-81:オウカコ12-
「……何で、なぜあなたが、どうして!」
「ジェルド、お前はまだ、私の下で剣を振るっていれば良かったのだ」
かつての師、メリケン・マルドゥックがそこに立っていた。
剣は鍔迫り合いの末、両者が互いに距離を取る形となる。
「ジェルド、そこまでだ」
「お父さん……!!」
騎士であればいろいろな状況に置かれることがあるし、いろいろな場面を見る。
ジェルドはまさか自分がそうなるとは思っても見なかった。
「……リトラス」
ファスタシアが横につれているのは大好きな息子だ。愛する息子だ。
「メリケン、ご苦労だった。リトラスがこちら側にいれば、ジェルドも手は出せまい」
ジェルドはルーセが上手いこと隠してくれていたのだと思った。自分が戦っている間にどこかへ逃げていてくれればとも思った。
まさかメリケンまでファスタシア側についているとは考えもしなかったため、この状況は想定していない。ジェルドは悔しさに唇をかみしめた。
「ジェルド、安心しなさい。リトラスは我々が保護し、育ててやろう。対価として実験に参加してもらうだけだ。なに、悪いようにはしないさ」
笑みがこらえきれないのか、ファスタシアは薄く笑っていた。
その光景を見て、誰が彼の言葉を信じられようか。ジェルドには出来ない。
もし、このままリトラスを渡してしまえば、何をされるか分からない。今までよりも辛い事しか考えつかないのだ。
もっと言えば、この国を揺るがしかねない事態が起こる。
「さて、どうせ何も出来ないのだ。行くぞ、メリケン」
いやいや引っ張られていく息子をジェルドは見るしかなかった。
ここで後ろからファスタシアを切りつけても良いが、メリケンがいる為、防がれる可能性が高い。さらに、リトラスがあちら側にいるとなると手を出して何をするか分からない恐怖もあった。
「……返せっ!!」
そこに飛び込んできたのは小さな黒い塊。
リトラスに突っ込んで行ったかと思えば、そのままゴロゴロと転がり、ジェルドのすぐ傍で、壁にぶつかり止まった。
その場にいる誰もが一瞬で何が起きたのか理解できない。時間が止まったかのように、少しの間誰も動かなかった。
「いってぇ……」
「うぅ……」
ゴロゴロと転がった勢いそのままに壁へとぶつかったのだ、痛いに決まっている。頭を抑え苦い表情を浮かべていたのは、リトラスと良く似た男の子。
「リアレス……!? お前どうしてここに……!? いや、それより、こっちに来い!」
飛び込んできたのはリアレスで、手にはいつも使う木刀を携えている。
リアレスは頭を抑えながら、リトラスの手を引いてのそのそとジェルドの傍に寄った。リトラスを庇うようにしてリアレスは木刀を構える。
「……さすが私の息子だ。よくやった」
「俺も騎士になるんだから、当然だよ」
ニヤリと笑う。ジェルドもつられ、親子揃って同じ顔になる。
「くそ、あのガキ! メリケン捕らえろ。生死はこの際問わん。あの子供の血液さえあれば最低限目的は達成する」
目の色を変え、ジェルドたちを睨んだ。メリケンやその周りの賊に指示し、どうやってもリトラスを連れて行こうと必死だ。
「リアレス、お前は無理するな。離れるなよ」
先ほどまで笑顔でいたリアレスだったが、さすがに剣などの武器を手に持った大人たちが襲いかかってくると泣き出しそうになって一歩下がる。
戦力差、体力差、戦う上で勝てるものがリアレスにはまだない。無理に前に出過ぎてしまうことは避けたいと、ジェルドは考える。
だがさすがにメリケンを相手にしながら、賊ともやり合うのは難しかった。
「くっ……! リアレス、右!」
メリケンの攻撃を抑えながら、賊が仕掛けてくる攻撃に対してリアレスに指示を出す。
リアレスは、小ささを生かし、脚のすねを狙いながら木刀を振るう。
「クソガキ!!」
「リアレス、戻ってこい!」
攻撃を繰り出した後はすぐに戻る。
「……っく」
メリケンの攻撃を払うと、小さなダメージを受けた賊へ攻撃し、戦闘を続けられないようにする。
ジェルドたちはそれを繰り返しながら何とか守っていた。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「父さん、大丈夫?」
「リアレス。お前は?」
「大丈夫」
さすがにジェルドは指示を出し、リアレスの動きに注意をしながら、メリケンや賊を相手にして体力を削られていた。
息が段々と整わなくなり、足も上手く動かせないでいる。
「さすがに辛いなぁ。くそ、何で減らない」
確実に倒していっているはずであるが、賊数はいっこうに減らず、手を煩わせた。
「メリケン。いつまで待たせる」
「……承知」
メリケンは床を蹴り、ジェルドを投げ払うように剣を振るった。
横から来る痛烈な一撃に、ジェルドは立ったまま受け止めることが出来ず、吹き飛ばされる。化け物かと疑いたくなるようなメリケンの攻撃にリアレスも驚く。
「うぐぁっ」
低いうなり声が漏れた。
そして、ぼやけた視界に写るのはリアレスの背後に近づく賊の姿だった。
「……リア……レ……ス……!」
ジェルドは壁にもたれ掛かりながら立つので精一杯だ。そして、その叫びは聞こえない。
「あばよクソガキ!!」
「リアレス……!!」
視界が赤に染まる。




