-82:オウカコ13-
日が傾き始め、もうすぐ夜がやってくる。
アズウェルは急いで買い物を終え、重い荷物を持ちながら、今度は幼い少年を探した。
待ち合わせ場所に向かってみたのだが、近くなってきてもリアレスの姿が見あたらず、アズウェルは歩調が早くなる。
「あれ」
ぐるっと一周見回してみても見知った少年はどこにもいなかった。
ざわざわと買い物時の騒がしい街の声に溺れた、アズウェルの呟きに、振り返る人もいなければ声をかける者もいない。
「おい、まさか迷子か」
あまり重たい買い物を任せたわけでもなく、買う量もリアレスは少なくした。アズウェルは自分が遅くなってしまうのが当然だと思っていたが、どこにもいなかった。
まだ買い物をしているのか、探せない物があったのか、それとも迷子か。どちらにしてもアズウェルは溜息を吐いた。
リアレスがいないことに変わりはなく、まさか、置いて帰るわけにもいかない。
アズウェルは仕方がなく、しばらくそこで待つことにした。
だが、いくら待っても来なかった。
「……仕方がないなぁ」
重い荷物を持ち上げ、探しに行くことにした。
と、そこへ、誰かがアズウェルに駆け寄ってくる。
「そこの少年!」
「ん? はい?」
エプロンをつけた、どこかの店で店員をしているらしい男だ。どこかで会ったことはない。アズウェルは見慣れない人物に警戒をしながら言葉を待つ。
正直に言えば、早くリアレスを連れて戻らなければならないといけない為、しょうもない事であったら即座に離れようと考えていた。
「ええと、アズウェルくん?」
「そうですけど、何ですか……? 連れが居なくなったので探さなければいけないんですが」
「ああ、その連れの幼い少年から預かっている物があるんだ」
男は手に持っていた袋と紙切れを渡した。
袋の中には頼んでおいたリアレスの担当の物が入っており、紙切れはアズウェルがちぎった買い物リストであった。
「いやぁ、君がどこかへ行く前に気がついてよかった。じゃあ、確かに渡したからね」
「ちょ、ちょっと! その少年はどこへ向かいましたか!?」
店のことが心配なのか、すぐどこかへ行こうとする男を慌てて引き留めた。
リアレスは買い物を放り出して一体どこへ行ったというのか、アズウェルには疑問だったのだ。
「さあね。……でも、なんだか慌てていたよ」
「……ありがとうございます。引き留めてしまいすいませんでした」
男は丁寧なアズウェルに笑顔で手を振って居なくなった。
残されて、人が行き交う中、アズウェルはぽつんとたたずむ。考えて、考える。人々は道の途中で立ち止まるアズウェルに対して怪訝そうな顔で通り過ぎていったが、そんなこと気にすることが出来なかった。
そして、アズウェルは一つの可能性に行き着く。
「……帰らないと」
重たい荷物を手にしっかりと握りしめ、アズウェルは走った。
人々はただ、夕食や明日の朝食などの買い物をしているだろう。それなのに、それだけなのに、アズウェルには行く手を阻むようにしか思えなかった。
買い物を放り出して何をしているんだという怒りよりも、恐怖が勝る。リアレスは活発でいろいろやらかすような奴であるが、頼まれたこと、それも母親であるルーセの頼み事を中途半端にする事はなかった。
それを知っているからこそ、アズウェルは恐怖した。
なぜか思い出すのは、7年前のあの日。
アズウェルはそれを払拭するように頭を振り、走る。
「いつもの発作か、着く頃には収まっていると良いけど……。それ以外、じゃ、ないよな……」
誰かに違うと言ってほしくて、呟いてみるが勿論誰からも返事はない。
自分でも何をやっているんだと言ってから思うが、誰かに縋りたい思いに気がつくと溜息しか出なかった。




