-79:オウカコ10-
リトラスは日に日に元気をなくしており、ベッドから出た姿をリアレスはしばらく見ていなかった。
稽古が終わり、ジェルドとアズウェルは騎士団として、行ってしまい、リアレスだけが残された。
いつものトラン家後ろにある丘で稽古をしており、そのまま草原にただ座っている。立ち上がる木にもなれず、ぼーっとしていた。
「……リアレスか?」
声が聞こえ、ハッとする。
目の前にいたのは普通の子供であれば逃げ出してしまうような、鍛え上げられた身体の男だった。
「メリケンおじさん!」
「……その呼び方が出来るのはお前たちトランの双子だけだよ」
嫌ともいえず、ちょっとした抗議の言葉を述べてみるが、リアレスにはいまいち届いていない。証拠にリアレスは首を傾げて、メリケンを見上げている。アルセア国騎士団長を長く務めていたいたメリケンにこんなことが出来るのは普通ならあり得ない。
メリケンはジェルドの師匠でもあり、トラン家にも良く訪ねてくるので遊んでもらっていた仲だった。逞しい腕にぶら下がって遊ぶのが、最近のリアレスのお気に入りだ。
メリケンは50を過ぎたとはいえ、現役で上一位騎士を務めるだけある。子供のリアレスの遊び相手など軽いものだった。
「どうした、こんなところで」
「最近、リトラスの調子が悪くてさ、せっかく女神に選ばれたのにどうし──」
そこまで言ってリアレスは自分の口を自分の手で押さえた。
ルーセから誰にも言うなとあれほど言われていたのについ言葉に出てしまったのだ。いくら親しいメリケンと言えども、誰にも言ってはいけないことは親しさが関係ない。
やってしまったと言わんばかりに落ち込んだ姿に、メリケンは笑う。
「はっはっは。聞かなかったことにすればよいかな?」
「そうしてください」
これ以上一緒にいるとまた何かしゃべってしまいそうで、のそのそと立ち上がる。
「俺は戻ります。……メリケンおじさんはどうしてここに?」
「少し鍛えようかと素振りをしに来た。ついでにお前の顔も見られた良かったぞ」
「そっか、じゃあ、また会おうねメリケンおじさん。」
少し小さな木刀をまた握りしめてリアレスは丘をかけて行った。
「……わざわざ探りを入れる必要はなかったか」
メリケンはリアレスが見えなくなったのを見計らい、別の方向から丘を降りていった。
ある日、休日が重なったジェルドとアズウェルは一日中リアレスを含めた3人で稽古することになった。
もちろん終わった後には美味しいご飯が待っている。休日で全員揃うということもありルーセが張り切っていたのだ。
「張り切るのは良いがっ、その買い物をっ、稽古帰りに頼むとはっ、さすが私の妻だっ」
ジェルドが振り下ろすとびゅんびゅんと音が鳴る。
横で見ている2人もジェルドをまねながら木刀を振った。しかし、思うようにまっすぐ振り下ろせない。
「肩に力が入りすぎだ。楽にして、こう!」
「こう!」
びゅん。
「なかなか良いじゃないか、リアレス」
にっと笑い、ジェルドはぽんぽんとリアレスの頭に手を乗せた。
リアレスはその手を払いのけると体勢を整え、ジェルドに木刀を振りかざす。ジェルドはその攻撃を読んでいたかのようにさらりとかわし、逆に木刀を突きつける。
「甘い」
「それはどうですかね!」
ジェルドがリアレスと対峙していると、今度は背後からアズウェルが攻撃を仕掛けてきた。
「連携とはやるなぁ」
ジェルドは関心しながら、腰に付けていたもう一本の木刀を抜き、アズウェルの一撃を受け止める。
「きたな!」
「2対1の時点でその言葉を言う資格はお前たちにない、ぞっ!」
ジェルドは力を込め、アズウェルを弾き飛ばし、リアレスにも軽く一撃食らわせる。
2人はほぼ同時に地面に尻餅をつき、ジェルドを見上げた。
2本の木刀を持って余裕綽々の様子が気に食わない。
「はい。買い物はお前たちで決定だ」
「えええ!」
「ふざけないでください師匠。元はといえばあなたが頼まれたのでしょう!?」
「強者に従え。それが嫌なら稽古が終わるまでに片膝でもつかせてみろ」
ニヤリと笑ったジェルドに2人は一斉に飛びかかった。
*****
「結局、こうなるのか……」
「もう少し頑張ってよ、兄貴」
顔やら腕やら肘やらに痣や細かな切り傷をこさえて2人はバグライドから出て、買い物に来ていた。
あれから何度もジェルドに向かって行ったが、全部受け流され、反撃を食らう羽目になったのだ。
歩くたび、少しずきずきとしたが、我慢して買い物リストを眺めながら買う物を探す。
「早く帰らないとルーセさんも困るだろうから、手分けしていくぞ」
「分かった」
アズウェルは買い物リストをちぎり、小さい方をリアレスに渡す。
「買い終わったらここで座っていろ。誰かに声かけられてもほいほいついて行くんじゃないぞ」
「分かってるよ」
「よし、じゃあ、また後でな」
リアレスとアズウェルは手分けして買い物を始めた。
リアレスに渡された買い物リストには、比較的軽い物しか書いていない。
「さすが兄貴」
感心して買う物を探し始める。
しばらくして、リアレスはぞわぞわと不安な気持ちが沸き上がってきた。なぜだかすぐに家に帰りたいような、そんな気持ちになったのだ。
「リトラス……?」
いても立ってもいられず、待ち合わせ場所の近くにある店の店主に買ったものやお金を預けてリアレスは急いで村に戻った。




