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Mad Clown  作者: 彼方わた雨
chapter 6 ~過去と過去~
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-71:オウカコ3-


「おや、驚きだね」


 ジェルドとアズウェルが廊下に出ると、ちょうど1人の男が現れた。


「ファスタシア殿……!」


 ジェルドは慌てて道を空け、頭を下げた。男はその様子を見てニコリと微笑む。

 男はファスタシア・K・キューズ。永久投獄された前キューズ家当主に代わり家を支えている人物であった。また、分家であるトイズ家当主が既に結婚してしまったこともあり、王妃の婿候補、つまり王候補とされている。ただ、王妃と年齢が離れすぎているなどの要因からファスタシアの弟が第一候補と言われてもいた。

 ファスタシアはアルセア・帝国戦争で〈アルセア〉にも関わったとされている。10代後半にして実験への関与は異例とされ、実験の内容は決して許されるものではないが、一目置かれていた。


「……その子供は、スラクスの息子か」

「はい」

「スラクス家は我が家が信頼する騎士であるから、心苦しい。今回はお前も心を痛めているだろう。その子の母親は確かお前の姉ではなかったか?」


 ジェルドは一瞬固まり、ファスタシアの顔をじっと見つめた。ファスタシアは見られていることを気にせず、ジェルドの言葉をただ待っている。


「……はい。この子の母、ジュリア・スラクスは確かに私の姉でした」

「それは気の毒だったな」


 ジェルドはその言葉に手を握りしめた。ジェルドの後ろに隠れるようにしていたアズウェルはその握られた拳が小さく震えていることに気がつく。ちらりとジェルドの表情を伺うが、アズウェルにはいつもと変わりないジェルドの姿が写っていた。


「……そう言えば、お前に双子が生まれたと聞いた。今度お祝いに伺おうと思っているのだ」

「わざわざファスタシア殿に来ていただくなど申し訳ない。お気持ちだけで十分です」

「私が行きたいのだ。その子供の様子が、気になるのでな。何せ、お前とあの娘の子だからな」


 ファスタシアはニヤリと笑いながらジェルドを見て言う。


「……何が言いたいのですか?」


 ジェルドはその言葉に対し、低い声で返した。


「何を怖い顔をしている。良い騎士を出す家の子だから見てみたい、と言うことだ。将来この国の為に尽くしてくれるのだろうからな。それとも、別な目的が私にあるとでも言いたいのか? ジェルドよ」

「いえ。……ファスタシア殿と比べたら私は顔が整っている方ではないので、私に似ている息子たちを哀れみにくるのかと思いまして」


 ファスタシアは一瞬きょとんとした後、笑い出した。


「はははっ。面白いことを言うな、ジェルドは。その件については心配していない。お前も十分整った顔をしているし、何より母親が美人ではないか」

「安心しました」

「ではな、ジェルド。顔の良いであろう息子たちによろしく言ってくれ」


 ひとしきり笑ったと思ったファスタシアだったが、ジェルドたちの前を去る時も笑っていた。ジェルドも釣られて笑顔を作るが、ファスタシアの姿が見えなくなると表情を変える。

 ジェルドはアズウェルを促し、家へと帰ることにした。


 数日後、スラクス家襲撃事件の犯人が捕まったとの知らせが届いた。犯人たちは反キューズ派で王候補がキューズ家の他、居ないことに不満を抱いていたという。そこでキューズ家の守りを削ろうと騎士のスラクス家を襲撃した。

 キューズ家は反対するのであれば、直接話し合う場を設けると知らせ、このような事件が無いようにすると決定。その行動力に人々は感心し、国民たちの間ではキューズ家を支持する者が増えた。そして、ファスタシアが王になるかもしれないと噂されるようになる。

 だが実際、王妃が18歳になった時、彼女が選んだのはファスタシアではなく、その弟であった。一時はファスタシアが王候補から外れたと思われていたにも関わらず、国民たちの中には残念に思う者もいたのだ。

