-80:オウカコ11-
ジェルドは家に帰ってきて目の前にある光景に目を見張った。
そして、ゆっくりと腰から剣を抜く。
「これは、どう言うことですか」
鋭い眼差しが向けられた相手はニヤリと笑う。
その相手の足下には見慣れた姿が転がっていた。
「何をした!」
「あまり怒るな、ジェルド。少し気を失っているだけだ。暴れられては困るのでね」
「……ファスタシア殿、ご説明をお願いします。私には全くこの状況が分かりません」
ジェルドが家につくと、待っていたのは妻の愛する笑顔でも、息子である双子の片割れでもなかった。
奥にいるファスタシアと他に10人いるであろう。しかも、それぞれが手に剣やなにやらと武器を携えており、身なりはまるで賊のようだ。
「お前の息子、リトラスと言ったか? 面白い力を持っていると聞いたが、見せてもらえないか」
その言葉に息が詰まった。
なぜそんなことを知っているのか、なぜ確信したかのような表情で言っているのか、ジェルドは混乱する。
「ずいぶん驚いているな。私とて何も知らないわけではない。これくらいの情報容易い。ましてや、この女の事だ。お前たちについてはアンテナをいつもはっていたからな」
「それが何です。このようなことをされる事にはならないはずです」
ジェルド剣を握りしめながら、そして、ファスタシアの前に倒れるルーセを視界の端にとらえながら言った。
「では、用件を言おう。リトラスを渡しなさい」
「なぜ」
「〈アルセア〉の為だ。それにリトラスの為でもあるんだぞ?」
〈アルセア〉という言葉にピクリと眉が動く。ジェルドは瞬時に国の名前としてそれを使っているのではないことを理解した。
「何がリトラスの為だ。あなたのためでしょう」
「リトラスは苦しんでいる。それは力が完全ではないからだ。おそらく“生”の力がリトラスは強い。なぜ、〈神仕え〉は生と死の力か分かるか?」
ファスタシアは段々とジェルドに近づいてくる。
「神の力であるから、という答えは正確ではない。バランスをとっているのだ。死の力は生を奪い、生の力はその奪った生を与えているだけに過ぎない。ただ、お前の息子はバランスが悪い」
そして、目の前まできて口の端をつり上げた。
「力が暴走し、ところかまわず生を与えている。だが、それはどこから来る生なのだろうな」
「……まさか」
「そうだよ。あるのは自分の生だ。つまり、リトラスは暴走する力のせいで自らの命を削っている。さあ、このままではリトラスは死ぬ。私に渡せば、長生きできるぞ?」
ファスタシアはジェルドの耳元で囁いた。
ジェルドは切り捨てたい気持ちをぐっと抑え、ファスタシアを睨みつけた。
「あの実験は二度とさせたりしない。だから、原因が分かった今、私の手で解決を探してみせる」
「なぜ分からない。〈神仕え〉が多数いれば、隣国も思うままだ。有益に使ってこそ、力なのだ」
ファスタシアは呆れたような表情をしてまた、ジェルドから離れていく。
「さて、もう一度言おう。リトラスを渡しなさい」
「……答えは決まっている」
ジェルドは剣を握りしめ、床を蹴った。
「断る!」
ジェルドはファスタシアの足下まで滑り込み、倒れていたルーセを抱えて滑っていき、ファスタシアたちか距離を取る。
ルーセを背に庇うようにしてたち、剣についた血を払った。
「通り際、切らせてもらった」
数人が手から血を流し、眉間にしわを寄せてジェルドを睨んだ。
「……覚悟しろお前たちが相手するのは第105代アルセア国騎士団の長、ジェルド・トランだ」
ジェルドは真っ直ぐに剣をファスタシアに向けた。
普通ならば、王国分家のキューズ家当主にこのようなことをすれば死罪にとわれることもある。しかし、今はそれどころではない。
「ジェルド、惜しいよ。君のような優秀な騎士をなくすのは実に惜しいな」
「戯れ言を。そう言いながらあなたはスラクスも切ったのでしょう?」
「やはり、話していたか」
否定しないファスタシアに剣を握る力がこもった。
──ジェルド、お願い。アズウェルだけは死なせるわけには行かない。スラクス家は目を付けられた。だからこの子だけでも……。
あの日頼まれ、アズウェルは守ることが出来た。しかし、ジェルドの力が及ばなかった為に救えなかった者も多くあった。
「キューズ家に付き従うことが多かったスラクス家のくせに、私の周りを嗅ぎ回りおって。おかげで〈アルセア〉が露見するところだった」
わなわなと怒りが沸き上がる。
「私は……私はあなたを許さない!!」
ジェルドは地を蹴り、ファスタシアに切りかかるが、前に賊が立ちはだかる。
数人がジェルドを抑えにかかるが、ものともせず、相手を切り裂いていく。
それは戦っているというよりも、踊っていると表現した方が正しいかもしれない。次々と賊を切り裂いていくジェルドの周りには赤い花びらが舞った。
だが、ある一太刀が阻まれる。
「……何で、なぜあなたが、どうして!」
「ジェルド、お前はまだ、私の下で剣を振るっていれば良かったのだ」
かつての師、メリケン・マルドゥックがそこに立っていた。




