-75:オウカコ6-
「アズウェルも、随分と、力が……っと、強くなったな!」
早朝の澄み切った空気に木刀のぶつかり合う音が鳴り響く。
小鳥たちがさえずりながら、近くを飛んでいくが、音の大きさと激しさにびっくりしている。中には2人の勝負を見守るかのように木にとまっている鳥もいた。
打ち出す全ての攻撃を受けながらジェルドは感心しながら目の前の弟子に向かって言う。全ての攻撃を受けていながら、笑顔で居るのは経験の差である。
「私はっ、まだ、まだ、ですっ……! っわぁあ!」
一太刀反撃され、うまく受け止めることが出来ず、尻餅をつく。
「はははっ。14でここまで出来れば上出来だぞ、アズウェル」
「いえ、まだです。アルセア国騎士団長を倒すのが目標なのでっ!」
笑って余裕綽々のジェルドにアズウェルは再び切りかかる。
だが、アズウェル力いっぱい振り下ろす木刀をジェルドは軽くかわしてしまう。仕掛けた側はバランスを崩して顔面から地面に倒れ込んだ。
地面を転がり再び立ち上がろうとしたアズウェルの目の前に尖った木刀の先が突きつけられる。
「俺の勝ち。……鼻血出てるぞ」
「……っ大人気ない! 師匠大人気ないです」
「大人気あってもお前怒るじゃないか。手を抜いてるとか何とか。俺が師匠のメリケン殿と稽古していたときはずっとこんな感じだったぞ」
鼻血を手で拭うと、横から柔らかい布で鼻を押さえられた。そのまま、ジェルドはアズウェルの鼻をハンカチの上からつまんだまま話を続ける。
「ふぁなたふぁちと、一緒にしないでくだふぁい」
「何言ってるんだ、お前だって立派なスラクスの息子だぞ。一緒だ」
そうは言われても不満なものは不満だ。大人と子供。ましてや、アルセア国の騎士団長と2年ほど前に見習いからようやく下二位に昇格した騎士とでは月とすっぽん。
アズウェルは不満たっぷりの表情でジェルドをじとりと見た。
「ははは。ま、俺が大人気なくなるのはそれだけ油断ならないからだ」
ジェルドは鼻をつまんでいない手でアズウェルの頭をぐしゃぐしゃとなで回す。ますます不満な顔になっているのだが、気づかぬ振りのまま頭をなでた。
「あ、兄貴ずるい!」
「……お父さん、兄貴、そろそろ朝ご飯」
そこにやってきたのは良く似た2人の幼い男の子だった。ジェルドそっくりで、どこからどう見ても親子だと分かるくらいだ。
2人の姿を見つけて駆け寄ってきた方は地面に置いてあった木刀を持ち上げ、ジェルドに突きつけて見せた。
「父さん、今後から俺にも剣教えて!」
「今朝起こしに行ったらぐーすかねてたじゃないか。一度起こしても、嫌だって言ってまた寝たくせに」
からかうような、馬鹿にされたように言われるとむっとした表情になる。
「今度から起きるんだよ」
「リアレス明日起きなかったら一日腹筋の刑だからな」
「絶対起きてやる」
木刀の重さに耐えきれず、下がってきていた腕を気力で持ち上げたリアレスはビシッとジェルドを見つめた。
さすがトラン家の息子だと感心しながら、起きられないだろうと考えてしまうジェルドである。
「……リ、リアレス、速いよ」
遅れてやって来た男の子はへなへなと地面にしゃがみ込んだ。
ジェルドはアズウェルに自分ではなを押さえさせ、慌てて駆け寄っていく。
「リトラス、大丈夫か?」
「ありがとう、お父さん。大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだよ」
リアレスとは対照的なリトラスは額に汗をかきながら笑って見せた。
心配して額に手を当ててみたが特に熱くもなく、ジェルドは一安心する。
身体があまり丈夫ではないリトラスは少しのことでも命取りになることがある。生まれたばかりは別に普通であったが、2、3年前から段々と身体の調子が悪くなっているようだった。
「リトラス背中に負ぶされ」
「お父さん、大丈夫?」
稽古した後だったために、疲れていないかと心配しているのだ。
「リトラス、大丈夫だよ。師匠は細身だけど体力と筋力はメリケン殿にも負けないくらいの化け物級だから」
「おい、アズウェル、師匠を化け物呼ばわりとはどういう……ぐえっ」
リトラスが背に乗ろうと、服をぐいっと引っ張ったために、ジェルドの首が締まった。
「ご、ごめんなさい」
「はは、大丈夫大丈夫。よし、今なら良いぞ」
気を取り直して、背中に乗った。
ジェルドはその軽さにやはり、心配になる。何度も乗せたことがあるが、段々と軽くなっていくような気がして怖くなった。
そんなことを考えているとはつゆ知らず、ジェルドの背中に重さが追加される。
「俺も!」
「こら、リアレス! 背中は、危ないから!」
急に乗ってこられてバランスが取れず、フラフラとする。
「乗るなら前に来なさい」
「さすが師匠」
双子の息子たちにサンドイッチされた姿にそう言わずにはいられなかった。
アズウェルは使った木刀を持ち、ジェルドと共に朝ご飯が用意されている家へと帰る。
「国王陛下も世継ぎを早く生めばよいのにな……」
「次期国王が心配だからですか?」
「違うな、アズウェル」
ジェルドはサンドイッチされながら呟いたので、アズウェルはすかさず尋ねる。
「自分の子供がいることは力になるし、何よ嬉しいからな」
「ふーん」
まだ遠い話であると感じたアズウェルは何となくの返事しかできなかった。
「父さん、むずかしい話?」
「ん? うーん。まあ、そんな感じだ。お前たちも大きくなったらちゃんと知っていくんだぞ」
ジェルドはくるくる回ったり、飛んだりしながらいつもの帰り道をハラハラドキドキの道に変えていく。
笑い声がバグライドの村の方まで聞こえていた。