 逆に城では意義を唱える者は一切居なかったのだが。


「宰相殿もこれで一安心だな。今までほとんど1人で頑張っておられた。キューズ家から王が出るのは少し心配ではあるが」

「はあ、トイズ家当主が早々に結婚したからな。全く、王への執着が無さ過ぎるのも問題であるぞ」

「キューズ家にファスタシア殿以外がいて、助かった。あれが王になったら、また、歴史が繰り返されるやもしれん」

「前王に付き従い、若くしてあの実験に関わっていたしな。だがまあ、弟は大丈夫であろう」


 議会の貴族の者たちは婚礼の式後、開かれた宴で仲むつまじい王妃と新王を見て話をしていた。


「……議員の皆様、この様なところで立ち話はお控え願います。誰に聞かれるか分かりませんよ」


 その声に今まで話をしていた貴族たちがぴたっと話をやめ、声の主を恐る恐る見る。


「ジェ、ジェルド上三位騎士……!」

「失礼かとは思いましたが、内容が内容でしたので」

「そ、そうだな。……忠告、感謝する」


 騎士の正装で身を包み、胸元には新しい上三位騎士の騎士団章をつけたジェルドが現れたことで緊張感が増した。

 ジェルドは内心、それくらい分かって欲しいと思ったが、キューズ家が〈アルセア〉に深く関わっていたのは事実である為、貴族たちの気持ちも何となく分かる。


「おお、後ろにいるのはスラクスの子か! 最近ジェルド殿と共によく精進していると聞く。いやぁ、実にたくましい!」


 貴族は話題を変えようと、ジェルドの後ろにいた少年を見て名案を思いついたかのように声のボリュームを上げて話す。

 アズウェルは一歩前に出て、貴族たちに頭を下げた。


「お褒めいただき光栄でございます」

「来年正式に入団するのかね?」

「はい。騎士見習いとして、団の訓練所でさらに力を付けたいと思っています」


 貴族たちはアズウェルのしっかりとした様子に驚いていた。


「しっかりした子だ……。師匠も鼻が高いな」

「そうですね。良くできた弟子です」

「2年前のあの事件は残念であった。亡き両親に恥じぬ、立派な騎士になることを期待しているよ」


 それだけ言い残すと、貴族たちは宴の中央に行ってしまった。


「アズウェル、疲れていないか? 本当は無理に来なくても良かったんだぞ」

「いえ、私は一応スラクスの当主ですし……」


 アズウェルは「それに」と付け加える。


「師匠が酔いつぶれないように見張っています」

「おい、お前……。はぁ、ルーセか。ルーセに何か吹き込まれたな」


 10歳にも満たない少年にそのような心配をされると、自然とジェルドは盛大な溜息を吐いてしまう。

 アズウェルはくすりと笑い、しっかりした様子だったが、その姿は少年らしかった。


「心配なんですよ、師匠のことが。なので私頑張りますよ」

「何を頑張るつもりだ、アズウェル。全く、我が愛する妻にも困ったものだな……」


 困った顔をするジェルドにアズウェルはさらに笑う。現在、騎士団長に迫る勢いで、次期アルセア国騎士団長と噂される騎士自信の妻や弟子にうろたえる姿がアズウェルには面白かったのだ。


「……アズウェル、ここに来たのだからよく見ておくんだ。新しい陛下はあの方だ。お前も騎士になると決めた身。我らが守るのはあの方の治める、このアルセアという国であることを忘れるなよ」

「……はい」


 うろたえていたジェルドだが、さすが騎士である。すぐに真剣な眼差しで王を見ながらアズウェルに語りかけた。アズウェルもつられて真剣な表情になり、一言言うだけでもその言葉の意味を考え、時間がかかる。結果、返事をするしかアズウェルには出来なかった。


 前王が倒されてから20年近くが経っている。この時ようやくアルセア国は新王が誕生し、新たな一歩を踏み出した。


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