた男たちはアズウェルを睨み拳をふるった。
「お前等が持っているのは、この国の騎士の長が持つべき物だ。お前らには重すぎる」
アズウェルは腰から剣を抜き、殴りかかってきた男たちを容赦なく切り捨てていった。
いつも以上に頭の中は冷静で、肉を切り裂く音しかアズウェルの耳には届いてこない。気がついたときには呻く男たちの真ん中で、血の滴る剣を握っていた。
火事と騒ぎで駆けつけた騎士団に声をかけられるまで呆然と立ち尽くしていたのだ。
「……アズウェル?」
「……」
「……アズウェルっ」
「ん? 何ですか」
「何ですか、じゃない。これは一体……。それにトランの家が燃えているじゃないか。何が起こったんだ。知っているのか?」
先輩の騎士に言われるが、アズウェルには何も分からない。
血の付いた剣を払い、鞘に収めながら首を横に振った。
「じゃあ、こいつらは」
「アルセア国騎士団長の剣を持っていました。だから、やりました」
「……そうか」
淡々と答えたアズウェルに騎士は眉をひそめる。
倒れていた男たちは意識のある者が少なく、辛うじて1人口を利けるくらいの傷だった。他は意識もなく、息をしてはいない。屍と化していた。
騎士団に所属しているとはいえ、14歳の少年が1人でしたことではないと騎士は惨状を見て思う。
「……とりあえず、お前にもあとでゆっくり話を聞く。軽傷な者の取り調べと合わせて今回の件の調べを進める」
アズウェルはコクリと頷く。
「……それと」
騎士はハンカチを差し出した。
アズウェルは反射的に受け取ったが、首を傾げる。
「拭いたらどうだ……?」
騎士が頬を指す。
アズウェルが自身の手で頬を触ってみると、確かに手が濡れた。
トラン家強盗事件としてこの一件は片づけられた。
賊による強盗、放火。焼け跡からは誰とも分からない骨がいくつか見つけられた。それらは行方不明となっていたトラン家一家のものとされる事となる。
スラクスの件に続き、騎士の名家、その中でも騎士団長が賊に屈したことは国民に衝撃を与えた。次期騎士団長には強靱さが求められ、アルセア・帝国戦争の英雄であるメリケン・マルドゥックが再び騎士団長の座に着いた。
バグライドはトラン、スラクス両家の喪失と共に、聖都クリスタスへ併合。村は名を無くし、住む人々も居なくなり、明るさと楽しさを無くした。あるのはトラン、スラクス両家の墓と廃墟だけ。
また、この一件で犯人を捕まえたアズウェルは14歳にして異例の昇格をし、下二位から下一位となる。
その後両家の名を継ぎ、アズウェル・T・スラクスとなった。




