-74:オウカコ5-
すっかり日も暮れ、暗闇に包まれていたが、1つの小さな光が射す。
生まれたのは可愛らしい女の子であった。黄緑色の澄んだ瞳は王妃のそれを受け継いでいる。
新たな命に数少ない者たちは祝福の言葉を述べた。1人1人がたくさん言葉を送った。それがせめてもの償いであるかのようだった。
「トイズに守りは任せる。ルーナとスタートルテ夫妻と共にリスターへ向かってくれ」
王は子を抱きしめ、忘れることないようにその目に焼き付けてから周りにいるこのたちに指示を出した。
「お言葉ですが、国王陛下。スタートルテ夫妻とやらは信頼できるのですか?」
髪の毛があまり整っていない男が鋭い目で王を見る。
「彼らは私の友人とも言える者たちだ。安心して良い」
「……そうですか、分かりました。では、我々は早速向かいます。スタートルテ夫妻を呼び、下で控えておりますので挨拶が済み次第いらしてください」
王はゆっくりと頷く。
視界には可愛らしく、か弱い赤ん坊が写る。自らの手で育てることがかなわないと知っておきながら、実際にその目で見るとどうしても、離したくないという思いが勝った。
王は王妃と生まれたばかりの赤ん坊を一緒に抱きしめる。
「……トラップ、来なさい」
「はい、父上」
トイズ家の2人が出て行くと王は覚悟を決めたように王妃を見る。
強い力を持って生まれ、〈アルセア〉があったからこそ、小さな命を離さなければならない。2人はどうしようも出来ない過去を悔やんだ。強い力でなかったら、〈アルセア〉など行われなかったら、そのような考えが頭から離れない。
「ルーナ。いつか、力に目覚め、対抗する力が出来たら、必ず……」
「立派になってまた私たちにその姿を見せておくれ」
しっかりとその子を抱きしめ、感覚全てで我が子を感じ、王は王妃から赤ん坊を抱き上げた。
まだ、出産の疲れが残る王妃を置いて、部屋を出る。一歩一歩前に向かう歩みとは逆に気持ちは後退して行くばかりだ。
「……もう少し長くても良かったのでは?」
スタートルテ夫妻とトイズ家の2人が既に下で待っていた。
「いいんだ。あまり長い間離さないで居たら、もう、離してしまいたくなくなりそうだ。それに、あなたがたに迷惑がかかる」
「分かっていただけているようで、良かったです」
それだけ言うと男は用意されていた馬の方へ行く。その息子も王に頭を下げ、すぐに男を追っていった。
「迷惑だなどと思っていませんよ。本当に大丈夫ですか?」
「ええ、私もです。これから長いのですよ。無理は良くないわ」
夫妻は優しく、王を心配した。
その心が嬉しく、そして、悲しさを余計に引き出してしまいそうになる。何とかしてその気持ちを抑え、王は赤ん坊を夫妻の腕の中へそっと渡した。
「くれぐれも、ルーナをよろしく頼むぞ」
「……勿論です。国王様」
力強く頷き、赤ん坊を抱きしめる。
王は無くなった温かさを噛み締め、深く礼をした。
頭を下げられた夫妻は慌てて頭を上げるように言ったが、それでもやめることはなかった。その思う気持ちの強さに夫妻は驚く。
「……そこまで、思っていらっしゃるとは」
どこか苦しそうな声がぽつりと聞こえた。
「……?」
不思議そうな顔と目があったスタートルテ夫妻は慌てて笑顔になり、心配し過ぎることのないようにと王を気遣った。
やがて、夫妻は馬車に乗り、宵闇の中を走り去っていったのだった。




