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Mad Clown  作者: 彼方わた雨
chapter 6 ~過去と過去~
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-72:負う過去4-


 リアレスの目に写る聖都の光景は眩しくて、羨ましいものだった。時折、聖都に戻るたびにそんな感情が心のどこかで生まれる。リアレスはそれが嫌いだ。

 〈アルセア〉なんて実験が無ければ、そもそも前王が違う人間だったらと考える。そんな世界があれば自分の隣には別に誰かが居てくれたのではないかと考えてしまうのだ。

 聖都を見渡せる場所で、リアレスは1人ぼーっとしていた。


「そんなところでぼーっとして、何が楽しいのですか? 全く、もう大人と呼ばれる歳になったのですからちゃんとして欲しいものですね……。まあ、あなたはもう少し子供時代に子供らしくあるべきでしたが」


 背後から聞こえる調子のいい声にリアレスは溜息が出る。わざと大きく聞こえるようにしていたため、声をかけてきた人物は「失礼ですね」と言った。


「トラップ、ちゃんと調べてきたのか」

「ええ勿論。15年前からデイルは居たようですが、最近のデイルとは違うようですね。あなたが考えている通りの結果だったようですよ。この紙にダグライの情報が書いてありますのでそちらも参考にしてください」


 ぴらりと一枚のメモをリアレスは受け取った。軽く目を通し、ポケットに入れる。


「ダグライはどうした」

「疲れたので休むそうですよ。今日明日にはパワグスタに戻ると話していましたし」

「会ったら礼を言っておいてくれ。ルクスヘルデにもな」


 トラップは自分で言えばいいのにと思いながらもその頼みを聞くことにした。


「……それにしても、そうか。残念だ。良いように使われたものだな」


 リアレスがそう言うと、トラップは抗議の目を向ける。


「あなたがそれを言いますかね? 年上だというのに敬語も使わず、呼び捨て、挙げ句情報収集させて……」

「お前の方が俺よりも情報を集めやすいだろ。適材適所だ」

「敬語は」

「敬語というのは尊敬する相手に使う言葉のことを言うのだろう?」


 トラップは笑顔でリアレスを見る。心の中ではリアレスに殴りかかっていた。我ながらトラップは自信の自制心に拍手を送りたいと思う。


「気持ち悪い奴だ。少しは感情を表に出した方が良いんじゃないか」

「あなたに言われたくはありませんよ。あなたは感情も考えていることも一切分かりません。本当に嫌なガキだと私は思いますよ」


 トラップは淡々と言うが、明らかに言葉の中には棘がある。しかも、分かり易い。


「俺の考えている事なんて分かりはしない。俺は変な状況下で育ってきたしな」

「私も似たようなものですよ。トイズ家当主でありながら、国を揺るがす義賊紛いなことをしていますし。私こそとんだピエロ」


 ケラケラ笑いながら、トラップは自嘲気味に言う。


「まあ、でも、あなたよりは普通の生活を送っていましたね。そろそろお嫁さんを迎えて私も落ち着きたいものですよ。早くしないと、私、王様に選ばれる危険もありますからね。その点は私の父を尊敬します。早々に結婚をして回避するとは流石でしたね」


 父の行動力に感心しながら自身はどのように回避しようかと考えを巡らせる。

 現在、キューズ家にはファスタシアの娘が1人居るだけで、分家の中で男はトラップ1人となっていた。ルーナが王女であることが知らされれば、トラップは王候補筆頭となる。


「……お前が王になったら各地で反旗を翻させようか」

「暴力でものを言わせようとは、流石あの方の血を引いているだけありますね」


 リアレスはトラップをじろりと睨む。その視線は普通であれば背筋が凍り、すぐにでも距離を取りたくなるようなものだったがトラップはそれを正面から受け止めていた。


「おや、怒っているのですか? 事実でしょう。どのようにしてあなたが知ったのか分かりませんが、これは変えられないことです。そこのところよく理解した方がよいですよ? いくら国がひた隠しにしようと、知っている者は知っている。さらに言えば、これから知る人間も多くいるのではないですかね。キューズ家は特に〈アルセア〉に関わっていますから、国王陛下が知らないわけがない」


 リアレスはトラップの横を通り過ぎ、その場から離れていく。

 リアレスはその場にいたくなかった。事実である事は受け止めているが、腹立たしいものは腹立たしいのだ。


「行くのですか?」


 少し離れたところに立ち止まるリアレスの背中をトラップは見つめる。


「俺が終わらせる」

「今日一度に終わらせた方が良いと思いまして。クリスタスの少しはずれの別荘にあなたが会いたいと思われる人物も呼んでおきました」

「準備が良いな」

「一方を片づけたくらいに丁度よく着くと思いますよ。セルトラリアからの距離で時間を計算するとそれぐらいになりそうかと」


 返事もせずそれだけ聞くとトラップの見つめていた背中はどんどん小さくなっていった。


「さて、私も城に行ってきますかね」


 トラップはもう一度リアレスが消えていった方向を見た。

 日が真上にあり、じりじりと照らしてくる。風邪が通り抜けると心地よくトラップの肌をなでていく。


「先に裏切ったのはあなたですから」


 風とともに流された言葉は誰にも届かない。




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